1.入隊
久木 秀一は都内の高校に通う二年生である。
彼は先日、インターネットサーフィンでとあるサイトを見つけていた。
それは……。
その日、端正な顔立ちをした長髪の少女は、通っている高校に向かって歩いていた。
この少女、見た目は女子高生だが、その体は実は3Dプリンターで作られた着ぐるみなのである。
だが、ただの着ぐるみではない。
この着ぐるみは、どういう仕組みかは不明だが、生き物としての機能を備えている。
「はあ、高校行くのかったりいなあ」
と、少女は呟く。
「君!」
「え?」
声をかけられ、少女が振り返ると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
「君、可愛いね。うちでバイトしない?」
少女は思った。
スカウト?
「結構です」
少女は向き直って歩き出そうとするが、男性に肩を掴まれ、行手を阻まれた。
少女は男性を放り投げた。
吹っ飛んだ男性は落下時に受け身を取って立ち上がった。
(……!)
「やはりね。合格だ」
「は?」
「君のその武術の才能を買って、うちのチームに招待したい」
「チーム?」
「僕はACRのメンバーなんだ。うちのメンバー、欠員が出てね。新たに才能のあるメンバーを捜していたんだ。それで、君を見かけ、仕草を観察したところ、これはって思ってね。どうだい? うちのメンバーにならないかい?」
「どういう組織なんですか?」
「地球侵略を目論む宇宙人から地球を護ることを任務とする戦闘部隊だよ」
「おかしいんですか? あなた」
「おかしくないよ」
「そんな組織、聞いたこともないですけどね」
「表には出てないんだ。政府直属の極秘組織だからね」
「あなたの身体能力が通常ではないことはわかりました。ですけど、ヒーローごっこは他所でやってちょうだい」
「君のことは知っているよ、久木 秀一くん?」
「え!? どうしてそれを?」
「君が入っているその着ぐるみ、うちで開発したバトルスーツなんだ」
「嘘だろ!? これは俺がネットからダウンロードしたデータを元に3Dプリンターで製造した着ぐるみだぞ!」
「普通の着ぐるみに生体機能はないよ」
「……!」
「ちなみに、そのバトルスーツは君のために用意したものだ。僕らは事前に君の家のIPアドレスを調べておいてね。それをうちのサイトで君専用のページを開くように設定させてもらっていたんだ。他の人にはそのサイトは見れないから、バトルスーツの情報も漏れないようになってる」
「……組織に入らなかったらどうなるんだ?」
「それは……Need not to know、だよ」
「そうか。俺がその組織に入隊しないとどうなるかわからない、ということか」
「ご想像にお任せするよ」
「うまいこと言いやがって。いいだろう。乗ってやる」
「僕についてきて」
少女は男性にACRの秘密基地へと案内された。
「ここが組織の基地だ」
室内はウルトラマンの防衛基地のような造りである。
「ここはね、某特撮ヒーロー番組で使われたセットをイメージして作ってあるんだ」
「そうなんだ……」
「あまり興味がなさそうだね。そんなことより……」
「長官」
と、男性隊員が男性に声をかけてきた。
「その子が無線で言ってた?」
「そうだよ。久木 秀一くんだ」
「中身は男なんですよね?」
「そうだな」
「萌えないですね」
「ノートPC燃えてるぞ」
長官と呼ばれた男性がテーブルの上のノートパソコンを指差した。
「うわああああ!」
男性隊員が上着で火を消そうとする。
「なんで燃えたんだ?」
長官の問いに、男性隊員は答えた。
「ファンの調子が悪いからだと思います」
「手入れはちゃんとしておけよ」
「すみません」
長官は少女の方を向く。
「君のコードネームを決めたい」
「聡美で」
「聡美か。いいだろう。その姿の時はそう名乗るんだ」
「あなたのことは長官と?」
「そうだな。そう呼んでくれ」
「わかった」
聡美は頷いた。