第二話 秘宝「ジェタクの果印」(3/11)
「えーっと、この中には……。昨日、収穫した野菜が入っています。そうですね、ヒトカジリナスビとかですね」
「ヒトカジリナスビ? なるほど、ヒトを齧るほど凶悪なナスビなんだな!!」
俺は一人納得した。
考えてみれば当たり前のことだが、こんなか細い少女が自分で戦えるはずないのだ。だから、麻袋から特殊な作物を出して、それを武器に戦うのだろう。ヒトカジリナスビというからには、モンスターのようにひとりでに動き回って、人を食べてしまうのだろう。
「いえ、ヒトがカジったような、形の悪いナスビですけど」
「ああ……ヒトがカジったような形の悪いナスビ……ヒトカジリナスビね……」
収穫したものの商品にならないものだろう。要はスーパーのおつとめ品コーナーで、よく見かけるやつだ。
「見た目で判断したらかわいそうですよ? 美味しいんですから!!」
がっかりした俺を見て、ミーノが力強く言った。
「他には?」
俺は気を取り直していった。まさかあの袋にナスビが一本だけ入っているわけではないだろう。
「そうですねえ、ほかのものでしたら、バクダントマトとか」
「きたきた!! そういうのだよ、そういうの!! バクダントマトと言うからには、投げれば爆発するような特殊なトマトなんだろ!!」
いよいよ冒険者らしくなってきたぞ、と思った。
「いえ、バクダンみたいに大きいトマトです!! トマトは今年一番出来がいいんですよ!!」
「はあはあ、バクダンみたいに大きいトマトで、バクダントマトか……」
そりゃあ豊作なのは結構だけど……。
「ひとついかがですか?」
ミーノは麻袋のヒモを緩めて、トマトを取り出した。滑らかな円形をしていて、色が濃く、艶も良い。思わず齧りつきたくなるような美しいトマトだった。
「うん、あとで一つもらおうかな」
今食べたいのは山々だが、ミーノの前で、大切なトマトをお尻に突っ込むわけにはいかない。口が尻にあると食事も一苦労なのだ。
「あとは何が入ってるんだ?」
「あとは、ダクリュウ玉ねぎとか?」
「ダクリュウ玉ねぎ!? 投げると濁流が発生するとか?」
「いえ、涙が止まらなくなるんです」
涙が止まらなくなるから濁流玉ねぎか……。
「あとは火吹き大根とかあ」
「火炎放射器のようなモノ凄い大根かな?」
「いえ、大根おろしにすると、火を噴くほど辛いんです」
「知ってたよ!!」
そんなことだろうと思ってたのだ。分かってはいても、名前のスケールがでかすぎて、無駄に期待をしてしまう。
「でもでも、煮物とかにすると、とってもおいしいんですからね?」
俺は頷いた。
「ところで、そんな小さい袋の中によくそれだけ入るな」
俺は麻袋を指さして言った。
「これですか? これは転移魔法を応用して作られた袋で、異次元を通じて、うちの畑の収穫箱に繋がっているんです。だから、いくらでも入りますよ?」
「すげえな……。そこだけ異世界クオリティだな……」
俺が感心すると、ミーノは表情を曇らせた。
「むむ……。袋なんかどうでもいいじゃないですか。ヤグラ君は、袋なんか褒めて、わたしの作った野菜は褒めてくれないんですね……」
ミーノは下を向き、麻袋の端をぎゅっと握りしめた。
「そ、そんなことないよ!! ミーノの作った野菜も美味しそうだよ!!」
バカヤロウ!! 農家を前にして袋を褒めるバカがいるか。俺は自分を殴りたくなった。
それはメイクばっちりの女の子を前にして、ヒザ小僧を褒めるようなものだ。その場合、その子の膝小僧がいくら美しくても、それは言い訳にならないのだ。
「だって、さっきからトマトも食べたがらないし……」
「食べる食べる!! ミーノちゃんの作ったトマト食べるよ!!」
俺はトマトを受け取ると、口元に持っていき、三角巾の下から、肛門に滑り込ませた。
「うん、おいしい!! 凄く美味しいなあ!!」
バクダンのように大きいトマトが、俺の肛門を押し広げる。これはマジに爆発するぜ……。うう……、帰ったらよく洗って、ちゃんと食べよう。
「他には何か作ってるのかな?」
俺は早急に話題を戻した。
「そうですね、あとはオバケカボチャの種とか」
「それは美味しそうだな。植えると、オバケみたいに大きいカボチャができるんだろう」
「いえ、この種を齧ると、カボチャのオバケに変身できるんです」
「ヘ?」
俺は自分の耳を疑った。
「だから、この種を齧ると、カボチャのオバケに変身できるんですよ」
それ……、なんか凄そうだぞ。
「カボチャのオバケは強いのかな?」
「うーん、野犬を追い払うにはちょっと勿体ないですね」
ミーノの強さの基準は野犬を追い払えるかどうかなのだ。いまいちピンとこないが、今の言い方だとオバケカボチャは野犬より強いのだろう。俺のイメージではジャック・オ・ランタンのようなものを想像しているが、いざというときには使えるのかもしれない。
「じゃあ、なるべく戦闘は避けるとして、いざとなったらそれを使おう」
「はい!」
ともかく、こうしてパーティーの方針は決まった。
「じゃあ、行くぞ……」
「はい!!」
俺たちはタイマツを手に、薄暗い洞窟を覗いていた。ミーノの言った通り、山頂を超えて少し下ったところで、山肌がえぐれ、人が暮らせるような穴になっている。
ここにジェタクが住んでいたとすれば、近くにジェタクの果印があっても不思議ではない。まずはジェタクが住んでいた痕跡を見つけるのだ。
「何か見つかりましたか?」
「人が暮らしていたような痕跡はないなあ」
かなり奥まで進み、入口から差す光は小さくなっている。洞窟の出口はまだ見えないが、行き止まりになりそうな気配もない。
「そうですか……。ひとつ気がかりなことがあるんですよねえ」
ミーノはおっとりとした口調でそう言った。
「気がかりなこと?」
「昔、シリンキ山に遊びに行くと、いつもお母さんがこういったんです。山頂の洞窟にはオオムカデが住んでいるから、入っちゃいけないよって」
「オオムカデ!? それ今言うの!?」
俺は慌てて後ろを振り向いた。
ミーノは失敗を恥じるように小さく笑っている。
「えへへ、わたしったら……入る前に言わなくちゃ……」
「そうだよ!!」
タイマツの火が大きく揺れたのは、そのときだった。俺は恐る恐る前を向いた。足元の床が、まるで空港にある平らなエレベーターのように、動いているのだ。
「マジかよ……」
空港のムービングサイドウォークが俺の目の前で雁首を持ち上げた。オオムカデは目玉だけでも、俺の拳よりはるかにデカい。
シャーッ。
オオムカデがどこからかバカデカい音を発し、それが洞窟の壁を揺らす。その音と言ったら、まるで鉄工所の前を通ったようなのだ。
「逃げるぞ!!」
俺は入口を向かって走り出した。
後ろを振り返ると、オオムカデが物凄いスピードで追ってくる。到底、逃げ切れそうもない。
「ダメだ……追いつかれる!!」
オオムカデが俺の足に食らいつこうとしたとき、前を走っていたミーノが立ち止まった。
「ヤグラ君、私が時間を稼ぐから、逃げて!!」
ミーノがオオムカデの前に立ちはだかると、袋からオバケカボチャの種を取り出し、勢いよく齧った。




