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『異世界にて、我、叛逆者なり』  作者: サキカワユウスケ
11/13

第二話 秘宝「ジェタクの果印」(1/11)


「占い師ジェタクの果印?」


俺は膝に手をついて、前を歩くミーノを見た。険しい山道は運動不足の俺には相当キツイ。俺が立ち止まったのを見て、ミーノも足を止めた。

「そもそもジェタクって誰だ?」

「今からおよそ五百年前、ジェタクさんという偉大な占い師がいたんです。ジェタクさんは『占聖』とも呼ばれ、物凄い神通力を駆使したと言います」

「はあ……」

「剣聖」や「詩聖」という言葉はよく耳にするが、「占聖」なんて言葉は聞いたことがない。だが、まあ意味は何となく分かる。優れた占い師ということだろう。

「ジェタクさんは独自の占いを駆使して、あらゆる事柄をピタリと言い当てたんです。今年は雨が多いかどうか、その年は豊作かどうか、戦争に勝てるかどうか。その他、地震が起きるかどうかですとか」

「それも当てちゃったのか?」

俺は驚いた。現代の、科学技術をもってしても、地震の正確な予知は不可能と言われている。それをジェタクという人は、占いで当ててしまうのだ。

「言い伝えでは、そう言うことになっています」

「凄いな……」

「ジェタクさんの逸話は、他にもたくさんあります。あるときジェタクさんは、国王に頼まれて、退職を迎える臣下を辞めさせるか、制度を変えてでも登用を続けるべきかと聞かれたそうです」

「その臣下は優秀だったのか?」

「はい。国王の右腕とまで言われた重臣中の重臣で、当時の政策のほとんどはその人が一人で考えたそうです」

 当時の王国を支える政策大臣が退職を迎えた。このまま働いてもらいたいと考えるのは普通だろう。だが、そのためには制度を変えなければならない。制度を変えることに抵抗を感じた王は、ジェタクのもとに、どうするべきか聞きに行ったという。

「それで、ジェタクはなんて答えたんだ?」

「ジェタクさんは最高の秘儀を尽くし、三日間占い続けました。その結果は、否。その臣下を登用し続けるべきではないと出たのです。王様は怒りました。彼以上の人材はどこを探しても存在しない。そんな彼を辞めさせれば、この国は滅亡する。お前はこの国を滅ぼしたいのか。国王はジェタクさんを口汚い言葉で罵ったそうです」

「ちょっと待って。国王が占いを頼んだんろう? 自分から占いを頼んでおいて、その結果を拒絶したのか?」

「はい。王さまはそれくらいその臣下を信頼してたんだと思います。ジェタクさんの占いで、彼の優秀さが証明されると考えたのかもしれません」

「それで、どうなったの?」

「王さまはジェタクさんを王都から追い出しました。ジェタクさんは一言も反論することなく、王の命令に従い、都を離れ、この山に移り住んだと言います」

「はあ、この山にねえ……」

俺たちが登っているのは王都の南西に位置するシリンキ山だ。別に変ったところはない。特別霧が濃いとか、樹木が生い茂り、日の光が入らないということもない。最高峰の占い師が住んでいたとは思えない、普通の山だ。


「ですが、ジェタクさんの占いは当たっていました。その一年後に、例の臣下が国の予算を横領し、魔王マーグナアに献上していたことが分かったのです」


 魔王マーグナアはこの世界を一度は滅ぼしたという魔の世界の王だ。今は、最高クラスの冒険者の活躍によって、なんとか均衡を保っているが、魔の世界との戦は終わったわけではない。マーグナアに国の資金が流れていたとすれば、それは重大な戦争犯罪だろう。

「じゃあ、ジェタクの占いは当たっていたんだ」

「はい。国王はその臣下を処刑しました。そしてジェタクさんに謝って、街に戻るようお願いしたんです。ですが、ジェタクさんはその申し出を断り、生涯この山で過ごしたといいます」

「なるほど。それで、そのジェタクの果印ってのはなんなんだ?」

「結果の果に目印の印と書いて、カインと言うんです。簡単に言うと、占いの結果のことで、例えば、タロット占いなら、引いたカードに書かれていた絵ですとか、水晶占いでしたら、水晶の中に見えたものとかが果印と呼ばれるんです」

「ミーノ、よくそんなこと知ってるなあ」

「えへへ、実は私もさっき、冒険者の方々に教えてもらったんです」

「そういうことか」

 さっき集会所で、ミーノはクエストの準備をしていた冒険者と話をしていた。その冒険者たちは、魔獣討伐のため、このシリンキ山に向かう予定だった。

その魔獣討伐がメインクエストであり、サブクエストに「ジェタクの果印を見つけること」とあったそうだ。

 メインクエストをクリアしなければ報酬はもらえないが、サブクエストをクリアする必要はない。サブクエストはあくまでも「ついで」なのだ。

 そのためメインクエストの難易度が高いときは、最初からサブクエストを捨てることが多い。ミーノは魔獣を倒せるだけの力がないため、魔獣討伐に向かう冒険者に頼んで、サブクエストの下請けをしていたという。もしクリア出来たら、報酬の増加分を貰う。もしクリアできなくても、デメリットはない。

 先日ミーノと組むことになった俺は、そのサブクエストについてきた、というわけだ。


「それで、そのジェタクの果印ってのは、なんなんだ?」


「分かりません。ジェタクさんは自分の占い方法を、生涯、誰にも言わなかったそうなんです。だから、ジェタクさんの果印は水晶なのか、カードなのか……、はたまた全く違ったものなのかもしれません」

「その何かも分からない果印とやらを、この広い山の中で探すのか?」

「はい。だから、あくまでもサブクエストなんです」

それはいくら何でも難しいだろう。物が分かっていれば、まだ方法はある。だが、具体的に何のことか、分からないとなれば探す気も起きない。

「それで、方針は?」

「はい。やっぱり占いと言えば水晶ですから、山道に落ちている水晶とか、タロットカードを手当たり次第に拾っていこうと思います」

「山に水晶が落ちてたりするのか?」

「普通は落ちてませんね」

ミーノはそう言って困ったように笑った。

「そもそも何を占った果印なんだ?」

「はい?」

「だから、さっきの話だと戦争に勝つかどうかとか、臣下を首にするべきかどうかとか、占いにはテーマがあるわけだろう?」

「その、秘宝『ジェタクの果印』は何を占った果印なんだ?」

「それは分かりますよ!」

そう言ってミーノは果印の内容について話し始めた。



     第二話 秘宝「ジェタクの果印」(2/11)に続く。


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