プロローグ
「これ今日中にやっとけって俺何回言った?」
「……すいません」
…お前が指示し忘れたんだろ。さっき部長に聞かれて初めて俺に頼んできた癖に。
「ん? 俺別に謝れとは言ってないよね? 何回かって聞いてんの」
「えー……」
しばらく沈黙が続く。恥ずかしながら、こういう時にどう答えるのが正解なのか俺には未だにわからない。どう答えたって怒られるのは目に見えている。
「ハア……。もういいわ。お前もうこのプロジェクト外れろ」
「そんな! ……申し訳ありません、このようなミスは二度とないよう注意します、どうか勘弁してください!」
「うるせえ! 目障りなんだよ、出ていけ!」
「ッ……すみませんでした」
俺は精霊庁に勤務している中年精霊だ。精霊庁へは中途採用で入ったが、上司のフィンは自分より年上で仕事のできない俺を疎ましく感じるようで、何かにつけて俺に嫌がらせをしてきたが、今回のようなことは初めてだった。
それからしばらくすると、俺はささいなことで責任を押し付けられ、降格人事を食らって地方に飛ばされることになった。
「ひそひそ……。くすくす……」
異動のための荷物をまとめに来た日、誰もが俺をあざ笑った。誰も俺と目を合わせようとはしなかった。俺は逃げるようにその場を立ち去った。
という訳で今日、俺は転勤先に向かっている。転勤先は遠く離れた北の地、プルトだ。
「プルト行の竜車がただ今発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください。……プルト行の竜車がただ今発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください」
(いよいよ出発か。キールの街ともしばらく、いやひょっとしたら一生お別れだな。……くそっ、どうして俺はこんなにだめなんだろう! 多分プルトでもずっと上司に嫌われて過ごすんだろうな……)
「ここ、いいですか」
「あ、はい。どうぞ」
見ると、私の前に座ったのは女性だった。かなりの美少女だ。
(こんな子はきっと今後も上手に世の中を渡っていくんだろうな。俺も美少女に生まれればなあ……。まあ、何にしろ長い旅中隣にこんな美少女が来てくれただけでも目の保養になるし、幸いだな)
その目元が心なしか悲しそうなのはちょっと気になったが、そうこうしているうちにプルト行の竜車がゆっくりと動き出した。