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情報は突然に

 結局、ミクシロンは方針を変えずに、あの男の足跡を追い。アデルバイムは例の噂を調べると言う形になった。


 しかし、アデルバイムはと言っても、動くのはジェシーさんだけ、俺から持ち込んだ話でもあるし、俺はジェシーさんの補助として動くことにしたのだが。


「はー、やってらんねーっての」

「……やって下さいね。エフェットに報告しますよ」

「はーあ!やってらんねーってのッ!」


 危なかった、こっちについて正解だった。この人全くやる気が無い。


「大体何よ、人間とグミの中身を入れ替える?そんなの出来っこないじゃない?しかも唯のあんたの思い付きでしょ、はーやる気が失せるわー」


 ぶちぶちと全力で悪態を着きつつ、あてども無く街をさまよう。確かに思い付きのアイデアだが、あの時の恐怖を思い出せば、やってやれない話でもないと思う。


「はー、しかもついて来るのがこの山猿でしょ?どうせならジム様がよかったわー、そんなら100倍頑張れたね私」


 自分で言った事に深く頷くジェシーさん。うーん、何処までも正直な人だ。けなされているのに逆に好印象を得てしまう。


「でっ、ブラブラと歩いていますが、何か当てはあるんですか?」

「はっ?ある訳ないじゃない」


 そして全否定。元情報部とやらの人脈なりなんなりを駆使して探し回るのかと思いきやこの有様。一体どうしたものやら。


「アンタこそどうなのよ。その助教授とやらに詳しい話を聞いて無いの?」

「いや、ブラン先生も風のうわさで聞いたとしか」

「はー、やだやだ、王都くんだりまで来てどうしてこんな山猿とブラブラ散歩しなきゃいけないのよ」


 まぁ俺だってついさっき思いついたばかりのアイデアがそう簡単に実を結ぶ訳はないとは分かっているが、そこはもうちょっとやる気を出してもらえるとありがたい。

 俺は殴ったり蹴ったりすることは得意だが、人探しなどは不得意なのだ。


「大体良い?調査ってのは、念密な下調べを重ねて、重ねて、重ねた結果ようやくと実を結ぶ結晶なの。そんな素人の思い付きで喋るグミなんて――」

「ほう、あんたら喋るグミをお探しなのかい?」

「「は??」」





 薄暗い、人気無い物陰から掛けられたその一言に俺たちは凍り付いた。驚いて振り向いたその先には、薄汚れたローブを身に纏った如何にも怪しげな老人がそこにいた。


「おい、爺さん、それはどういうことだ?」


 俺の肩に乗るグミ助がぶるぶると緊張する。俺は警戒をしながらその老人に話しかける。

 すると、その老人は無言で手を差し出してきた。


「なんだ、何するつもりだ」


 俺が重心を落としつつ、そう問いかけた時、横からジェシーさんが一歩前に進む。


「馬鹿ね山猿、情報が唯で手に入る訳ないでしょ」


 そう言ったジェシーさんは、懐から金貨を取り出し、その老人の掌に握らせた。


「ひっ、ひひ。こりゃどうもお嬢さん」

「どうもは良いからさっさと情報寄越しなさいな」


 ジェシーさんは蓮っ葉な物言いで老人に話を促す。その慣れた手さばきに彼女の本職、その切れ端が見える。


「ひっ、ひひ。分かってますって嬢ちゃん。こんだけもらえたんだ、正直に話すさ、そうさなスラムの方へ行ってみな」


「スラム?」とジェシーさんが俺の方に視線を寄越す、俺はそれに頷いた。

王都と言えど、いや王都の様な大都市だからこそスラム街は存在する、街の外れにある貧民街だ。


「そのスラムのどこに行けばいいのよ」

「ひっ、ひひ。奥だよ奥、スラムの一等奥、泥棒市や娼婦街、そう言った表のスラムを潜り抜けた一番奥にその怪しげな店はある」


 ジェシーさんは老人(情報屋)にチップを渡すと「とっと行くわよ」と踵を返した。普段のポンコツメイドっぷりがおくびにも見えない、出来る女の仕事ぶりだった。


「やるじゃないですか、カッコいい所もあるんですね」

「所も、は余計よ余計、メイドなんてものは借りの姿、こっちが私の本業なんだから」


 ジェシーさんはふふんと鼻息を高くし、颯爽と街を歩き出す。


「あっ、ジェシーさんスラムはこっちです」

「それを先に言いなさいよ山猿!」


 うーむ、やはりポンコツだ、この人について行って大丈夫なんだろうか。そんな不安を抱えつつも、俺たちは一路スラムを目指した。





 吹きすさぶ風が良く似合う。ここは自由を求め、夢を探し、そして敗れ去った人の街、あるいはその逆、ここからのし上がろうと抗う人の街だ。


「王都だろうが何処だろうが、スラムってのは変わらないわね」

「アデルバイムにもスラムは在るんですか?」

「あるに決まってるでしょう山猿」


 ジェシーさんは興味なさげに、そう呟くと、埃っぽい道を歩く。


「で?スラムの最奥って何処にあんのよ」

「俺もスラムに特には用事は無いんでね、あまり詳しくは知らないんですが……」


 一般市民にとってスラム街は近くて遠い存在だ、のこのこ見学に行くような酔狂な人はそういないだろう。

 だがまぁ、街の区画、規模、その他いろいろな条件を照らし合わせれば、最奥とやらがどのあたりかは想像が付く。


「まぁこっちでしょう、道に迷ったらフラ坊に上空から道案内させますよ」


 サン助は目立ちすぎるが、フラ坊ならば人間サイズだ、何とかうまくごまかせる。


 俺たちはしつこい呼び込みの声をかわしつつ、一直線に奥へと進む。

 路地がドンドン薄暗く、そして汚れてくる。ここはスラムの吹き溜まり、案内板なんてものが無くても、スラムの最奥だと言う事が分かる雰囲気だ。

 呼び込みの声は掻き消えて、当りを支配するのはじっとりと粘ついた雰囲気、そして視線。こちらを値踏みするような、はたまた怯えた様な、一歩間違えば刃傷沙汰になりそうな視線が注がれる。


「ホント、くだらない所ね」

 

 ジェシーさんは小声でそう呟く。それは敵意でも、怯えでもなく、諦めのこもった呟きだった。

 俺はそれにはあえて反応せずに奥へと進む。肩の上のグミ助レーダーは怯えきっていて使い物にならない、四方八方から注がれる視線におびえ固まってしまっている。


「さて、一応ここら辺だとは思いますけどどうでしょう」


 俺は視線を鬱陶しがりながら、足を止める。降りかかる火の粉を払うのはやぶさかではないが、無用な争いも避けたいと言うのも本心だ。その為にはとっととここからおさらばしたい所だが。


「さてね、まぁ道案内は原住人に聞くのが一番でしょ。ちょっと山猿、そこらの家に押し込んで聞いて来なさいよ」

「んな無茶な」


 ドアは何処も閉めきっていて、おそらくは友好的な会話など決して望めない雰囲気だ。


「はー、情けないわね」


 ジェシーさんは頭を掻きつつ。適当に目の付いた、今にも壊れそうなドアをノックしたのだった。


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