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波止場

「なぁイルヤ姉、ホントに送って行かなくて大丈夫か?」

「なーにを言ってんだい、ガキの使いじゃあるまいし」


 二泊三日の行程を終え、イルヤ姉たちは再び王都の港へ訪れていた。

 行きと違うのは抱えきれないほどの大量の荷物、その多くはミントの戦利品だが、イルヤ姉は農作業で鍛えた健脚でしっかりとそれを背負っている。


「まぁこれと言った後遺症も無かったですし、ハリス教授も太鼓判を押して頂いたので大丈夫ですよ」


 教授にはここに来る前に挨拶をさせて頂いた、研究が忙しいとのことで、ぶっきらぼうに眉ひとつ動かさずに礼を受け取っていたが、大きな借りが出来てしまった。


「うぅ、それは分かってるけど……」


 分かっているし、教授の事は信頼しているけど、それとこれとは話が別、心配なものは心配だ。


「はぁ、あんたもやっぱり父ちゃんの子だねぇ、心配性な所はそっくりだよ」


 むっ、あんなダメおやじと似ていると言われるのは心外である。とは言え、そのセリフを言われたら黙るより他は無い。


「それじゃ、またねお兄ちゃん」


 ミントはそう言って俺に抱き付いて来る。無くなって、初めて分かる、暖かさ。俺はミントを精一杯抱きしめる。


「ほら、イルヤ姉も」


 俺は片手を広げてイルヤ姉を催促すると、彼女は仕方がないねぇと苦笑いを浮かべて応じてくれた。





 船が離岸していく。元気に手を振るミントと、穏やかな笑みを浮かべるイルヤ姉の姿が遠くなる。


「元気でなー!」


 俺はあらん限りの声を上げる。本当ならばサン助に乗ってジョバ村まで送り届けたかったが、そんな事をしたらまたお上のお世話になっちまう。

 空は自由だが、人間は自由じゃないって事だ。


「元気でなー」


 どこまでも続く大空に、俺の声は吸い込まれて行った。


「ふう、帰っちまったな」


 とんでもない旅になったが、2人は満足してくれたのだろうか。


「そうね、帰っちゃったわね」


 旅の間ミントに付きっきりで世話をしてくれたチェルシーが小さくなった船を見ながらそう呟いた。


「ごめんなさいアデム、私が付いていながら」

「いや、罠に気付けなかったのは俺も同じだ」


 もう何度目かになる謝罪を受け取る。悔しさは俺も同じ、だが結果的にあの2人は無事だったんだ、過ぎたことは水に流すしかない。


「そうですわ、チェルシー。あまり謝罪の言葉を重ねると薄くなりますわよ」

「そうね、シャルメル。これで謝るのは最後にする」


 チェルシーはそう言うと、決意の炎を目に宿し大空を見上げる。


「次は見てなさいよ!絶対許さないんだから!」

「わっ、私もです!次は絶対私が治して見せます!」


 波止場に2人の声が響く、何だ何だと人々が振り向くが、2人にとってそれは関係のない視線だ。


「うふふふ、良いですわね。では(わたくし)も」

「お嬢様、おやめください」


 続いて叫ぼうとしたシャルメルの口をジム先輩が速やかに塞ぐ。


「むー、むむーむー」


 それを見た2人から笑い声が漏れる、何処かしこりのあった空気は霧散して、何時もの穏やかな空気が戻って来たのだった。


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