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私は婚約者といた。そして、兄もそこにいた。私と兄はそれぞれ正式に婚約が決まり、その前に社交場で挨拶しなければならない。婚約者はその迎えに来てくれたのだ。兄もこの後婚約者を迎えに行くのだろう。互いに着飾り、私は兄に近寄りたい気持ちを封印して婚約に駆け寄った。
「それでは、また後で。」
婚約者は兄に一礼すると、私をエスコートして夜会へ向かった。その間、私は兄の顔も婚約者の顔も見れずにいた。私は婚約者と手を繋ぐ時、キスをする時、抱き締められる時、兄の顔を思い浮かべてしまう。だから二人がいるとどうしても戸惑ってしまうのだ。自分でもわかっている、最低だと。何度も何度も真っ黒に塗りつぶしても、暴力を振るう兄が怖くても、それでもわたしは兄が好きだ。好きでたまらない。きっと私は死んだら地獄行きだ。罪悪感から夢では何度も地獄の業火に焼かれた。それでも止められない劣情が私を支配する。
「緊張している?」
心配そうに私の顔を覗き込む婚約破棄に、私に胸が苦しくなる。私は無言で頷く。
「僕もフォローするから、一緒にがんばろう。」
彼ならば互いに支え合いながら、信頼を積み上げて行ける夫婦になれる。この人と夫婦になれば憧れている父と母の様な夫婦になれるかもしれない。
この人を好きになれたらいいのに。
兄と離れて関わりが無くなればこの気持ちも薄まって行くのだろうか。ドレスの裾をギュッと握りしめた。