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初めて会った婚約者は、一言で言えば好ましい人だった。家柄も良く、見た目も良い。見ようには漆黒にも見える濃いブラウンの髪と瞳を持つ兄とは違って、ブロンドの髪と宝石のような緑の瞳の華やかな雰囲気だけど、優しい面持ちは兄を思い出した。
きっと、この人ならば好きになれる。
「初めまして、サラ様。」
伯爵家の嫡男である男はそう言って、私の手を取った。男が私の手のひらに唇をよせる。
違う。
ただその言葉が頭に浮かぶ。
私に触れていいのは…私が触れたいのは…
「どうかしましたか?」
ビクっとしてしまった私に男が問いかける。
「いえ…あの…ごめんなさい…」
「申し訳ございません、娘は父親である私や兄以外の男性と触れ合ったことがございませんもので。」
私の非礼に父親が頭を下げてお詫びする。すると、相手方にはそれが好ましいような反応だった。確かに、叔父や従兄弟たちにも寄り付かなかった私は彼がまともに話す初めて、そしてただ一人の男性になるだろう。他の人から見れば。でも、私は兄が誰よりも一番で、これからも変わることがないのだ。それが過去のこととなっても。もう望めなくても。