表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

3

「二人とも婚約が決まった。」


父が嬉しそうにそう言った。私は口に運んだチキンが一瞬で味をなくしていくのが分かって、一瞬、顔をしかめてしまった。


「お相手は?」


兄の声がする。何度も不快な言葉たちが私の耳を掠めて飛び交う。私はそれ以上聞きたくなかったが、「ええ」や「はい」など適当に相槌を打ち、無理やり笑顔を作ってやり過ごした。


なんとか悪夢の晩餐を終え、私は鏡台の前に座ると湯浴みをする為に髪飾りを一つずつ取っていく。普段は侍女に手助けしてもらうが、今は一人でいたかった。髪をまとめていたバレッタを取るとふわふわした茶色の髪いが広がる。不意に兄が髪の毛を結んでくれた遠い日のことを思い出した。泣きたいけれど、泣けない。いつかくる日を覚悟していた私には呆気ない終わりのような気がして、泣き叫ぶほどの悲しみを持てなかった。ため息をついて、それでも騒つく自分の気持ちを落ち着かせる。


そして兄はノックもせずに乗り込んできた。いつもの

紳士な顔はなく、私を痛ぶる。痛みに目を閉じて、その後に許しを乞いて兄の顔を覗き込む。残酷な顔が私を見下ろしていた。ボロボロになった私は無残に床に打ち落とされる。私の子ども時代はこうして終わりを迎えたのだ。


私は自分の中にある悲しみがわからなかった。兄と離れる悲しみなのか、酷いことをされた悲しみなのか。




それでもやっぱり私は兄が好き。

どんなに酷いことをされようとも、兄との思い出を捨てることなんて出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ