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兄は私の手を握った。  作者: 海月 楽
妹は知らない
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8

卒業して屋敷に戻ると、本当は父と継母を殺す算段をするつもりだった。しかし、何故かそう言う気にはなれなかった。妹にだってそう、息を吐くように言っていた暴言は鳴りを潜め、暴力的なことは何一つしないようになっていた。腑抜けている。それは自分でも思う。しかし、それももうどうでもいい気がした。自分に残ったのは妹に対しての甘い感情だけ。


「んっ。」


サラがピクリと肩を動かして声を上げる。


「痛かったか?」


前も言った言葉なのに、今は何故か優しいトーンになる。


「いえ、幸せです。」


サラはいつも微笑んでいる。しかも素直だ。

従順過ぎて、本当に壊してしまったんじゃないかと時々心配になった。前はあんなに壊したいと思ってたのに。


「心のままにしているだけです。ずっと我慢していたから、今は舞い上がっているのかもしれないですが。」


こんなに満面の笑みのサラを見たのはいつぶりだろうか。サラは自分を縛ってうものを捨てたようにスッキリした面持ちだった。以前に求めていたものとは違うが、永遠に続けばいいと思うほどだ。


「でも、お兄様にエスコートされて夜会へ行ける方がいるのは気に入りませんが。」


サラが笑顔でそう言うと、久しぶりに焦ってしまった。どうやらサラは強くなって、自分は弱くなってしまったらしい。


何とか婚約者に他の方を当てがって婚約破棄をすると、他の面々は様々な顔をしていたが、サラだけは笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい。」

「ただいま。」


人目を憚らず、サラは兄に抱きついた。側からみれば、婚約破棄に落ち込む兄とそれを、慰める妹の美しい兄妹愛かもしれない。


「大丈夫よ、お兄様。私が居るから。」


この状況を楽しんでいる妹がいて、さらに驚いてしまう。サラが自分の胸の中でイタズラそうに笑っている。その無邪気さがまた愛らしい。

自分とサラは二人で朽ちていく。不幸さえも二人なら幸せだとサラは言ったが、今はその中でも幸せにしたいとも思うんだ。

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