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寄宿舎で暮らすようになって、気持ちの葛藤はひと段落した。しかし、妹に会えない日々が苦痛だった。会えば苦しいが、会えなければ持っと苦しい。妹は会うたびに大人の女性になっていく。自分に対して少し人見知りが出ているのは知っている。ならば、そのまま放っておいてくれ。痛々しく昔と同じようにベタベタくっつかないでくれ。幼かった頃にはなかった新しい慾望が湧き出てくる。
女を覚えたのはそんな時だった。
友人達と遊びに行った町で声を掛けてきた女を妹を重ねるように抱くが、空を切るような虚しさしか残らなかった。それでも、この抱えている気持ち誰かにぶつけられずにはいられない。情事が終われば、頭の中の妹が囁く。
「それは偽物だよ。」
そうだ、他人に埋められる訳がない。サラしかこれを埋めてはくれないのだ。妹よりも美しい者などいくらでもいる。サラは邪悪な継母と瓜二つなブロンドと緑の瞳の可愛らしい容姿を持つが、それをソバカスが台無しにしている。それがまた愛らしいのだ。それに、妹ほど純粋ではない、自分を必要としてくれる人はいない、妹よりも…
「お前たちの婚約が決まった。」
卒業を控え、帰省した日の晩餐で父が自分と妹に告げる。
その瞬間小さな箱が開いてしまった。
妹に婚約者ができるなんて。その怒りは留まることなく、グツグツと煮えたぎる思いを制御できずに、晩餐後は自然と妹の部屋へと足が向かっていた。
「どうしたの?おにぃ…」
不思議そうに見る妹を無視して、感情のままに髪を鷲掴みにする。
「痛い!」
耳をつんざく高い声に歓喜の鳥肌が立つ。他の女を抱いても感じることのない、高揚感が指の先、足の先、頭の先にビリビリと伝わる。自分はもう狂ってしまったのだ。愛しい、愛しい妹を痛めつけて、喜んでいる。幼い頃、誰よりも大切にしようと気持ちは今も変わらないはずなのに。




