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婚約破棄は意外にも私と兄のことも何も言われず、慰謝料等の請求もなく終わった。それは彼のプライドのことも関係あると思うが、ただただ彼の優しさだと思う。最後に見た彼は酷く憔悴していて、自分のした事を思い知る。そしてそれでも兄を選んでしまう自分もまた思い知るのだ。


「あーあ、残念。彼も言いふらして仕舞えばよかったのにね。」


兄は慰めるふりをして、私の部屋に入って彼の優しさを踏み躙るような言葉をかけるのだ。流石の私もギロリと兄を睨みつけた。


「そしたら、ずっと二人でいられるのに。」


その猛毒を含んだ甘い言葉が嬉しいと、胸をときめかせてしまう私はどんなに軽蔑しようとも兄と同類なのだ。情けなくて顔を伏せると、兄は容赦なく私の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。


「愛してるよ、サラ。」


背中が肩が毛穴のひとつひとつが喜びで鳥肌が立つ。もっと、もっと、欲しい。兄が欲しい。


「サラは?ねぇ、言って。」


切ない顔で乞われれば、私の理性などすぐ吹っ飛んでしまう。


「愛しています…お兄様。」


私の元婚約者への懺悔は紙一枚よりも薄っぺらい物だと分かると、兄はとても満足そうに笑った。掴んでいた髪を離すと、そのまま私の頭を愛おしそうに撫でる。


「これからはずっと一緒だよ。」


兄は求めるように中途半端に浮いた私の手を取り、そう言って唇を重ねる。

地獄でもいい。だからどうか、この幸せが続きますように。私は今日も祈っている。

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