運命との邂逅
完全見切り発車なので主に批判を受け付けてます‼︎
心臓が早鐘を打つ。
ここが、分水嶺であると理解しているからだ。
即ちテレージア・フォン・シックザールにとっての運命の分岐点であることを、選択の誤りは絶望への誘いだということを、否が応でも意識せざるを得ない。そんな状況であると。
国王が倒れた後、有力な貴族達は自分達が掲げる旗の見極めに奔走していた。
即ち王位継承権を持つ国王の七人の子供達の見極めに……
あれから一年、既に殆どの有力貴族は所属を明らかにしていた。
現在、王国に王位継承者は王子が三人、王女が四人存在している。
異例の王位継承争いの為に国王代行として玉座に座る国王の正妃であるアビゲイル・フォン・シックザールとそれを支える王国宰相グスタフ・アドルフ公爵を支援者とする第一王子アルブレヒト・フォン・シックザール
王国内最大の貴族であるヴォルフ公爵家の嫡男アダム・ヴォルフの婚約者であり、ヴォルフ公爵家を支援者とする第一王女アレクサンドラ・フォン・シックザール
王国騎士団を率いメルゼブルク公爵を筆頭とした武断派の貴族達を束ね支援者とする第二王子アンゼルム・フォン・シックザール
大陸三大宗教の一つであるハイラント教の枢機卿アルノー・ノルトハイムを支援者とする第二王女ベアトリクス・フォン・シックザール
先のロムルス帝国との大戦での勲功を以って爵位を得た新貴族達とリヒトホーフェン公爵を支援者とする第三王子バルトロメウ・フォン・シックザール
グリフ公爵を筆頭とした少数の保守派を支援者とするテレージア・フォン・シックザール
七人の王位継承者達の中で唯一他国の王女を母親に持ち、母親の母国ローランド公国と公国と隣接した場所に領地を持つザルム公爵を支援者とするアポロニア・フォン・シックザール
この七人の内のいずれか一人が王位を継ぐ事になる。そして継承者争いは、直ぐさま激化し王国中に広がると思われたが、国王が倒れてから一年、各陣営に大きな動きは無い。皆、待っているのだ。誰かが隙を見せるのを、隙を見せた瞬間バラバラにされてしまう。
それが分かっているからこその一年間の膠着、薄氷の上を歩くが如き状況、力を蓄えつつ機を伺う各陣営、油断など出来ない。
テレージアはこの膠着が早晩崩れると予想していた。何故なら最近、国王の容体が更に悪化したからだ。今までは、意識が無くとも国王は生きている状態であったが、容体が悪化し、もしそのまま死んでしまったのならば、確実に状況は動き出す。血で血を洗う継承し争いの本格的な始まりだ。
そうなる前に陣営を強化しなくてはならない。テレージアの陣営は七人の王位継承者の中で一番勢力が少ない、動き出したのなら真っ先に潰れるであろう規模だ。
故に、今回の会談は絶対に成功させなければならない。そう、王国の中立派、日和見派を纏め上げているヴィルヘルム公爵家の嫡男である怪童ディートリヒ・ヴィルヘルムとの会談だけは。
「失敗は許されないわね……」
テレージアは呟く。
「大丈夫です姫様、彼ならきっと力を貸してくれる筈です」
そう発言するのは、支援者の一人であるルクセンブルク侯爵家の長女シャルロッテ・ルクセンブルクだ。彼女は、これから行われる会談の相手であるディートリヒと幼馴染であり、その縁でこの会談が実現した。故の、この発言だろう。
「ディー……いやディートリヒはかなりの変人ですが、悪人ではありません。姫様の御心をそのまま打ち明ければ、快く協力してくれるでしょう」
シャルロッテは相手の事をとても信頼しているようだ。
そんなシャルロッテの様子にテレージアは心が和らぐのを感じた。
「ふふっ、とても信頼しているのね」
「いやっ、あ、そう言う訳では……」
「ならどういう訳なの?」
テレージアは揶揄うように言った。
「……姫様は意地悪です」
シャルロッテは口をへの字に曲げ俯く。
「あらっ、それはごめんなさいね」
テレージアは微笑みながら言う。
「……ほんとですよ、まったく」
そう言うシャルロッテもまた微笑んでいた。
そうこうしている内に目的の場所に到着したようだ。
「今回の会談場所は学園裏の庭園なのだけど、何故学園の庭園なのかしら、確かに私達は学生だけれども、もっと都合の良い場所は無かったのでしょうか」
テレージアは訝しむ。
今回、指定された会談場所は王立学園の裏庭にある庭園だ。テレージアもシャルロッテも王立学園の生徒である。そしてディートリヒも学年は違うが王立学園に在籍している。
会談場所として違和感は無いのだが、いざ来てみると、庭園のあまりのボロさに驚く。
草花は枯れ、入り口はもはや入り口の体を成していない。会談場所に、格式などは無用のものだと思っているが、もう少しなんとかならなかったのかとテレージアは思ってしまう。
「ひっ姫様をこの様な所にッ……あの馬鹿者はッッ」
ふと横を見ると、シャルロッテは怒りに震えトンデモない形相になっていた。
「シャ、シャルロッテ?おっ落ち着きなさい、ねえ」
確かに少し驚きはしたが、怒るほどの事ではないので、そんなに目くじらを立てなくてもとテレージアは思っているのだが、シャルロッテはそうではなかった様だ。
「ディートリヒィッッ‼︎これはどういう事だッ‼︎」
シャルロッテは怒りのままに庭園の中に突っ込んでいく。
「ちょっ、ちょっと待ってシャルロッテッ‼︎」
テレージアは慌ててシャルロッテの後を追いかけ庭園に入る。すると先程まで荒れに荒れていた庭園が、瞬く間に王宮にある庭園にも劣らない美しいものに変わっていった。
「これは……まさか外から見えていたあの荒れ様は、幻影魔法?しかも違和感を感じさせすらしない恐ろしいまでに高度なもの……」
テレージアは呆然として呟く。
「幻……影魔法ですか?」
先に庭園に入り呆けていたシャルロッテが、我に帰り此方に振り向き言う。
「えぇ、しかもこれを施した術者はかなり高位の術者よ。これが悪意ある術式なら私達なんて一瞬で騙し殺せる位の」
テレージアが慄き、そう話す。すると前から白痴の様な声が響いた。
「ふはははっ、そうですともそうですとも僕の術式は世界一ィィィィッ‼︎サプライズは成功ですかな姫殿下?」
突然現れそんな事を宣うこの男こそが、今回の会談相手のディートリヒ・ヴィルヘルムである。
「(予想以上に変人だわ……ッ)」
本当にこの男に頼っていいのか早速不安になってきたテレージアだった。