一人が選ばれます。
「私は弁護士になったばかりですよ。なんで私が」
大声を浴びせかけても表情を保っている。保ってはいるがわずかににやついているのが感じられる。それが私を苛立たせる。
「法律上このようにお話しさせていただいていますが、大方はご存知のことをお聞かせすることになるので聞かないのも自由です。その際の不利益はあなたが被ることになりますが。また、運用上の細部も改めて問い合わせていただければご説明いたしますので今日のところは引き取らせていただくことも可能ですが」
表情は保ったままだったが語尾のわずかな瞬間になぜだか圧倒されてしまった。その隙に乗じて彼は言葉を続ける。
「あなたが一年後までにやるべき事は二つです。我が国の弁護士から一人の名前を我々に教えてください。我々が諸々の準備をしますので次にあなたはボタンを押す。それだけです」
「……それだけじゃないでしょうが」
絞り出すようにやっと声が出た。
「あなたの義務に言及を絞ったので。ボタンを押すとその弁護士は死にます。あなたはその死に関し責任を問われることはありません。その弁護士を選んだ理由を問われることもありません。ただし、後の人々の参考のためにあなたの決断に際してどんな人に会ったのか、どんな資料を見たのか、我々に命じて下されば記録に残すことができます。とりあえずすべて記録し、後に公開の範囲を定めることも可能です。そういえば弁護士になったばかりとおっしゃいましたが、そういう方が弁護士を養成する弁護士を殺すような事があれば弁護士養成課程の見直しを促すことができますし、そういうことが無ければ我が国の弁護士養成課程が健全であると国民に示すことができるわけで、弁護士であれば一年間に一人だけ選ばれるこの義務に弁護士歴が考慮されてはいないのはそのためです」
「……それだけじゃないでしょうが」
今度こそ怒りを表現出来たと思う。彼がひるんだように思えた。
「……我々としては起こりそうではないと思っていますので、最後に言及すればいいと思っていましたが、そうですね、一年後までに弁護士の名前を挙げないとその時は、あなたが死ぬことになります」