第二話 不安や焦りは生理現象には勝てないようです
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第一章 成長編
第二話 不安や焦りは生理現象には勝てないようです
川はすぐそばを流れている。
僕はその近くに体育座りをしている。
僕は怖かった。
怖くて川を覗き込むことができなかった。
そして、時間が経つにつれて自分の体の違和感がひしひしと伝わってくる。
もう、僕は僕ではなくなったんだとわかってくる。
それが何よりの不安で恐怖だった。
意識は自分で、体は自分じゃない。
体を動かそうと思っているのは自分で、動く体は自分じゃない。
まるでそれは、ゲームのロボットを動かしてるみたいだ。
体は操縦通り動く。
でも…
何分ぐらい経っただろうか。
いや、何時間か。
僕はこのままではいけないと何となく思った。
僕は自分の体を操縦し始める。
華奢な腕を使って僕は立ち上がる。
立ってみると違いというのは顕著に現れる。
ほのかに感じる胸の重み。
筋肉量の違い。
落ち着いて考えると何もかもが違い、そして何もかもが新鮮であった。
特に股間部の通気性ね。
この、物理的にも精神的にも来る風通しの良さは何なんだろうか。
と言うか、初めてワンピースなるものを履いてみたけれど、意外とスースーするものなのだな。
感覚的には、服の前に空気が自分の体を覆っている感じである。
特に下腹部のスースー具合よ。
僕はワンピースのなかなかの通気性に驚きつつも川に沿って歩き出す。
どこまでも続く川とどこまでも続く木々に圧倒されながらも一足一足自分を感じながら歩いていく。
まだまだ、意識に違いはあるけれども、うまいこと歩けるようになった。
しかし、まだ人の体を動かしている感は抜けない。
というか、なんというのだろうか。
長らくやってないスポーツを久しぶりにやって動けないみたいな感覚に少し似ている。
少し歩くと僕は別の違和感を感じた。
いや、それは違和感ではなく嫌悪感とでも言うのか。
とりあえず、僕は第六感的な何かに従いその場に立ち止まる。
その選択は結果的に言うと間違ってなかった。
しかし、この第六感的な何かが今後の運命を左右する指針になるとは、その時はまだ思いもしなかった。
僕が止まった瞬間に、草むらからウサギさんが出てきた。
ウサギさんは川の水を飲もうと川のそばに歩み寄る。
ウサギさんが川の水を飲もうとした時だった。
ウサギさんは闇に包まれた。
いや、正確に言うと何かに飲み込まれていった。
それは黒く深く、見ているだけで飲み込まれそうになる何か。
その黒い何かは突如として現れた。
水の中に一滴の黒いインクを垂らすかの如く現れた。
僕は感じた。
『これは関わってはいけない』と。
僕はゆっくりと後ずさりをする。
体は今にも引き込まれそうになる。
足は物理的にも重くなり、足を後ろに動かすだけでさえままならなくなる。
思考も鈍くなる。
黒い何かはこっちを見たような気がした。
そしてゆっくりとこちらに浸食してきた。
あー。
今までため込んでいた疲れがどっと現れるかの如く怠さを感じる。
呼吸もしにくくなる。
心拍数が上がるような気がした。
そして意識が…
―――――――――――――――
僕は川のそばに立っていた。
気が付いたら何もかもが終わっていた。
まるで今まで夢を見ていたかのようだ。
あれだ、授業中に本当に眠くてウトウトしているときに記憶がないみたいなのと同じ現象だ。
果たしてあの黒い何かは現実にいたのだろうか。
はたまた、僕の疲れから作り出されたただの幻想なのかもしれない。
今となっては確かめる方法はない。
過去は過去であってそれ以上でもそれ以下でもない。
僕は自分自身を落ち着けようとそう決めつける。
川のせせらぎが聞こえる。
川のせせらぎにはなんらかの魔法がかかってるんじゃないかと、僕は思います。
不安になった時に川のせせらぎ音を聞くと、リラックスできるとよく聞きます。
たぶんだけど、皆様もそういった経験をしたことがあるのではないでしょうか。
川のせせらぎを聞いていたら眠ってしまった、など。
僕はこの混沌とした思想を落ち着けようと川のせせらぎを聞く。
あー、川のせせらぎはいいなー。
それは、まるで今まで感じた負の要素を音で洗い流してくれる感じだ。
スーッと心が晴れるような気がした。
そして心を満たすのは尿意だった。
あー、トイレいきたい。
安心したら今度は尿意かね。
今、ここには川がある。
やろうと思えば水だけに水に流せるのだ。
しかし、まだ安心したといっても混乱はしている。
そんな状態でだ、僕は本当にできるのだろうか。
正直言うとできない。
しかしだ、やらなければいけないのだ。
時間は刻々と迫っている。
尿意も刻々と迫っているのだ。
そして不便なのが我慢できないことだ。
男だったころ、我慢はガンガンできた。
しかし、今はどうだ。
怖いことに着々と溜まっていくのが手に取るようにわかってしまう。
そして、自分のタイムリミットも足音を立ててやってくるのがわかる。
すなわち、我慢ができないのだ。
僕は勇気を振り絞って川のそばに歩き出す。
そして川のそばに小さな穴を掘る。
大きさはバレーボールが埋まるぐらいの大きさだ。
僕は意を決して穴の上にまたぐようにしてしゃがんだ。
そして、徐にワンピースをたくし上げパンツを下げた。
後は力を抜くだけである。
時間としては、そんなに時間はかかっていない。
でも意識レベルでの時間は長く一瞬だった。
気持ちよかった。
ただその一言に尽きると思う。
久しぶりに肩の力を抜いた気がする。
今までずっと気を張り詰めていたし、自分のことで暗くもなっていたから余計にすがすがしかった。
たぶんだけど尿と一緒に体中の不安や恐怖と言った老廃物も流せたんじゃないかと思う。
僕は全てをしっかりと出し切りパンツを履きなおして立ち上がる。
一瞬だけどもわっとした匂いが花をかすめたような気がした。
まずいまずい、しっかりと穴を埋め戻して証拠隠滅せねば。
何がまずいのかよくわからないが僕は足で穴を埋め戻した。
「さて、どうしたものかね」
脱力感は抜けた。
今は爽快感を感じる。
それは、ズボンからスカートに履き替えたみたく。
まぁ、すでにワンピースを着ているのだがね。
「ひとまずは人に会いたいな」
誰かに言うでもなくぽつりと声を漏らす。
朝起きた時に鳴いている鳥の鳴き声のように、静かにそして鋭く僕の声は森の中を吹きにける。
今更だけど、声がきれいだ。
顔も完璧、声も完璧とくると自分が怖くなってくるぜ。
まー、そんなことは置いといてだ。
ほんとに人に会いたい。
なんつったてずっと森だからね。
ぶつくさと言いながら僕は歩き始めた
訳も分からず歩き続けた。
30分ほど経ったとき、遠くの方で音がするのが聞こえた。
音は何体かの何かが歩いているような音だ。
いわゆる、葉っぱがこすれあるガサガサ音だ。
僕は何故か慎重にその音のなる方に近づいた。
音が大きくになるにつれ、自分の心臓が高鳴ってくのを感じる。
その心臓の高鳴りは恐怖からくるものでもあったが、好奇心からくるものでもあった。
もしかすると人間に会えるかもと言う期待感と共に僕は音のなる方に歩いて行った。