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 三駅隣に住む宝地遥香の家に着くと、想夜は視線を感じて振り返った。

 だが、周囲には誰もおらず想夜は首を傾げる。


 神奈川を走るローカル線の駅から5分ほど歩いた所に遥香の家はあった。この駅周辺の街並みはローカル線沿線にあって、異質ともいえるほど整備されたもので、どこか高級感を漂わせている。

 いわゆる高級住宅街の1つで綺麗な家が建ち並んでいるのだが、その中でもさらに異質といえるイギリス調を思わせる高級住宅。

 閑静な住宅街、日曜の10時という時間帯のせいか、外に人の気配は少ない。隠れてでもいなければ、誰かがみていれば該当者がわかりそうなものだ。


 ひとまずインターホンを押すと、「開いてるから」という遥香の返事が返ってきた。

 言葉に甘えて想夜は扉をあけ中に入る。その際にさりげなく視線の感じた方向に注意を向けてみると―――


(やっぱり誰かいるな)


 おそらく女性。物陰に隠れている様子から近所の住人ではなさそうだ。

 ただ、今はそれ以上のことはわからない。


 玄関をくぐり、顔見知りである遥香の母に笑顔で挨拶をすると、ひとまず遥香のいる2階の部屋へと足を進める。

 扉を開けるとすでに部屋には全員が揃っていた。


「早いな」

 想夜はおもわず部屋の壁時計を確認するが、まだ集合時間の2~3分前だ。言葉通り皆が早いということだろう。

 部屋にいた4人がそれぞれ「おう」だの「おはよう」と声を掛けてくる。想夜も軽く見渡し「おはよう」と返した。


 大きなクイーンサイズのベッドの前に女子3人が、その対面に久坂が座っていたので、想夜はスペースの空いている久坂の隣に腰かけた。丁度向かい側に倉橋柚奈が座っている。


「倉橋も来たんだな」

「うん、すごく大事な話があるって聞いて・・・」

「そっか、さんきゅーな」

 想夜の言葉に柚奈ははにかんだような笑顔をみせた。


「さてと、想夜くんも来て全員そろったことだし、本題を聞かせて貰おうかな」

 と久坂が言った。想夜はそれを手で軽く制す。


「その前に一ついいか?今ここに入る前に、誰か俺のことを見ていたみたいなんだけど、皆は何か気付かなかった?」

 そう言って想夜は全員を見渡した。


「ああ・・そういえば俺の時もこっちを見ている子がいたな」

「あ!確かに私も少し気になった」

「けどあれ・・・この辺の子じゃなかったんだ?」

「そうそう、私もそうかなと思ってあまり気にしなかったけど・・・」

 久坂と碧がお互いに頷きあっている。


 どうやらこの2人も気付いてはいたらしい。あまり重要視はしてない様子だが。ふと倉橋の方を見てみると、困ったような表情で想夜に向かって軽く頷いた。

 自分も2人と同じだと言うことだろう。


「皆気付いていたか」

「あんまり気にしなかったけど、全員のことを見ていたっていうのはちょっと変だね」

 と久坂が言った。

 想夜はその言葉に頷く。


「ふうん・・・どっち?」

 そう言って遥香が立ち上がる。確認しようというのだろう。


「玄関出て左側だな。この部屋からは見えないんじゃないか?」

「どうかな。・・・ま、一回みてくる」

 想夜の言葉に首を軽くかしげつつ、遥香は早足で部屋を出ていく。一瞬付いていこうかと思ったがやめて戻ってくるのを待った。

 しばらくして戻ってきた遥香は下唇に指をあて、少し考え込むようなしぐさをしていた。


「どうしたの?」

 と碧が聞いた。


「うん、顔見えたんだけど・・・多分1年の新山さんだと思う」

「新山?・・・ってあのオカルト部の?」

 久坂が不思議そうな顔でそう聞くと遥香が「うん」と頷いた。

 想夜もその名前に軽い衝撃を受けていた。遥香の表情も理解できる。なにせ先週も聞いた名前だ。


「どうしたの?」

 柚奈が声を掛けてくる。その言葉に反応したのか、久坂と遥香も想夜の方を見た。


「・・・そのことも関係あるかもしれない。丁度いい、このまま本題に入るよ」

 想夜はそう言って先週の出来事を説明し始めた。ただし事前に遥香とは相談し、今回は武田花梨の件は伏せて伝えることにした。

 あくまで生徒の間で噂になっていたマジックショーに行ってみたという設定だ。



「にわかには信じがたいね」

 話を聞き終わると、そう言って久坂が苦笑いを浮かべた。碧と柚奈の二人も戸惑ったような表情で想夜の方を見ていた。


「そんな噂があるってことすら俺は知らなかったよ」

「俺も南台のやつに聞いただけだから。多分うちの学校ではあまり噂にはなってないんじゃないか?まぁ・・・正直言って、実際に見るまでは全然信用してなかったんだけどな」

「私も今だに信じられないし」

「でも遥香ちゃんも見たんでしょ?」

「まぁね。でも残念ながら間違いなくあれは魔法だったと思う」

「そっか・・・」

 碧が考え込むように俯いた。


「そう、だからさ、今後俺達がどうすべきかを相談しようと思って」

 想夜はそう言って全員を見渡した。

 しばらく場が静寂に包まれる。そんな中真っ先に口を開いたのは久坂だった。


「魔法が本物だっていうなら、魔法を使っているのは何者かってことになるね。・・・魔導巫女だっけ?」

「あぁ。声は若い女だと思ったけど」

「なるほど。それで宝地さんは想夜くんと一緒に見ていたってことは・・・」

 久坂が碧と柚奈に目を向けた。


「・・・え?私達?」

 碧が驚いたような表情で自身を指さす。その隣では柚奈が「違います」と、静かだが少し怒気を含んだような口調で否定した。

 久坂が少し慌てたように両手を振った。


「いや、一応確認でね?しかしこの中にいないとなると・・・」

「ちなみに私以外に633便の乗客が見つかったというニュースはなかったわよ」

 先回りするように遥香が答える。

 この1週間、語学に富んだ宝地遥香を中心に、想夜と二人で手分けして、日本語だけでなく英語、スペイン語、フランス語などのニュースも調べた結果だ。


「じゃあ・・・なんで?」

 碧が首を傾げた。


「それが分からない。でも俺達以外にも魔法が使える人間がいるってことは、誰かが教えたのか、バレたか・・・」

 想夜は以前に遥香と話した推測をかいつまんで改めて3人に伝えた。


「私は誰にも教えてないし、普段バレたりするようなこともしてないよ」

 と碧が首を振って否定する。


「俺も覚えがないね」

 久坂が勘弁してよとばかりに苦笑いを浮かべる。

 2人が否定すると全員の視線が自然と倉橋柚奈に集まった。


「私は・・・もうずっと魔法は使ってないよ。だけど・・・」

「だけど?」

 想夜は思わず聞き返す。


「うん、私思うんだけど、バレた・バレないとかじゃなくて、あの飛行機の乗客以外の可能性があるんじゃないのかなって」

「どういうこと?」

 と遥香が聞いた。


「例えば・・・元からこの世界にも魔法が存在したとか、633便以外にも異世界に通じる方法があるとか・・・」

「まぁ・・・俺達みたいなのがいるんだから、可能性は何でもあるよねぇ」

 そう言って久坂が天井を仰ぐ。

 柚奈の言うことを想夜も考えたことがないわけではなかった。ただそんなことがあるとするなら――


「もし倉橋のいうようなことがあるとしたら、俺達に出来ることは限られるな。しいていうなら心の準備くらいか」

「心の?どういうこと?」

 と遥香が訝しげに想夜に聞いた。


「意図しようがしまいが、あの魔法があくまで俺達経由なら、魔導巫女や魔法について調べることも出来るかもしれない。対策も考える必要がある。いざという時に必ず火の粉がふりかかるからね。だけどそうじゃないなら、おそらく調べるといってもそれは雲を掴むような話かもしれない。そしてあいつらが魔法を広めようとするなら、それを防ぐなんてことは難しいと思う。というか防ぐ必要はないかもしれない」

「・・・その、魔法が広まっていく世の中を許容して、心の準備をするってこと?」

「そういうこと」

 想夜は遥香に向かって頷いた。


 魔法などと称するものがすぐに世の中に受け入れられるとは思わない。魔法と自称した所で、まず疑われるだろうし、それが魔法であることを証明するには多少の時間はかかるだろう。だが本物ならいずれそれが世間に広まる可能性はある。そして、それが自分達経由で広まった場合、いずれ矢面に立つことは避けられない可能性が高い。


 異世界のことも多くの異世界に残っているであろう他の乗客のことも。

 しかし、そうでない・・・全く別のルートから広がるのなら、その心配は少ないだろう。それどころか大きな秘密が減るくらいの期待をしてもいいかもしれない。

 木を隠すなら森の中というやつだ。

 想夜がふとそんなことを考えていると、久坂が口を開いた。


「そうすると・・・もし倉橋さんの言う通りなら、その宗教団体についてはしばらく放置するのがいいってことになるのかな?」

「私は・・・そう思う」

 久坂の言葉に柚奈は大きく頷いた。


 どうやらこの2人も想夜と同じようなことを考えたようだ。数は相当減ったといっても、まだマスコミの姿をみかけることはある。今後もし、魔法が本当に広まるとするなら、下手に動くことで将来穿った見方をされる危険もあるだろう。・・・あくまで自分達の秘密が、誰にもバレていないという前提ではあるが。


「そうすると、俺としては新山のことが気になるな」

「あ~・・・例の公演にいたんだっけ?泉先輩と一緒に」

 久坂が嫌なことを思い出したとばかりに、顔をしかめつつ鼻をかく。


「その新山さんがなんで外にいるかってことだよね」

 碧が首を傾げた。


「また泉先輩に火がついたか、想夜くんたちが公演にいるのがバレて何か疑っているか・・・かな?」

「私達のことがバレたってこと?でも変装していったし、気付かれた様子なんてなかったよね?」

 遥香はそう反論しながら、同意を求めるように想夜をみた。


「ああ。少なくとも新山に気付かれたとは思えない。泉さんに関しても俺達に気付いた様子はなかったと思う。というより別のことに注意が向いている感じだったな」

 想夜は舞台上とはまた違った所に、幾度も視線をやっていた泉の姿を思い出した。


「想夜くんが言うならそうなのかもね。・・・というか別のこと?」

「ああ。何を気にしていたかは分からなかったけど」

「へぇ・・・」

 久坂は何やら考えこむようなそぶりをみせる。何かあるのかと言葉を待つが、特にないようだった。想夜は話を続けた。


「まぁ・・・絶対とはいわないけど、まず気付いてはいなかったと思うよ。とはいえ、外には実際いるわけだけど。どうする?」

 想夜の言葉に4人は各々顔を見合わせた。


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