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(いつまで続けるんだろう・・・)


 この動画を何度繰り返し見たんだろう・・・と、新山果南は内心ため息をついた。

『魔法の御言葉』なる団体のセミナーから帰ってから、泉晶人と2人で向かったのは学校の部室だった。


 日曜日でも許可もないまま簡単に鍵を開けて入ったり、そもそも部に昇格していない研究会なのに応接室のような立派な部室があったりと、色々と考えさせられる状態ではあるが、この先輩ならば・・・と果南は大抵のことでは驚かなくなっていた。


 2人はペン型カメラで公演の様子を撮った。今はその2つの動画を並べてみている所だった。特に実演と銘打たれた場面については、何度も何度も繰り返しみていた。


 椅子が燃え、その火を消すように水が溢れ出し、照明の代わりに光の球が会場を照らす。その様子を1つの画面は舞台上をもう1つは天井を映し出していた。

 舞台上側を映している映像は、撮影者の行動とリンクするかのように、光球で会場が照らし出される前後、会場全体を左右・上下へと大きく振れていた。これは果南がソワソワとしていたからだろう。会場の客なども所々映りこんでいた。


 一方、天井側の映像はずっと固定され、単に天井がずっと映っているだけだ。光球が現れまでは何の変化もない。そして問題はその後だ。

 天井側の映像では、光球が現れた後にワイヤーが垂れてくるのだ。といっても果南は泉が映像をあれこれいじって、この部分だと指し示すまでは分からなかったのだが。

 動画再生が終わると、泉は再び再生バーの位置を動かす。


「どうですか?」

 果南は1時間以上一言も発せず、画面と向かい合っている泉に声をかけてみた。すると泉は緩慢な動きで果南に視線を向けた。


「分からん」

 少し疲れた表情でそう一言呟くと、泉は再び視線を画面に戻した。

 ああ、まだ終わりそうにないな、と果南は気付かれないようにため息をついた。

 

 偏見かもしれないけど、果南が想像するオカルト好きというのは、例えば科学やトリックで説明できることでも、超常現象だと主張するというイメージがあった。

 だけど泉は違う。まずはトリックの可能性を徹底的に検証するのだ。その検証のために様々なことを学ぶ。その知識量は凄いと思うが、結果として泉がオカルトだと考えているものは、まだ世の中にはほとんどないらしい。


 正直果南としては、もう別の部を名乗った方がいいのでは常々思っていたくらいだ。

 画面では幾度もみた映像が繰り広げられているが、自分には何も分からないし・・・と、つい出そうになるあくびをかみ殺し――


「・・・あれ?」

 誰か知っている人がいた気がして果南は思わず声が出した。


「どうかしたの?」

「え?え~、あの、なんか知っている人がいたような・・・」

 一瞬のことだったので、果南自身も確証はない。そのため返答はしどろもどろになる。


「へぇ・・・友達いたんだ」

 さらっと毒気のあることを言いながら「どこ?」と聞いてくる泉に、果南はムッとしつつも「少し前の人が映った所らへんです」と答えた。

 泉はすぐに再生バーを調整する。

 問題のシーンは、会場が不思議な光球で照らされた後だ。果南の後ろの席を見渡すように左右に動く映像。


「あ、これです!」

 果南が指をさす。


「いや、わからないから」

 少し興奮して「やっぱり、間違いないですよ」などと騒ぐ果南に、呆れたような視線を送りつつ、泉が映像をコマ送りにしていく。


「どれ?」

「あ~・・・ここ!今です」

 そんな果南の指示で、画面は静止する。そして、その中の1人の女性を自信満々に指さした。


「この女の人です!見てください、ほら」

「はぁ・・・」

 あまり鮮明といえない静止画に、綺麗めの若い女性が映っている。泉には心当たりが無いようで、どこか冷めた目で果南に説明を促してきた。


「えっと、先輩も見覚えあると思います。2年の宝地先輩ですよ、あの」

「・・・なに?」

 泉は明らかに目の色を変えて画面を凝視する。だが、


「本当に?」

 泉はしばらく画面を見つめた後、果南に猜疑的な視線を送った。


「え?いや、ほら・・・髪型とかは普段と違いますけど、全体的な雰囲気とか宝地先輩じゃないですか」

「そうか?僕には似ている部分が分からないが・・・というか、新山がなんで宝地さんのこと、そんなに分かるんだ?あまり接点ないだろ?」

 泉が首を傾げた。


「え?あ・・・だってオカルト部に入った時に、あの飛行機事故の生還者ということで、先輩が紹介してくれたじゃないですか」

「それはそうだったね。でも一度だけだろ?それも挨拶程度の」

 確かに泉の言う通りだった。あの時は本当にただ連れられて、5人に挨拶に行っただけ。全員に嫌な顔をされた記憶しかなかったが。


「ほら、有名な事件だったので印象強かったんですよ」

 そう言って果南は笑顔を作った。正直この話題にあまり深く突っ込まれるのも困る。言ってはいないが高ノ瀬想夜とはその時以外にも何度か話をしたことがあるからだ。


 オカルト研究会に入って間もない頃、想夜の方から話掛けてきたのだ。それ以来、挨拶や世間話程度での接点はあったりする。宝地遥香と一緒にいる所を良くみるので、自然と目がいっていたのだ。

 会話の内容はたわいもないものだったし、初めの頃のことだったので泉には言いそびれていた。今でも何となく言えないでいるままだ。

 幸い泉は、それ以上追及することはなく「そんなものかね」と言って画面に視線を戻した。

 その横で果南はホッと胸をなでおろした。


「しかし、なんで宝地さんが・・・」

 画面を前に、泉が真剣な顔で考え込んでいる。


 ―――確かになぜだろう?


 果南はそんな疑問とともに、宝地遥香の前後左右に座る人物の顔を凝視してみた。他に知っている人物がいるのではないかと思ったからだが、特に心当たりのある顔はいなかった。


「何を考えているんですか?」

 果南は難しい顔をしている泉にそう聞いてみた。


「ん・・・そうだな。仮にこれが宝地さんだったとして、それが偶然なのか必然なのかということだな」

「・・・どういうことですか?」

「まず、僕たちがみたものが本当に魔法かどうかだ。正直起きた現象はどれもトリックで説明が出来る。だけどこのワイヤーだ。一見するとトリックの証拠のようだが、位置やタイミングを考えると、何の役にもたってはいない。つまり全くの無意味だ。それがどういうことなのかずっと考えていたんだが・・・」

 泉が一拍おいて続けた。


「宝地さんがきているなら、案外本物なのかなと思ってね」

「・・・なるほど。つまり・・・?」

 よく分からなかったので果南は答えを促した。


「前にも話したが、身近なもので僕がオカルトだと考えているのはIL633便だけだ。その当人の1人が出入りしているというのはいかにも怪しい。ワイヤーの件は・・・やはりよく分からないけどね」

「あの宗教に宝地先輩が関係あるってことですか?」

「そりゃあ、出入りしているのなら何かしら関係はあるかもしれないね。だけど、それよりもこの現象に何か関係があるかもってことだよ」

 そう言って泉が画面を指さした。


「・・・宝地先輩が魔法使いとか?」

「さてね。なんともいえないが・・・・本人に聞いても何も言わないだろうし」

 泉が何かを思い出したように苦笑いを浮かべた。


 果南が聞いた話では、泉が本能のまま彼らに付きまとっても何も得られなかったらしい。今でも色々興味はあるようだが、特に新しい情報もないということだった。


「この映像に映ってますよって言ってみたらどうですか?」

「う~ん、実際はほとんど新山の勘だろ?証拠になるレベルではないし、仮に本物だとしても今の段階で警戒されたくはないな」

「そうですか。でも、それならどうするんですか?」

「そうだな・・・」

 泉が首元に手をやり思案顔になる。

 果南は泉が何か言いだすのを隣で待つ。カチカチと部屋の古い時計が回る音が聞こえた。


「そうだな、こうしよう」

 泉の提案は、予想通りろくでもないものだった。


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