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 魔法の実演というものが終わり、魔導巫女イリアなる女が退場してしばらくすると公演が終了した。公演の最後はしつこい勧誘があるわけでもなく、簡単な入会案内があっただけで驚くほどあっさりしたものだった。


「泉さん達はそのまま駅に向かうみたいね」

 泉晶人と新山果南の姿が見えなくなると遥香が口を開いた。

 想夜たちは劇場からは早々に離れ、出てくる人々を観察していた。


「まぁあの2人のことはとりあえず置いておこう」

 2人が想夜達に気付いた様子はなかった。とは言っても今後も注意を払う必要はありそうだ。


「・・・そうね。まずは今日のこと、どうするの?」

 そう言って遥香が想夜を見上げる。


「まずいよな。考えてなかったわけじゃないけど・・・正直、な」

「うん、まさか私達以外に魔法を使える人間が本当にいたなんてね・・・」

 2人は目を合わせるとお互い大きくため息をついた。


『魔法の御言葉・公演』なる催しで披露されたもの、あれは間違いなく魔法だった。

 想夜達は魔法が発現される時に生じる魔力を感じることが出来るし、魔法や状況次第では視認することも出来る。

 魔法使いが複数入り混じる――例えば異世界での戦場であれば人を特定するのは難しい場合も多々ある。しかしあの場所では、魔導巫女なる女が魔法を発現するのをはっきりと確認することが出来た。

 そして、想夜は魔導巫女の一挙手一投足を注意深く観察していたが、この場にいない他の3人とは違うと結論づけた。


「どういうことだと思う?」

「どう?まぁ考えられるとしたら・・・」

 想夜は電柱に身を預けて頭を捻る。


 まず重要なことは、自分達以外にも魔法が使えるという事実だ。異世界を経験したからこそ使えるというわけではないのか、それとも――


「俺達以外に異世界を経験している人間がいるとか?例えば飛行機に乗っていた誰かが実は帰ってきているとかさ」

「それは・・・でも聞いたことないわよ。誰か帰ってきていたら大ニュースでしょ」

「まぁ」

 確かに、と想夜は思った。自分も聞いたことがない。一応あとで確認してみる必要はあるが。だとすると異世界を経験してなくても魔法を使うことが可能ということになる。

すると考えられるのは、やはり自分以外の4人が絡んでいるというものだ。4人の誰かがバラした、あるいはバレたか・・・。


「そうだとすると、意図的かどうかは置いておいて、俺達以外にバレたということになるな」

「やっぱりそれしかないよね。でも・・・なんでだろう?」

 遥香が下唇をいじりながら考え込む。


 想夜はそんな遥香から目を離して劇場の方をみた。『魔法の御言葉』のスタッフ達がでてくる様子はない。あの女の姿を見ることが出来れば何か分かるかもしれないのだが。

 そちらはもう少し待つことにして、想夜は改めて頭を捻って考えてみる。ふと浮かんだのは


「・・・警察関係者とか?」

「え、さすがにそれはないでしょ。いくらなんでもそれは・・・」

 言いかけて、遥香が何かが思い当たったように口を噤んだ。


「俺は魔法を使う時にはかなり気を使ってきた。皆もそうだとしたら、バレるなら警察くらいしか思いつかないんだよな」

「・・・保護された時に持ち物も服装も全部見られているから?」

 遥香が真剣な表情で言った。

 

 想夜達が発見された時の服装は異世界のものだったのだ。とはいえ、その恰好は異世界の上流社会では、簡易正装という呼ばれる現代の軍服と学校制服の中間のようなデザインのもので、幸いにも見るからに浮く様なものではなかったはずだ。しかし、


「あの時、服装についてそこまで聞かれなくておかしいなと俺は思ったよ。だって流石に海外に行く私服にしては、少し場違いな感じじゃないか?」

「まぁ・・・。でも正直に言うと、私は向こうの民族衣装とか、普段着を着ている時じゃなくて助かったって思っていた、かな」

「それは俺も思ったよ」

 想夜もおもわず苦笑いを浮かべた。


 あの時、そんな格好だったのは、デステリア聖王国の聖騎士様に成り上がっていた久坂に偶然出会ったからだ。そして、その久坂の誘いで隣の大陸に渡る途中、現代へ帰還することになった。その時は、表向き聖騎士の従者ということもあり、簡易正装などという服を着ていたわけだった。

 そんな格好についての反応を確かにおかしいなと思う反面、少し変わった服装の学生くらいに思われたのかなとも考えたのだ。家に帰ってから、家族に「あなたそんな服もっていた?」とも聞かれたが、それ以外にも色んなことがありすぎて、次第に記憶の隅に追いやられていた。

「・・・警察には今も時々呼ばれるじゃない?高ノ瀬はなにか特別なことをされる?」

「いや・・・毎回同じようなもんだな。思い出したことはないか?とか、事故前の記憶について聞かれたりとか」

「私も同じようなものね」

「そうか」

 2人は黙り込んだ。


 現在、警察には2か月に一度程度呼ばれ、一時間ほど話をして帰る。ただそれだけだ。聞かれる内容もおかしな点はない。未解決事件なので、こうして今も協力を仰がれるのはおかしなことでないだろう。


「・・・やっぱりあの時に、魔法がバレたっていうのは考えにくい気がする。魔具の件もあるし」

「それは、まぁ・・・あるか」

 確かに魔具はみられていた。想夜達のことを超常現象に巻き込まれたのでは?くらいは考えている人間もいるだろう。だけどあの貴金属にしかみえないものを魔法という超常現象と結びつけている人間はいるだろうか。

 やはり可能性としては低いか・・・と想夜は別の可能性について頭を巡らせる。


「誰かが魔法を使っている所をみられた」

「見ただけでそんな使えるものでもないでしょ。第一、魔具はどうするのよ?」

「詠唱は・・・俺らでも無理だからな」

 魔具を介さなくても詠唱によって魔法は使用できる。しかし長い上に途中決まった印を組んだり、印に応じた体内での魔力生成など、魔法への敷居は格段に高い。魔具というものがなければ、IL633便の乗客で魔法を使えた人間は、数人もいなかったかもしれない。


「となると、やっぱり誰かが意図的にって・・・ことになっちゃうな」

 想夜の言葉に遥香が嘆息交じりに「そうね」と答える。

 その時、想夜の視界の隅に劇場から出てくる数名の男女が目に入った。


「おい、出てきたぞ」

 想夜の言葉に遥香もはじかれたように劇場の方をみた。


 全員がお揃いのブラックスーツ。何名かはサングラスをかけていて顔がはっきりと分からないが、あの中に魔導巫女イリアがいるのだろうか。

 遥香に後をつけようか相談しようとした時、ブラックスーツの集団の前に2台の車が止まった。おそらく近くで客人が出てくるのを待って待機していたのだろう。


「え?どうする?」

「どうするっていったってな・・・」

 想夜は周りを見渡してみるが、ドラマのように都合よくタクシーが走っているわけでもない。つまり現実的な手段として、車を追うすべがない。


「ああ・・・いっちゃった」

 去って行く車を見送りながら、遥香が言葉程は惜しそうでもない様子で呟いた。


「今日はとりあえずここまでか」

 仕方がないと思っていると

「・・・皆には話さないの?」

 遥香は意外そうな表情で想夜を見た。


「それだよな。さて、どうしようか」

 今ある情報から推測すると、自分達の誰かが意図的に魔法を人に伝えた可能性もある。そうなると、あの『魔法の御言葉』なる団体には、誰かにとって何か目的があるはずだ。

 それが分からないうちに、こちらが知っていることを伝えるべきか。


 別に悪用が目的とは限らない。現に参加者が何か損した様子も今の所はなさそうだ。

 隣では遥香が「花梨とはどんな関係だったんだろう」などと呟いているが、武田花梨の件とこの団体に関連があるかどうかも分からない。案外、話せば誰かが正直に話すかもしれないし、話さなくともリアクションで誰か分かるかもしれない。


 といっても問題は悪意があってもなくても・・・

 自分に止める権利があるのだろうかと想夜は思った。勿論バレることで自分達が迷惑被るのはとても困る。もし殺人に関わっていたなら・・・どうするべきか。


(魔法を制限する法律とかがあるわけでもないしなぁ・・・)


 倫理的な問題はある。しかし、もし仮に、自分の友人・知人が自分にしか知りえない方法で法を犯した場合、これはどうしたらいいのだろうか。

 想夜はふとそんなことを考えていた。


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