表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

ブラックコーヒー


初めてブラックコーヒーを飲んだ。


今日はなんだかいつもよりも視界が暗い気がして。理由はわからないけれど、朝から眠くて。

学校帰りに自販機の前に立ったとき、買ったこともない80円の缶コーヒーに目が止まったのだ。


一口ずつ、強い苦味と酸味を噛み締めながら、ゆっくりゆっくり飲み込んで。

左手に缶を、右手にキャップを持ってふらふらと家路を行く。


視界は暗いまま。

でも頭だけは冴えたから、頬に当たる風の感触が妙に鮮やかに身に染みる。コーヒーを口に含む間は、言葉を使わずに、ずっと何かを考えている。

傾けると缶の中でかすかに揺らぐ水の音が、耳に残った。


私は紅茶派だ。やさしく深みのある味には安心感を覚えるから、紅茶が好き。

でもこの一瞬だけ、コーヒー派の人の気持ちがわかった気がした。

安っぽい、苦くて酸っぱい、心を刺すような香りにあてられると、見つけたい何かに手が届きそうで。

言うなれば、紅茶は目を逸らさせるもの。コーヒーは目を向けさせるもののように感じたのだ。


さすがに慣れないから、なかなか飲み終えられず、重い缶を持ったまま玄関扉をくぐり抜けた。

風が止む。目を上げる。すると、とっちらかった室内に溶け込むように、急に思考がぼんやりとしてくる。無造作にテーブルに缶を置いて、いつものように意味もなくPCの前に座り。

はっと気がつくと、冷めきって冷たくなった安いコーヒーがちょこんと座って私を待っていた。


口に含む。また何かを考える。


衝動的に、コーヒーを電子レンジに突っ込む私がいた。コーヒー好きの人たちには怒られそうな所業だと思う。でも、冷たいコーヒーはなんだかとても寂しかったのだ。

温め直したそれを一気にあおって思うことは一つだ。

やっぱり不味いなあ。と。


初めてのブラックコーヒーは不味かった。私が紅茶派なのは揺るがない。

でも、たぶん、これからはたびたびこの不味さにお世話になるのだろう。






2016年9月20日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ