序章
初めて小説を書きます。頻度は高くありませんが何とか書ききってみたいです。
………ピッ、………ガコンッ。
………チャリン。
自販機を利用する客に僕は常に注意を払っていた。
持ち金の少ない僕の目の前で冷えたジュースを買う人たちを、ただ羨ましそうに眺めていたわけではなかった。
客が自販機の前から離れ、後ろ姿が見えなくなるまで待ち続けた後、おもむろに周囲の様子をそれとなく確認する。誰もいない。周囲には監視カメラも見当たらない。それも当然のことで、僕が注意を払っている自販機はそうでなくてはならない。これからすることは誰かに見つかってしまってはいけないものだ。
徐々に早くなる心臓の鼓動を抑えながら再度周囲の確認を行う。念には念をいれなければならない。タイミングが重要なのは言うまでもなかった。
今だ―――、と僕は早足で自販機の前へ向かった。自販機の前に立つなり僕はつり銭口に開いた手を入れすぐに拳を握った。そして勢いよく手を引き抜きすぐさま自販機の前を離れた。
「やっぱりね」
僕は自販機から少し離れた電柱の陰で握り拳を開き、手の中にある一枚の百円玉を見てニヤリとして言った。
よくジュースを千円札で買った後、おつりが百円玉で出てきた際に取り忘れがあったりする。これは僕としては見逃せなかった。小学校三年生の僕からしたら百円なんて大金だ。月に学年数×百円しかお小遣いをもらえない僕からするとおよそ十日分のお小遣いに相当する。それがこんな簡単に手に入ってしまう。
僕はこんなことを学校が終わった放課後や休日によくやっている。
僕自身悪いことをしているという気持ちがないわけではない。これは人のお金を盗んでるのと変わらないのでは、―――と。父親には盗みはいけないことだ日頃から言われている。でも、母親にはお小遣いが足りない、もっと欲しいとおねだりすることもしょっちゅうだ。
僕のような年だと、周りの友達に合わせるために漫画雑誌を買って感想を用意したり、文房具を新調して自慢したりと何かとお金がかかると思っている。だから、やっぱり月のお小遣いじゃ限度がある。
そこで思いついたのがこの方法だ。自販機のおつりの取り忘れというのは見ていると意外とあって、利用客が忘れていっているものだからそもそも気付かないし、気付いたとしても中学生以上の人なら、どうせ百円くらいと案外諦めてしまうのだ。
少し悪い気はするけど、誰の手にも渡らないものなら僕が貰っても同じだろうという考えが、いつの間にか僕の中に刷り込まれていた。