ひとり
友達との遊びはとても楽しいものだった。あの日までは……。
その日はいつものようにみんなでワイワイと楽しく遊んでいた。その中に一人だけ浮いている子がいた。真面目で優等生で通っていた沙織だ。
彼女は結んでいた三つ編みをほどきふわりとした髪を振り回しながらカラオケで歌っていた。周りの皆は聞いていないのかそれぞれが喋っている。
「でさー、そうなるんだって……。」
「へぇ〜。そうなんだぁ。」
「あっ、終わったみたい。次私の番ね。」
「らららー、……。」
友達は歌い始めるとノリノリで振り付けなんかも入れていた。沙織はその中でぽつんと座っている。
人数合わせで集められただけなのかもしれない。それでも文句も言わずに黙って聞いていた。
友達が歌い終わり、今度は私の番になった。
私の選んだ曲はバラード系の曲で、歌いやすく、よく歌っている曲だ。
皆うっとりと聞いている。
「歌、うまいね〜。」
「そんなことないって。」
「またまた、…そんなこと言ってて本当は嬉しいくせに。」
まぁ確かに悪い気はしない。そこに沙織が口を挟んだ。
「感情がこもってない……。ただ歌ってるだけみたい……。」
むかっときた私は沙織にくってかかった。
「あんたはおとなしく座ってればいいんだよ。人数合わせで連れてきただけなんだからね。」
そう言うともう沙織の存在を無視して友達と歌い出した。ノリのいい曲で皆楽しく歌っている。それから2時間…カラオケは盛り上がりながらも終了した。
「楽しかったね〜。」
「うん、誰かさんがいなかったらもっと楽しかったかも知れないけれどね〜。」
「ちょっ、あんまし言わないほうがいいよ。」
「何で〜?いいじゃん、本当の事だし……。」
私はそう言いながら沙織に向かって吐き捨てた。
「あんたなんか呼ばなきゃよかったよ。」
それから数日後、授業の内容により、沙織と組んで勉強しなくてはならなくなり、イヤイヤながら黙って組んだ。
だが、実験をしなくてはならなくなり黙々と実験を始めた。1人ではじめた実験はなかなか思うように進まず、面白い結果にもならなかった。そして、その矛先は沙織へと向かっていく。
「あんたがいるから私の実験が失敗したんじゃん。どうしてくれるのよ!」
「ちょっ、言い過ぎだって。」
「あんたも沙織の肩を持つの?ならもういい。あんたとも遊ばないわ。」
私はそう言ってその場から出て行った。
「沙織、あんなに言われて黙ってるの?」
「何で?だって可哀想じゃない。彼女一人になっちゃうし…。」
「沙織はそれでいいの?」
「わたしは慣れてるから。彼女はそうじゃないと思うから。」
「あんた優しすぎるわ。誰かさんもそこんとこわかってくれればいいのにね〜。」
沙織はそれだけ言うと帰って行った。
翌朝、学校でちょっとしたトラブルが発生した。それは本当に些細なものだったが、その原因を沙織のせいにした。
「あんたのせいでしょ?沙織。白状しなさいよ。」
「わたしじゃない…です。」
「いや、絶対にあんただよ。沙織。」
私はそう言ってテープレコーダーをポケットから取り出した。そして再生ボタンを押すとニヤリと笑った。
それは沙織が誰かと会話をしているものだった。内容まではっきりと聞き取れないが、問題の答えは聞き取れた。
沙織が誰かに指示を出しているものだ。普段の彼女とは全くの正反対で生き生きとしている。そして最後にこう言っている。
「彼女にばれないようにね〜〜。」
「ほーらごらん、沙織も白状したら?私ですってね。」
沙織は真っ青になっていた。
「いや、それは沙織のせいじゃない。私がそういうことしたから注意してくれたんだよ。」と友達はそう言った。しかし私はそんなことを聞いてはいなかった、沙織が悪い。ただそれだけの理由が欲しかったのだ。
「あんたさー沙織がどんな気持ちでいたの考えたことあるの?」友達にそう言われハッとした。しかし、周りのみんなは私に冷たい目を向けている。
「わた、私が悪いの?全部私が…。」
私はそれだけ言うとその場を離れた。
私を追いかけてくる子は誰もいなかった。
私はそんな風に見られていたのだ。
トボトボと階段付近まで来るとぽつりと呟いた。
「沙織がいなければ…。」
「クスクス。…。」
「誰?!」
「あんたは誰からも必要とされてない。あんたは一人だ。ぎゃはははは。」
「隠れてないで出てきなさいよ!」
「隠れてないよ。あんたのすぐ後ろに…いるよ。」私はすぐに振り返った。すると私よりも小さな女の子が立っていた。
「あんた、…誰?」
「あんたと同じ一人ぼっちの子よ。さぁ、私と一緒に行こう。」
「何処へ?」
「楽しいところ。キャハッ。」
そう言って私の手を取った。その手はとても冷たく、まるで氷のようだった。
「ひっ。」
私はびっくりして手を離した。
しかし直ぐに手を掴んでくる。
「離して!」
少女は手を離そうとはしなかった。その力はとても少女のものとは思えなかった。
怖くなった私は叫びだした。
「誰か!誰か助けて!!」
そう叫んでも誰もやってくる気配はない。
諦めかけたその時一人の女の子がやってきた。その子はなんと沙織だった。
「な、なんであんたがここに…。」
「叫び声が聞こえた気がして走って来たの。やっぱり何かあったのね?」
その声はいつもの彼女からは想像もできない力強い声だ。
私は一瞬放心状態になってはいたが、直ぐに気持ちを切り替えて助けを求めた。
「わかったわ。もう大丈夫よ。悪霊退散!」
そして沙織の声と同時に強かった気持ちが消えていった。
一人でいることの恐怖を実感した私は沙織への意地悪をやめようと心に決めた。
みんなもう一人じゃない。