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自称占い師

十一時という開店時間は、寝坊をよくする葵の事を考えて、他の店のオーナーが提案してくれたものだ。

本当は、一時位がベストだと主張してみたのだが、それはドSの玲によって却下され、看板もチラシも出来上がった物には全て十一時と書かれていた。

このドSと罵りそうになったけれども、それまでに受けた労働という名の拷問を思い出し、結局反論は出来なかった。


そんな訳で、葵は店を開店してから一時間ほどすると、うつらうつらと船を漕ぎ始めてしまう。

特に、春先のポカポカした日や、梅雨時の静かな日は昼寝にぴったりで、気付いたら客が帰る前だったという事ももう何度か。

その度に玲から大目玉を喰らうのだが、奴が何故居眠りに気付いているのか、どこかに監視カメラがあるに違いないと葵は思っているのだが、それを見つけた所できっとまた仕掛けられるだろうと、結局探すに至っていない。


そして、その日の一時ごろも、いつものように葵はカウンターに座り、店番という名の昼寝を満喫していた。

今日は玲も馴染みの所に出向くとかで、店に来ていない。

絶好の昼寝日和だったのだが、ふとカランカランというドアに取り付けられたドアベルが鳴る音で、葵は店の入り口に目をやった。


「いらっ・・・しゃいませ・・・」


そこには、着物を粋というか斬新というか、最早改造としか呼べないような着こなしをした女性が一人立っていた。


(あれ?私、夕方まで寝てた?)


昼に来る客層に、こんな風変わりな客はいない。

一応、人間の客しか昼は相手していないので、一瞬寝過ごしたかと思ったのだ。

慌てて店に掛けてある時計を見てみるが、針が指す時間は一時半過ぎ。


えっ、じゃあこれ人間?と思った葵は悪くないと思う。

それほどまでに、その客は変わっていたのだ。主に、見た目が。


黒地の振袖に、朱と紫で描かれ金糸で縁取られた蝶が数羽舞っている。それに、フリルをふんだんにあしらった黒のミニスカートが合わせられ、腰の辺りをレースを使った帯らしきもので締めている。

足は、左右長さの違う黒と紫のレースストッキングを履き、靴は履くのに時間が掛かりそうなロングブーツと、一見すればゴシック調のようだが、和服を取り入れている時点で、なんだか違和感のある服装に仕上がっている。

それを着こなす彼女は、何故か、壁一面に掛けられている鏡や扉の絵が気になるようで、それを一つ一つ丁寧に眺めている。


そして、ドアの真上、どれよりも簡素で古めかしい朱塗りの鏡を見付けると、彼女は葵の方を向き、声を掛けてきた。


「これ、私に売って下さらないかしら?」

「それ・・・ですか?」


彼女が売って欲しいと頼んできた鏡。それは、ヤコ様が出入りする専用の鏡で、葵が一番最初にこの店に飾った鏡だった。

そして、この鏡は見る人間を選ぶ鏡でもあるのだ。

それを彼女が欲しいと言った事に、葵は少しびっくりしていた。

まさかの・・・


「同業者・・・?」


ポツリと漏らしたその一言に、目の前の彼女はニヤリと口角を上げ、仰々しいまでの礼を葵にすると、その名を名乗った。


「私、占い師の夢野夢々(ゆめのゆめゆめ)と申します。少しばかりふざけた名前ではありますが、本名は明かせませんのでご容赦を。これから度々ではありますが関係する事がある事でしょう。ですので、本日はご挨拶代わりにこちらの神道鏡しんどうきょうをお譲り頂こうと参りました。これから、どうぞ宜しくお願いいたしますね、葵さん」


(お断りします!!)


と心の中で思ったものの、無言の圧力でしっかり口にチャックをしておいた。実際、夢野の言う通りその鏡は『神道鏡』で間違いないので、夢野自身の事もあながち間違いではないのだろう。

そもそもヤコ様達が通ってくる神道鏡は、霊力のある人間や、巫女、先読みの一族などがその存在を見る事の出来る鏡なのだ。

一般の人には、その鏡すら見る事が出来ない。

自称占い師の夢野もきっと、占い師という職業から推察するに、先読みの一族なのだろう。

だとして、こうもあからさまに挑発されるという事は、どうやら今後の関わり方も厄介な物でしかないに違いない。


面倒くさいなぁと思うものの、この手の同業者を敵に回したくないのも事実。

ここは一つ穏便に解決しようと、葵はよっこらしょとカウンターから立ち上がり、夢野の元に向かうのだった。



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