第7話 「その弱点、見えてます。」
# 第7話 その弱点、見えてます。
岩殻トカゲに負けた翌日。
唯:「…………キャピ」
(よし)
私は岩壁に張り付きながら、昨日逃げてきた方向を見つめていた。
怖い。
正直、今すぐもう一回行きたいとは思わない。
牙は通らない。爪も効かない。
向こうの攻撃は、一発でもまともに食らえば致命傷になりかねない。
どう考えても、今の私では勝てない。
唯:「キャピ!」
(なら、強くなればいい!)
単純である。
でも、他に方法もない。
というわけで。
今日から私――。
唯:「キャピキャピ!」
(修行します!)
◇
まず始めたのは、飛ぶことだった。
ただ速く飛ぶだけじゃない。
急旋回。急上昇。
急降下。急停止。
岩の間をすり抜け、壁すれすれで方向転換する。
唯:「キャピィィ!?」
――ゴンッ!
失敗して岩壁に突っ込んだ。
唯:「…………キャピ」
(痛い)
でも、やめない。
昨日、岩殻トカゲから逃げ切れたのも《飛行》があったからだ。
もっと速く。
もっと細かく。
自分の翼を、思った通りに動かせるようにする。
そして――狩る。
洞窟ネズミ。
見つける。
《鑑定》。
《隠密》で近づく。
急降下。噛む。
吸う。食べる。
次。また次。
◇
そんな生活を、しばらく続けた。
洞窟には太陽がない。
だから正確な日数は分からない。
眠って、起きて。
狩って、食べて。
飛んで、また眠る。
それを何度繰り返しただろう。
最初は一匹狩るだけでも緊張していた洞窟ネズミも、今ではほとんど苦戦しない。
真正面から突っ込むことも減った。
相手に見つかったら、一度距離を取る。
岩陰へ消える。
《隠密》。
相手が私を見失ったところで――もう一度、後ろから襲う。
唯:「キャピ!」
(そこ!)
「ヂュ!?」
ガブッ。
仕留める。
唯:「…………キャピ」
(うん。いい感じ)
戦い方が、少しずつ分かってきた。
私は強くない。
身体も小さい。
だったら、真正面から戦わなければいい。
見つからずに近づいて。
相手より速く飛んで。
死角から噛みつく。
それが今の私の戦い方だ。
◇
ある日。
いつもの水場へやってきた。
唯:「キャピ~」
(喉渇いた~)
浅い地下水が溜まった、小さな泉。
ここには何度も来ている。
水面へ顔を近づけた、そのとき。
――ぽちゃん。
唯:「キャピ?」
何かが水中へ消えた。
波紋だけが広がっている。
唯:「…………キャピ」
(魚?)
覗き込む。
何もいない。
しばらく待ってみる。
…………。
出てこない。
唯:「キャピ」
(まあ、いっか)
◇
次の日。
――ぽちゃん。
唯:「…………キャピ」
◇
さらに次。
――ぽちゃん。
唯:「…………」
いる。絶対なんかいる。
唯:「キャピ!」
(今日は逃がさん!)
少し離れた岩陰に隠れ、《隠密》を発動する。
待つ。
…………。
…………。
長い。
唯:「…………キャピ」
(まだ?)
さらに待つ。
すると。
水面から、ゆっくり二つの目が出てきた。
緑がかった小さな頭。
カエルだ。
唯:「…………キャピ」
(カエルじゃん)
ただし、ここは異世界。
油断はしない。
(《鑑定》!)
**《洞窟カエル》**
**魔物ランク:F**
**個体Lv:2**
**状態:正常**
**保有スキル:弱点感知Lv.1/潜水Lv.1**
**生息域:洞窟浅層・地下水域**
**特徴:地下水域に稀に生息する小型魔物。非常に臆病で、
敵の急所や危険な部位を感知する、捕食者との戦闘を避ける。**
唯:「…………キャピ」
(レアなの?)
しかも――。
**《弱点感知Lv.1》**
唯:「キャピ?」
(弱点感知?)
相手の弱点が分かるってこと?
その瞬間。
頭に浮かんだ。
硬い鱗。
通らなかった牙。
傷一つつけられなかった腹。
唯:「…………キャピ」
(これ……)
欲しい。
唯:「キャピ!」
(めちゃくちゃ欲しい!)
私は飛び出した。
――ぽちゃん!
唯:「キャピ!?」
消えた。
◇
待つことしばらく。
また出てきた。
(今度こそ!)
《隠密》。
音も立てない。
ゆっくり近づく。
あと少し。
あと――。
――ぽちゃん!
唯:「キャピィ!?」
(なんで!?)
見つかってないはずだ。
音だって立てていない。
なのに逃げた。
もう一度。
――ぽちゃん。
また。
――ぽちゃん。
唯:「キャピィィ!」
(逃げるの上手すぎるだろ!)
弱い。
戦えばたぶん勝てる。
なのに――戦わせてもらえない。
そこでようやく気づいた。
《弱点感知》。
説明には、こうあった。
**敵の急所や危険な部位を感知し、捕食者との戦闘を避ける。**
唯:「…………キャピ」
(私そのものが、危険判定されてる?)
なら、《隠密》だけではダメだ。
◇
私は襲うのをやめた。
代わりに、観察する。
どこから出てくるのか。
どこへ逃げるのか。
何度も水場へ通った。
すると、一つ気づいた。
危険を感じた洞窟カエルは、水中へ潜る。
でも、しばらくすると必ず水際にある岩陰へ移動する。
唯:「…………キャピ」
(だったら)
追いかけなければいい。
先に待っていればいい。
◇
私は岩陰の上で待った。
動かない。
ただ待つ。
やがて。
――ぽこん。
水面から小さな頭が出る。
まだ動かない。
カエルが水から上がった。
一歩。
二歩。
こちらへ近づいてくる。
唯:「…………」
あと少し。
今。
唯:「キャピ!」
「ゲコッ!?」
飛び降りる。
逃げるより先に――。
ガブッ!
牙が通った。
そのまま《吸血》。
唯:「…………キャピ」
(やっと捕まえた)
小さな身体から生命力が流れ込んでくる。
そして。
――ピコン。
**《吸血対象から生体情報を取得しました》**
唯:「キャピ!?」
**《適合する簡易スキルを確認》**
**《スキル《弱点感知Lv.1》を取得しました》**
唯:「…………キャピ」
一瞬、理解が遅れた。
そして。
唯:「キャピィィィ!」
(きたぁぁぁ!!)
欲しかった。
本当に欲しかったやつだ。
唯:「キャピキャピ!」
(よし! 試す!)
◇
近くで洞窟ネズミを一匹見つけた。
まず《鑑定》。
いつもの情報が表示される。
次に――。
(《弱点感知》)
意識を集中する。
すると。
唯:「…………キャピ?」
説明が出たわけじゃない。
文字も見えない。
なのに。分かる。
首の横。
そこだけが、妙に気になる。
まるで身体が、
**「ここを狙え」**
と教えてくれているような感覚。
唯:「…………キャピ」
(鑑定とは違う)
《鑑定》は相手を知る。
《弱点感知》は――。
**倒す場所が分かる。**
その瞬間。
私の頭に浮かんだのは、洞窟ネズミではなかった。
灰色の身体。
岩みたいな鱗。
牙も。爪も。
何一つ通らなかった――。
**《岩殻トカゲ》**
唯:「…………キャピ」
口元が、自然と緩んだ。
あいつにも。
もし――。
**牙が通る場所があるとしたら?**
唯:「キャピ」
(もう一回、やろうか)
**――第7話 その弱点、見えてます 完**




