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発生 ー「私」の誕生ー

作者: 天川 ao
掲載日:2026/07/05

ぽこぽこ。音がした。何の音だろう。

私は目を開けようとする。

目はどこだ。目を探す。

ここだろうか。力を込めてみる。

んんっ!

……ぽこっ。

音がした。それと同時に明るくなる。

まぶしい。今までは暗かったのか。明るくなって初めて気づく。

私は何だ。だんだんと光に慣れてくる。

ここはどこだろう。辺りを見回す。

真上に大きな木。幹は茶色で、根が張っているのが見える。上のほうに葉っぱだろうか。風に揺られてさらさらと音が鳴っている。

動きたい。足を探してみる。

どこだろう。ここだろうか。

力を込めてみる。ぽこっ、ぽこっ。

何かが生える。自分の体を見ようとして、しかし見えないのに気付いた。

景色は360°。下を見ても、黒に近い地面が見えるだけだ。

……仕方がない。足らしきものを持ち上げる。

視界が動いた。自分が地面から持ち上がっていく。

私はもう一度下を見た。……なんだこれ。

二本の「足」が見える。しかし透明だ。

スライムに近いだろうか。水を帯びているようで、少しねっとりしているように思える。

別のものが見えないだろうか。ほかの場所から見てみる。

今まで通り黒に近い地面が見えた。そこで気づく。

私はどこで見ているのだろうか。目のはずだ。

もう一度辺りを見渡す。黒っぽい地面から、澄んだ青色の空、さらに真上に広がる葉まで見える。

……まあいいや。考えても仕方がない。とりあえずできることをやってみよう。

歩こうとしてみる。片方の「足」を持ち上げて……。

体が一気に傾いた。視界がゆがむ。

気づいたら元に戻っていた。

足がなくなっている。足を使う前の視界だ。バランスを崩して倒れたのだろうか。

もう一回、足を出してみる。そして持ち上げる。また視界が高くなった。

足を持ち上げるからいけないのだろうか。足を引きずるようにして前に置いてみる。

そして上半身を前に移動して……。

上半身?上半身はどこにある?自分の体はどうなっているのだろうか。

うーん、と考えて、手があれば触って、確かめられるのじゃないだろうか、と思った。

手を探す。ここだろうか。力を込めて手を出した。

手を動かしてみる。動かない。

はて?

少し考えた。そして気づく。

手だけあっても動かない。腕を出してなかった。腕は出ないだろうか。腕を出してみる。腕が出た。

腕を動かして、見てみる。

……やっぱり透明だ。スライムのようである。

それにしても、腕に手はついていない。手首付近でなくなっている。

どうやら失敗したみたいだ。

どうやったらつなげられるだろう。少し考える。

一旦腕も手もしまってみた。そして、腕と、その先端に手がついているのを想像しながら出してみる。

出た。確認する。

ちゃんとつながっている。

ねっとりした手を動かしてみる。問題なく動いた。

よし。

体を触ってみる。少し怖い。

手が頭をなでる。そのまま体の線に沿うようにして動かしてみて、驚いた。

丸い。足以外は、球体に近いだろうか。球体から直接手足が生えている。

なるほど。

自分の状態が分かったところで、自分が動こうとしていたことを思い出した。

今は、仁王立ちのような状態だろうか。もう一方の足を引きずるようにして動かしてみる。動いた。

元の場所からほんの少ししか動いていないが、動くことができた。

少しうれしい。

この調子で動くことができないだろうか。

私は日が暮れるまで動いた。

動けたのは、だいたい5歩くらいだろうか。

大きな木が、少し後ろにある。すごく疲れた。

景色は、最初とほとんど変わらない。黒っぽい土に、空。どちらもどこまでも続いているようで、地平線まで見えた。

途中、とても綺麗な夕焼けを見た。日が地平線の近くに行って、周りの空が赤い。赤や橙の空の反対側を見れば、青を濃くした深い藍色の空が広がっている。

これまで見たことがない、涙が出るように美しい景色だった。

そこまで考えて、あれ?と思う。

私はいままで夕焼けを見たことがあるのだろうか。いつ、どこで見たのだろうか。

しばらく考えてみる。

しかしわからない。歩く途中、いろいろ考えたが、わからないことが多かった。

わからないことは考えるのをあきらめる。日が暮れて周りが見えなくなったので、私は立ち尽くした。

ボーっとする。

すると不思議なことに、月がどんどん移動していくのだ。明らかに時間間隔がおかしい。

自分では30分ほどしかたっていないのに、月は日と同じ方向へ消えて行って、代わりに日が昇ってきた。

だんだん明るくなっていく。

私は周りを見渡して驚いた。

そこは、昨日いた場所ではなくなっていた。大きな木も、黒い地面も消え失せて、その代わりに原っぱだろうか。私の足ほどの長さの草が生えている。

空は青ではなく、橙だろうか、それとも紫だろうか、不思議な色をしている。

みるみるうちに雲がかかっていく。

私はどこへ行けばいいのだろう。ひどく困惑した。

そのまま立ち尽くしていると、次第に雷が鳴ってきた。

ゴロゴロ、ゴロゴロ。

雨は降っていない。現実とも思えない、ひどく幻想的な光景だった。

空の上から、一筋の光がさす。

それと同時に、バキバキ、と音がした。自分の体に衝撃が加わる。

と同時に視界が揺れた。また足がなくなったみたいだ。視界が低くなる。それと同時に声がする。


「お主、こんなところで何しておるんじゃ。」

私は声の主を探した。どこだろうか。


「ここじゃ。」

……もしかして、目の前にある光だろうか。

目の前にある、一筋の光。私の知る限りでは、光は話さない。しかし、声は間違いなくそこから聞こえる。とりあえず返事をしてみようか。


「」

声が出ない。そういえば口はあるのだろうか。

それは考えていなかった。私は口を出す。

今度こそ返事をしようと口を開いたが、声が出ない。


「無視するとは悲しいのう。」

違う。無視しようとしていない。声が出ないのだ。そう言えたらよかった。しかしどうすれば声が出るのかわからない。私は途方にくれたのだった。


「それにしてもこんなところにいるのは珍しいのう。そなたのような類は、あっちにおるのじゃが。」

声の主がそういった。あっちとはどこだろう。

私は辺りを見回す。しかし何も見えない。ただ私の足ほどの草が見えるだけだ。


「おお、もしかしてそなたにはみえないのかの?今いる世界しか見えないのは哀れじゃのう。」

そういって光は私の真上に移動した。思わず上を見上げる。

上からなにか粉のようなものが降ってきた。パラパラと、私にかかる。

思わず払いのけようとして、「じっとせい。」と言われた。手をどける。


「よし、これでそなたにもみえるじゃろうて。」

満足げに光の主はいった。

私はもう一度当たりを見渡す。真上。

それは衝撃的な光景だった。

世界が見える。

こことは違う世界。

どこかで見たような高い建物。黒くて固い地面。走る四角い塊。

それに一瞬懐かしさを覚える。しかしそれがなんだったのか、すでに忘れていた。

そしてさらにその奥、それも違う世界だった。

地面が白い。砂、だろうか。それが風に吹かれて移動していく。移動する砂はどんどん多くなっていて、渦を描くようにまわる。

それを、私は吸い寄せられるように見ていた。目が離せない。なぜだろう。目を離してはいけないような気がした。

それもすぐ終わる。

その先にあったのは、また違う世界だった。どんどん、何重もの世界が見える。それはここから見る限り、重なっているように感じられた。


「お主はどこに行きたい?ここにひとりでいるのは、きっと寂しいことじゃろう。わしが移動させてやる。」

その声はどこか、優しげだった。

どんどん、熱に浮かされたように意識がもうろうとしてくる。どの世界、どこに行きたいのだろう。私はぼんやりとした頭で考える。

……分からない。自分がどこに行きたいのか。どこに行くのが良いのか。そもそも、自分とは何なのか。どう生きていくのか。答えは出ない。

まとまらない考えが、頭の中をめぐっていく。満たしていく。


「よしよし。お主、わからないのか。では、わしが選んでやろう。……そうじゃなあ。ここ、とかどうじゃろう。」

頭の中に、一つの世界が浮かんだ。

美しくはない。神秘的でもない。ただ、何の変哲もない。しかし、妙にそこが気に入った。

ここでいい。ここがいい。

ぼんやりとした頭で私は何度か体を動かした。


「そうかそうか。ここがよいか。ではここに飛ばしてやろう。それ!」

目の前の光が一際強く輝く。なぜだか心地よいような、不思議な心地がして、意識が遠くなった。



読んでくださり、ありがとうございます。

初めて書いた作品なので読みにくかったかと思いますが、もしよろしければ感想書いてくださるとうれしいです。

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