発生 ー「私」の誕生ー
ぽこぽこ。音がした。何の音だろう。
私は目を開けようとする。
目はどこだ。目を探す。
ここだろうか。力を込めてみる。
んんっ!
……ぽこっ。
音がした。それと同時に明るくなる。
まぶしい。今までは暗かったのか。明るくなって初めて気づく。
私は何だ。だんだんと光に慣れてくる。
ここはどこだろう。辺りを見回す。
真上に大きな木。幹は茶色で、根が張っているのが見える。上のほうに葉っぱだろうか。風に揺られてさらさらと音が鳴っている。
動きたい。足を探してみる。
どこだろう。ここだろうか。
力を込めてみる。ぽこっ、ぽこっ。
何かが生える。自分の体を見ようとして、しかし見えないのに気付いた。
景色は360°。下を見ても、黒に近い地面が見えるだけだ。
……仕方がない。足らしきものを持ち上げる。
視界が動いた。自分が地面から持ち上がっていく。
私はもう一度下を見た。……なんだこれ。
二本の「足」が見える。しかし透明だ。
スライムに近いだろうか。水を帯びているようで、少しねっとりしているように思える。
別のものが見えないだろうか。ほかの場所から見てみる。
今まで通り黒に近い地面が見えた。そこで気づく。
私はどこで見ているのだろうか。目のはずだ。
もう一度辺りを見渡す。黒っぽい地面から、澄んだ青色の空、さらに真上に広がる葉まで見える。
……まあいいや。考えても仕方がない。とりあえずできることをやってみよう。
歩こうとしてみる。片方の「足」を持ち上げて……。
体が一気に傾いた。視界がゆがむ。
気づいたら元に戻っていた。
足がなくなっている。足を使う前の視界だ。バランスを崩して倒れたのだろうか。
もう一回、足を出してみる。そして持ち上げる。また視界が高くなった。
足を持ち上げるからいけないのだろうか。足を引きずるようにして前に置いてみる。
そして上半身を前に移動して……。
上半身?上半身はどこにある?自分の体はどうなっているのだろうか。
うーん、と考えて、手があれば触って、確かめられるのじゃないだろうか、と思った。
手を探す。ここだろうか。力を込めて手を出した。
手を動かしてみる。動かない。
はて?
少し考えた。そして気づく。
手だけあっても動かない。腕を出してなかった。腕は出ないだろうか。腕を出してみる。腕が出た。
腕を動かして、見てみる。
……やっぱり透明だ。スライムのようである。
それにしても、腕に手はついていない。手首付近でなくなっている。
どうやら失敗したみたいだ。
どうやったらつなげられるだろう。少し考える。
一旦腕も手もしまってみた。そして、腕と、その先端に手がついているのを想像しながら出してみる。
出た。確認する。
ちゃんとつながっている。
ねっとりした手を動かしてみる。問題なく動いた。
よし。
体を触ってみる。少し怖い。
手が頭をなでる。そのまま体の線に沿うようにして動かしてみて、驚いた。
丸い。足以外は、球体に近いだろうか。球体から直接手足が生えている。
なるほど。
自分の状態が分かったところで、自分が動こうとしていたことを思い出した。
今は、仁王立ちのような状態だろうか。もう一方の足を引きずるようにして動かしてみる。動いた。
元の場所からほんの少ししか動いていないが、動くことができた。
少しうれしい。
この調子で動くことができないだろうか。
私は日が暮れるまで動いた。
動けたのは、だいたい5歩くらいだろうか。
大きな木が、少し後ろにある。すごく疲れた。
景色は、最初とほとんど変わらない。黒っぽい土に、空。どちらもどこまでも続いているようで、地平線まで見えた。
途中、とても綺麗な夕焼けを見た。日が地平線の近くに行って、周りの空が赤い。赤や橙の空の反対側を見れば、青を濃くした深い藍色の空が広がっている。
これまで見たことがない、涙が出るように美しい景色だった。
そこまで考えて、あれ?と思う。
私はいままで夕焼けを見たことがあるのだろうか。いつ、どこで見たのだろうか。
しばらく考えてみる。
しかしわからない。歩く途中、いろいろ考えたが、わからないことが多かった。
わからないことは考えるのをあきらめる。日が暮れて周りが見えなくなったので、私は立ち尽くした。
ボーっとする。
すると不思議なことに、月がどんどん移動していくのだ。明らかに時間間隔がおかしい。
自分では30分ほどしかたっていないのに、月は日と同じ方向へ消えて行って、代わりに日が昇ってきた。
だんだん明るくなっていく。
私は周りを見渡して驚いた。
そこは、昨日いた場所ではなくなっていた。大きな木も、黒い地面も消え失せて、その代わりに原っぱだろうか。私の足ほどの長さの草が生えている。
空は青ではなく、橙だろうか、それとも紫だろうか、不思議な色をしている。
みるみるうちに雲がかかっていく。
私はどこへ行けばいいのだろう。ひどく困惑した。
そのまま立ち尽くしていると、次第に雷が鳴ってきた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
雨は降っていない。現実とも思えない、ひどく幻想的な光景だった。
空の上から、一筋の光がさす。
それと同時に、バキバキ、と音がした。自分の体に衝撃が加わる。
と同時に視界が揺れた。また足がなくなったみたいだ。視界が低くなる。それと同時に声がする。
「お主、こんなところで何しておるんじゃ。」
私は声の主を探した。どこだろうか。
「ここじゃ。」
……もしかして、目の前にある光だろうか。
目の前にある、一筋の光。私の知る限りでは、光は話さない。しかし、声は間違いなくそこから聞こえる。とりあえず返事をしてみようか。
「」
声が出ない。そういえば口はあるのだろうか。
それは考えていなかった。私は口を出す。
今度こそ返事をしようと口を開いたが、声が出ない。
「無視するとは悲しいのう。」
違う。無視しようとしていない。声が出ないのだ。そう言えたらよかった。しかしどうすれば声が出るのかわからない。私は途方にくれたのだった。
「それにしてもこんなところにいるのは珍しいのう。そなたのような類は、あっちにおるのじゃが。」
声の主がそういった。あっちとはどこだろう。
私は辺りを見回す。しかし何も見えない。ただ私の足ほどの草が見えるだけだ。
「おお、もしかしてそなたにはみえないのかの?今いる世界しか見えないのは哀れじゃのう。」
そういって光は私の真上に移動した。思わず上を見上げる。
上からなにか粉のようなものが降ってきた。パラパラと、私にかかる。
思わず払いのけようとして、「じっとせい。」と言われた。手をどける。
「よし、これでそなたにもみえるじゃろうて。」
満足げに光の主はいった。
私はもう一度当たりを見渡す。真上。
それは衝撃的な光景だった。
世界が見える。
こことは違う世界。
どこかで見たような高い建物。黒くて固い地面。走る四角い塊。
それに一瞬懐かしさを覚える。しかしそれがなんだったのか、すでに忘れていた。
そしてさらにその奥、それも違う世界だった。
地面が白い。砂、だろうか。それが風に吹かれて移動していく。移動する砂はどんどん多くなっていて、渦を描くようにまわる。
それを、私は吸い寄せられるように見ていた。目が離せない。なぜだろう。目を離してはいけないような気がした。
それもすぐ終わる。
その先にあったのは、また違う世界だった。どんどん、何重もの世界が見える。それはここから見る限り、重なっているように感じられた。
「お主はどこに行きたい?ここにひとりでいるのは、きっと寂しいことじゃろう。わしが移動させてやる。」
その声はどこか、優しげだった。
どんどん、熱に浮かされたように意識がもうろうとしてくる。どの世界、どこに行きたいのだろう。私はぼんやりとした頭で考える。
……分からない。自分がどこに行きたいのか。どこに行くのが良いのか。そもそも、自分とは何なのか。どう生きていくのか。答えは出ない。
まとまらない考えが、頭の中をめぐっていく。満たしていく。
「よしよし。お主、わからないのか。では、わしが選んでやろう。……そうじゃなあ。ここ、とかどうじゃろう。」
頭の中に、一つの世界が浮かんだ。
美しくはない。神秘的でもない。ただ、何の変哲もない。しかし、妙にそこが気に入った。
ここでいい。ここがいい。
ぼんやりとした頭で私は何度か体を動かした。
「そうかそうか。ここがよいか。ではここに飛ばしてやろう。それ!」
目の前の光が一際強く輝く。なぜだか心地よいような、不思議な心地がして、意識が遠くなった。
読んでくださり、ありがとうございます。
初めて書いた作品なので読みにくかったかと思いますが、もしよろしければ感想書いてくださるとうれしいです。




