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告白

「その艶のある切長の眼、真っ黒な髪、筋の通った小さな鼻、程よく厚い唇。貴方は本当に美しい!」

 目の前に座っている男の人は気を遣って言わなかっだのだろうがエロくてむしゃぶりつきたくなる体、を加えれば私の外見の説明としては完璧だろう。

「うふふ、ありがとうございます」

「では私との婚約を……」

「申し訳ありません。貴方様の御心は十分に伝わりました。しかし、私はまだ貴方様のことを何も知れていません。婚姻は一生を共にする関係を結ぶということ、貴方様のことをもっと知っていきたいのです」

「そうか、早まってしまって申し訳なかった。また次の機会には、私のことをもっと知ってもらえるようにしよう」

「ではまた」

 これが記念すべき100回目のお見合いの最後のセリフだったし、私があの人にかける最後の言葉だった。

 あの男の人は、いい人だと思う。私がどう思っているかをすぐに察してくれたし、自分のプライドなんて役に立たない時が往々としてあることを知っていた。母が自信を持ってお見合いの相手に選んでくれたのだ。あの母が今までで一番と言うのだから、本当に、この国でも一二を争うほどの人なんだろう。

 でも、私はどうしても男の人と付き合う想像ができない。前世からそうだった。


 高校二年の春、私には好きな人がいた。綺麗な人だった。バスケ部の部長をやっていて、日本刀みたいな鋭さと、確かな優しさを持っていた女の人だった。結局、その人とは何もなく、彼女は卒業した。ずっとその後悔があって、結局出会いがないまま大学を出て、働き始めた。

 働き始めれば、その後悔は過ぎ去っていった。それから五年が経って、新規開拓型の営業部に移った取引先で九年ぶりにあった彼女は少し雰囲気は柔らかくなっていたが、私が憧れたその人だった。

 彼女も私のことを覚えてくれていたらしく、会話に花が咲いた。一緒に食事とかも行って、高校を卒業してからどうなったとか、仕事の話とかもした。

「私、恋人ができたの、こんな人なんだけど」

 差し出された画面には整った顔の男の人が居て、その隣には私には一度も見せてくれなかったような笑顔の彼女が居た。

 そこからは、彼女の惚気話が話のラインナップに加わった。その時、私は上手く笑えていたかはわからないけど、気遣いができる彼女が話を続けているのだうまく笑えていたのだろう。

 私の願いとは裏腹に、ゴールインを迎えた二人の結婚式からの帰りだった。

 一人で涙を流しながら夜の町を歩く。上を向いては歩けなくて、ずっと俯いていたから、横断歩道へと速度を落とさずに突っ込んで来た車には気がつかなかった。


 目を開けたらこの世界にいた。文化水準は、私の世界からは想像も出来ないほど落ちていて、飲み水は井戸だし、火もガスじゃ無い。西洋風のレンガ造りの建物位がなんとか今でも残っているものレベルだ。

 私の母は娼館を切り盛りしていて、昔は傾国と名を馳せた娼婦だったらしい。その言葉に偽りはないのだろうと思えるくらい、母の振る舞いは美しかった。

 流浪の旅人であったらしい父は、母の客で、母が娼婦を引退する日に会ったのが最後らしい。

「まさかヒットするなんて」

 いつもは上品な母が急にそんなことをふざけて言うからその話を聞いた時には笑ってしまった。

 女手一つで私を育ててくれた母は私のことをずっと心配している。私が幸せな生活を送れるように、一緒に人生を歩く相手を見つかられるように、毎週のようにお見合いを開く。この世界で結婚を意識するのは十五歳あたりで、私の友人も何人かは婚約を結んでいるのだ。

 私は母に、女の人しか愛せないことをまだ伝えていない。前世の母にも伝えられなかった。

 何か、悪いことでもなんでもないのに罪悪感みたいなのがあって、普通とか別にどうでもいいと思っているはずなのに、感情がぐるぐると回っていく。ただ、今日は伝えるべきだと思ったのだ。


「ねぇお母様」

 私はこの日の夕食を選んだ。娼館の3階にある部屋が私達の部屋で、母は私のお見合いが終わるとビーフシチューを出してくれる。長く煮込んであって、ホロホロのお肉が美味しい。

「何かお話があるの?」

「はい」

「そう、気づいてやれなかったってことは悲しいわね」

「いや、そんな、私が……」

 『悪い』と言いかけて、嫌になった。鬱屈していく感覚がある。別に普通に生きていて、こんなことを感じることはないただ、ふと立ち止まった時に思うのだ。

「私は、女の人しか愛せません」

 そう言った時、私は俯いていた。母の顔が見れなかった。

「顔を上げて、私の娘」

 顔を上げると、母は神妙な顔をしていた。

「私はね、貴方が幸せだったらそれでいいのよ。だからね、貴方にそんな顔をさせてしまっている私が許せないの」

「私、幸せだよ。いいお母さんがいて、ずっと幸せ」

「嬉しい言葉をかけてくれるじゃない。流石私の子、人を手玉に取るのがお上手ね」

 そう言われてなんだか嬉しくなった。この人の子供であることが誇らしい。

「お見合いは無しの方がいいわよね。ただ、私は心配。人生を共に歩んでくれる人がいた方がいいと思うの。お友達でも、恋人でも。私は貴方と歩んで来れたから、幸せ」

「うん、お見合いは、ちょっと」

「じゃあシルビー、貴方学校に通うのがいいわ。貴方達と同世代の子と同じ環境で一緒に歩んでいく人を見つけなさい。それに、学校にいけば職も見つかるわ」


 私は学校に行くことにした。母が言う、「一緒に歩んでいく人」は見つけられないかもしれないけど、自分一人で歩いていく力もそれと同じくらい大事だと思った。

 そこからはヒィヒィ勉強した。母の伝手の貴族様から教科書を貰って。一番やばかったのは歴史だ。全く違う歴史を1から聞かされる。聞いたことがある人が居ない。それに比べて数学とかは簡単、とかではない。数字も違うし、証明のために使う式もなんかちょっと違うけど一応理系の大学をでた者としてなんとかなるレベルだった。

 この世界の学校は十五歳からだ。義務教育ではない。しかも学校と言えるのは一つしかない。王立コンラルク学園。平民は殆ど入らない、というか入れない。なぜなら入学ができる枠を貴族が殆ど持っていくからだ。幼少の頃から家庭教師をつけて勉強してきた貴族と、幼少の頃からへいこらへいこら働いている平民では差は明白だ。それでも私は恵まれている。私の仕事は受付と掃除だったから、それ以外の時間はいろんなことができた。

 一応学校側も配慮はしてくれる。そんな厳しい環境の中這い上がってきた平民達の学費は大分お安くしてくれるし、寮も無償で提供してくれる。勿論寄付金や学費を多く払っている貴族からは反発があったが、王は断固として平民への扱いを変えなかった。それでも、本当の平民が入れる場所ではない。私は恵まれているのだ。

 

 そうして迎えた決戦の日。勉強していてわかったのだが、母は私を信じすぎだと思う。学校に行けばいいと簡単に言ったが、行くの難しいよ結構。過去問とか全国模試とかがないから私の立ち位置わからないし!

 馬鹿みたいに広い学校だ。私が通ってた北の国立大学くらいでかい。建物も観光地になるくらい綺麗だった。そんなことに圧倒されているのは私くらいだったので、平民は下手したら私しかいないのではないかと不安になった。

 受験室に入ると、誰も勉強をしていなかった。それがムカついた! 全員、ボッコボコにしてやる! 勉強で!


 試験でハプニングは起こらず、問題もまぁ想定の範囲内で後は受かってくれることを願うばかりである。数学にはちょっと自信あり! 


 頼む、受かっていてくれ!

 


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