41 祭り
仁那は焦りながら山の中を走っていた。
途中、村の冒険者達と思われる集団が居たためにかなり迂回をしてしまった。それもあり村に着くまで保つか微妙なところだ。
木々に爪を引っ掛けるように木から木へと飛び移る。
飛んでいければ早いのだが、今はギリギリの魔力で変身を維持している。
――後少し……。
やがて村が見えてくる。
村の門の辺りには人がいる。仁那は村から出たときと同じ様に裏の方の林が茂る方向から村を囲う柵を乗り越えて村の中に入った。
――もうダメ……。
なんとか柵を乗り越えた仁那は、茂みの中に入り込むと必死に維持していた変身を解く。体の中の魔力が底をつき、クラっとめまいに襲われる。
「はぁ。はぁ……」
思わず膝を付き傍にあった木の幹に体をあずける。荒く呼吸をしながら目を閉じるとすぐ横で猫の鳴き声が聞こえた。
「にゃあ」
「……フィン?」
目を開け鳴き声のする方を向くと、フィンが心配するように仁那の顔を覗き込んでいた。
「ふふふ。お迎えに来てくれたの?」
「にゃあ」
「でもちょっとだけ待って。めまいで頭がグラグラして……」
仁那が再び目を閉じ、そのままフィンに語りかける。
するとフィンは足を投げ出した状態で幹により掛かる仁那の上に上ってきた。仁那はそれに抗わず、目を閉じたままお腹の辺りで丸くなるフィンをなでていた。
「……やっぱり貴方は不思議ね……こうしていると少し良くなるわ」
やがてめまいも収まると、仁那はフィンを抱いたまま立ち上がる。
「アニーも心配しているし。帰りましょう」
森の中を、家に向かって歩き始めた。
……。
……。
家につくと、仁那はそっと裏口から中へ入る。するとソファーに座っていたアニーがすぐに気がついた。
「ふう……無事に帰ってきたね」
「はい。心配をおかけして……」
「良いよ、そういうのは。それでどうだい? テオは」
「大丈夫です。ワイバーンも無事に」
「……そうか。うんうん。さ、こっちへおいで」
アニーが自分の座るソファーの横をポンポンと叩く。仁那は言われるままにアニーの隣に座った。
それを見るとアニーが仁那を抱きかかえるように肩に手を回す。仁那に抱かれていたフィンが「にゃあ」と鳴きながら離れていった。
「……」
「……」
しばらくそのまま二人共口を開くこと無く時間が流れていく。
「……本当ならアタシがついていってあげたかったんじゃがな」
「アニーが? でもワイバーンは危険だって」
「アタシだってそれなりに魔法は使えるのさ。ワイバーンくらいなら若い頃は狩ってるのよ」
「若い頃は冒険者だったの?」
「まあ、そういう頃もあったわな。じゃがもう山を登れる自信がなくてね。ワイバーンより山の方が強敵じゃよ。年はとりたくないものじゃ」
「ふふふ。気にしないで」
「うんうん……。でも良かった……」
「え?」
「ニナが無事でな」
「……アニー……」
肩に回されたアニーの手の温もりが、本当に自分を心配していてくれていたんだと感じさせてくれる。
チリン。
店の扉の鈴の音が鳴る。
慌てて仁那が立とうとすると、アニーはもう少し休んでいなさいと仁那を座らせ、そのまま店の方に出ていく。
店の方からは少し興奮した声が聞こえてくる。やがて話が終わったのか客が店から出ていく音が聞こえた。
「ニナ、動けるかい?」
「ええ。大丈夫です。どうしました?」
どうやら、ワイバーンを回収した冒険者達が山から下ってきたようだ。そしてワイバーンの肉を幕場の広場で焼いて村人皆に振る舞うという。
ワイバーンはその肉も皮もいい値段で売れる。だが今回はその肉は村人皆で食べてしまおうと言う話になったようだ。
二人が広場に行くと、突如沸き起こったワイバーン景気に村は祭りのような状態になっていた。
広場の中央には大きな焚き火の準備が行われており、巨大な肉が今まさに丸焼きにされようとしていた。
多くの村人が集まり、村の酒場の店主も露店を開き格安で酒を振る舞う。
子供たちも皆、ワクワクしながら肉が焼かれるのを待ち、かつて無い活気を見せている。
「仁那! ワイバーンの第二心臓。手に入れたんだ!」
仁那に気がついたテオが嬉しそうに近づいてくる。仁那はどういった顔をしてよいのか分からぬまま嬉しそうにしているテオを見つめる。
「それより先に言うことは無いんか?」
そんな二人の様子を見たアニーが不機嫌そうにテオに向かって言い放った。
「え? ……あ……心配かけちゃって……ごめん」
「……本当よ」
「でもっ。ほら。こうして――」
「テオ!」
「な、なに?」
「……本当に……バカなんだから……」
謝りながらも興奮するテオも、仁那の顔を見て黙り込む。
目に涙を浮かべ、じっと自分を見つめる仁那にテオも顔を引き締める。
「……ごめん……」
「……うん」
やがて積み上げられた木に火がつけられ、ワイバーンが焼かれる。子供たちが我先にと列を作り、丸焼きにされたワイバーンが取り分けられていく。
仁那も、そのなんとも言えない上品な味に舌鼓をうつ。
「ニナ、ちょっとナヴァロさんの所にも肉を届けてくる」
皿に山盛りに盛られた肉を手に、テオが言う。
「私も一緒に行くわ」
「え? いや。肉を置いてすぐに帰ってくるよ」
「だって、テオは目を離すとなにをするかわからないんだもの」
「だ、大丈夫だって」
「ふふふ。私も少しお腹いっぱいだから、腹ごなしをしたいのよ」
「そ、そうか? うん。じゃあ、行こうか」
「うん……」
祭りのようにガヤガヤと騒がしい広場を背に、二人はナヴァロの家に向かって歩き始めた。
ま、あまり読まれませんでしたが、とりあえずここで区切りましょう。




