15 テオの悩み
テオは小さい頃に冒険者だった両親を亡くしていた。
この世界には魔族との争いは絶えず、野には魔物も存在する。当然多くの孤児が生まれる背景もあった。
かつては、生きていく為に、孤児たちがスラムでギャングの様な集団を作りそれが街や村の治安を悪くする社会問題にまでなっていた。そこで対策として始まったのが教会による孤児院の設立であった。
街や村としても、それにより治安が安定することを望み、孤児院への補助も多く行われていたが、孤児院が一般化し、孤児たちのギャングなどが減っていく中段々とその危機感も減っていく。
そうなると、孤児院への補助金をケチる街や村も増えてくる。
特に小さな農村部などでは、村の財政自体が芳しくなかったり、孤児自体もそこまで多くなかったりと補助も形式的に僅かに行うようになってしまう。
教会も、慈善組織の体を見せながらもその経営の大きな負担となり、やがて孤児院は教会の所属組織ながら独立採算を求めるように変質していった。その地方の領主らから自分たちで補助を勝ち取って運営しろということだ。
ここカピの村は、この地方を治めるガードナー伯爵の荘園の一つだった。
辺境であったが隣国との関係も友好であり、魔族領から離れているため戦争の危険もなく、平和な地方であると知られていた。それにまして現在の領主、リカド・ガードナーは、あまり評判が良くなかった。
前領主の子として働いていた頃は真面目なご子息と評判は良かったのだが、前領主が亡くなり跡目を取った後から突然、酒に女にと、贅沢三昧な生活をするようになった。
当然、孤児院への補助も絞られ、今では孤児院経営はギリギリの状態を保つのがやっとの状態であった。
さらに孤児院の院長のバスティーが心臓の病で倒れてからその高価な薬を必要となり今では少しずつ借金が膨らんでいた。
……
孤児院の庭でテオはいつものように木剣を振るっていた。
テオも多くの孤児たちと同じく将来は冒険者として生きていくことを考えていた。実力次第でなり上がれる冒険者は、身よりもなく金もない孤児には唯一と言っていい夢のある職業であった。
「テオ。ちょっといいかな?」
毎日の日課である素振りをしているテオにバスティーが話しかける。
「な、なに?」
「いや、先日アニーに薬をもらいに行ってきてからテオの様子が変だと皆が言っていてな」
「え、……なんでもないって」
「そうか? 何かあったんじゃないか?」
「な、何もないからっ」
テオは薬の素材が手に入りにくくなり、値上がりするかも知れないというアニーの話をバスティーには伝えないでいた。いや。どちらかと言うと伝えられなかったのだが。
笑みを浮かべ優しく見つめるバスティーの視線を気まずそうに目をそらす。
「そうか? ……ちょっと気になる話をきいてな」
「あ……いや、大丈夫です。俺、頑張って金を稼ぐし」
「ふむ。まあ金は大事だが、そんな事は気にすることは無いと思うぞ」
「だけど……」
「最近村で噂になっている事だろ?」
「そんな噂になっているの?」
「それはそうだ。こんななにもない村では噂話は大事な楽しみの一つだしな」
「そんな楽しみだなんて……」
バスティーにとっては命に関わるような話だが、村人にはワイバーンが捕れないというのは単なる暇つぶしの話題に成ることなのか。
ショックを隠せずに居るテオに、バスティーは言葉を続ける。
「ふふふ。お前も男って事だ。どうだ。そんなに可愛かったか?」
「……え?」
「アニーにそんな可愛い親戚の子がいるとはね」
「は?」
「ん?」
「い、いや……ああ……ニナの事ですか?」
「ほう、ニナというのか。もう名前までしっているとはね。なかなか隅に置けないじゃないか」
「そ、そんなんじゃないよっ」
テオは薬の話ではなかったことにホッとしながらも、あの銀髪の少女のことを思い出し顔を赤らめる。
テオも男だ。薬のことで悩んではいたが、アニーの店であったニナの事は忘れられない出会いでもあった。
「そんなに可愛い子なら早く動かないと他の男に取られるぞ」
「な、何を言ってるの」
「はっはっは。女の子には贈り物が良いぞ」
「だからそんなんじゃないってっ!」
大人特有の子供の恋愛をからかう楽しみだ。どうしても子供の恋愛の青さは大人から見ると若き日を思い出してついちょっかいを出したくなる。
そんなバスティーにテオは顔を真っ赤にして抗議をする。
「そんな事言ってないで、授業の時間だろ? 早く言ってきなよ」
「わかったわかった。まあ、後悔だけはしないようにな」
バスティーは笑いながら建物の中に入っていく。
こんな小さな村では学校のようなものもない。孤児院では基本的な教育も院長の仕事だった。そして村に居る他の子供達も教育機関がこの孤児院しか無いため授業を受けに来る。これは孤児院の貴重な収入源にもなっていた。
そういった勉強は12歳位で終わり、裕福な家では更に高度な教育を受けるために領主の住むこのあたりの中核都市にある学院に入ったりする。
孤児院の子はその後15歳で孤児院を出るまで庭で農作業をしたり、狩りや、冒険者ギルドで15歳未満の未成年向けの簡単な手伝いなどで孤児院のためのお金を稼いだりするものだった。
当然、テオも院長の授業は終わりになっており、自由にさせてもらっている。
バスティーが去ると、手にした木剣に目をやる。院長にからかわれて気持ちも安定しないテオは素振りをする集中力はとうに崩壊していた。
「贈り物かあ……」
呟きながらしばらく思案する。昨日の感じだと仁那はだいぶ大人しい娘のようだ。一度しか会ったことがない少女にそんなことはかえって変に思われるだろう。
……
テオは如何ともし難い気持ちになり、一人頭を抱えていた。




