表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

Stage.2 文芸部と書いて、『言ノ葉を綴る者たちの間』と読む。高橋紫苑は不治の病

「……うーむ」


 スマホのメモを開いて、どうしたものかと首を傾げる。

 予算は――1420円。


「お兄さま、どうされたのですか? もしかしなくても、宇宙(こすも)に惚れちゃったんですか?」

「いや、そういうわけではなく……」


 この世界に来てから――2日が経った。

 『草薙 凪』を勝たせる――そう決めたはいいものの……なんだかんだで、この世界を楽しんでしまっている。

 異世界転生の妄想はたくさんしてきたけど、こうも元の世界と変わらないと――ダメだな。

 それに、クラスにも馴染んできた……はずだ。

 元々いた世界でも使っていた俺の秘伝技――『背景同化』によって、誰も話しかけてこない。まあ、存在感を無にしてるだけなのだが……。


「どのラノベを買おうか、悩んでるんだ」

「そういうことでしたら――宇宙(こすも)にお任せください!」

宇宙(こすも)はラノベ読むのか?」

「はい! お兄さまの部屋にあるラノベはすべて読みました!」


 それが問題なのだ。なぜか、この世界では俺の言動が違和感にならないのだ。

 元々の『七瀬 光』と、俺の『七瀬 光』はまったくの別人なはず……それなのに――おかしい。

 これも背景キャラゆえに、設定が作り込まれてなかったからということなのだろうか? 原理はよくわからないが、俺の存在が引き継がれているからなのか、俺の買い集めたラノベやら、スマホのデータやらは残っている。

 ただ――『アオニジ』関連のモノは、ほぼ残ってない。おそらく、この世界では『予言書』的なものになってしまうから……ということでひとまず落ち着いている。


「では、お兄さま! まずは『異世界転生しちゃったんですが、無双しなくてもいいですか?』の第四巻を買うべきです!」

「ふむ……その心は?」

宇宙(こすも)の推しである大魔導士・ルミネールが再登場するからです!」

「おい、いまサラッとネタバレしただろ」


 でも、ネタバレされても――あのルミネールが再登場することを聞いてしまったら、これは買うしかない。


「よし、まずはそれだな」


 前々から妹が欲しいな、と思っていた。だから、ある意味では夢が叶ったと言っても過言ではない。

 ポン、と頭の上に手が乗っかった――これは、姉だ。


「ひーくんは、すごいと思う」

「急にどうした?」

「だからね、そのすごさがバレたら友だちが増えると思う」

「そうか?」

「だから――ひーくん……姉さまと学校に行こうか!」


 どうして、そうなった。

 七瀬きらら……社会人の姉だ。

 何の仕事をしているのかは謎だが――毎日家にいる。ただ、『ニートではない』ことは確かだ。

 妹の宇宙(こすも)も同様に『ブラコン』だ。

 二人とも美人なのに、残念な姉妹だ。


「それで、ひーくん、お姉さまと行くの? 行かないの!?」

「もちろん行かない!」

「え〜? でもこんなにも美人なお姉さまと歩いてたら友だち100人できちゃうよ〜?」


 それは俺と友だちになりたいんじゃなくて、姉目当ての人たちが寄ってくるだけではないか?


「断る。」

「でもね、ひーくん……友だちがいなくても許されるのは、幼稚園児――最低でも、義務教育までだよ?」


 ……全国の『ぼっち』に謝れ。

 時刻は8時19分。そして――朝のHRは8時半。

 家から学校までは――最低でも7分はかかる。


「……まずい!」


 俺は、姉と妹を振り切って、家を飛び出した。

 遅刻して教室に入って、変に目立つのは――背景キャラとして、とてつもなく嫌なのだ。


 ◇


 教室に入った瞬間、チャイムが鳴った。

 危なかった……ギリギリセーフだ。


「おめーら、授業やっぞー」


 この人は『永屋(ながや)郁久美(いくみ)』。

 俺のクラスである1年B組の担任だ。生徒から『いくっちゃん』の愛称で親しまれている……言っちゃ悪いが、かなり適当な先生だ。


 今だって――頭の寝癖が爆発している。こんな人が科学の担当だというのだから恐ろしい。


「おめーら! もうすぐ期末テストだが……そんなこたぁどうだっていい!」


 全然、どうでもよくないです。すごく重要だと思います。


「転校生がいるから紹介すっぞー、入れー!」


 待て……そんなバカなことがあるか?

 だって、『アオニジ』第一話の日付は――6月28日だぞ? 今日は6月27日だぞ?


「はい! 皆さん――」

 

 窓から強風が入ってくる。風で舞い上がったプリントが羽ばたく鳥のような音を鳴らす。


「はじめまして――華千尋(かちひろ)(いん)です!」


 なんだ……圧倒的なオーラとはまた違った何かが絶え間なく華千尋(かちひろ)(いん)から出ている。ただ、彼女のいる場所だけ――世界の『色』が濃く見える。

 ぺこりとお辞儀をした彼女が顔を上げる。すると、先程まで曇っていた空が――青空に変わった。


「よろしくお願いしま――あーーーっ! あなた、朝の――ぶつかってきた上に、痴漢までして行った変態男!」


 彼女が指差す先には――主人(おもひと)(おおや)


「ご、誤解だっ!」


 こいつなんで原作以上にラノベの恋愛フラグを建設してるんだ? 原作だとぶつかっただけだっただろ。なんで痴漢までしてるんだ。


「おい、おめー……主人(おもひと)、生徒指導室に来い。」

「……華千尋(かちひろ)! お前……覚えとけよ!」


 主人(おもひと)は、永屋先生に連行されていった。


「……何やってんのよ、バカ」


 自分がまだ負けヒロインになると知らない草薙凪は、そんな主人(おもひと)を見て、面白がっている。

 ……俺は気づいてしまった。

 連行されていく主人(おもひと)を見て、華千尋(かちひろ)が――


「べーっ。」


 瞼に指を当てて、舌を出しているのを。

 うわ……こいつ――小悪魔だ。


 ◇


 教室の一番廊下側、そこが俺の席だ。

 休み時間、教室の机で読むラノベも悪くない。

 得意技の『背景同化』のおかげで誰にも邪魔されず、読書に集中できる。


「そこの者よ、深淵を覗く覚悟はあるか?」


 草薙凪と主人(おもひと)の間にも、主人(おもひと)華千尋(かちひろ)の間にも、まだイベントは起こってなさそうだな。


「汝、我の問いに答えよ。」


 さて、ラノベの続きを――


「おい、無視をするな」

「……うわぁぁっ!」


 教室の廊下側窓から女子が顔を出していた。

 左目には痛々しい眼帯、右手には包帯を巻いている。

 さらに恐ろしいことに――制服のブレザーに袖を通さずに、羽織っている。

 言動さえなければ、医務室から逃げ出してきた患者にしか見えない。


「じーーーー……」


 いや、女子が俺に話しかけてくるはずがないな。

 それに、俺の術を破れるわけがない。


「汝、七瀬光であろう?」

「……」


 いま、俺の名前言ったか? いや、気のせいだな。


「あれ? 七瀬さん……ですよね?」

「え、あ……はい、そうですけど……」

「解き放たれし後、『言ノ葉を綴る者たちの間』に来るがよい。」

「わかり、ました……?」


 謎の女子は嵐のように去っていった。

 『言ノ葉を綴る者たちの間』? なんだそれ?

 まあいい……それじゃあラノベの続きを――


「――へぇ、それじゃあ(いん)ちゃんは『チア部』なんだー!」


 この声は草薙凪だ。話し相手は――


華千尋(かちひろ)のせいで、生徒指導されたんだからなぁ……ったく。」


 華千尋(かちひろ)主人(おもひと)だ。

 バレないようにこっそりと盗み聞きすると、三人仲良く談笑中……と言った感じだ。


「えっと〜、凪と主人(おもひと)くんは幼馴染なんだよね?」

「うん!」

「まぁ、腐れ縁って感じだけどな……」


 仮に俺が『アオニジ』を読んでなければ、あの二人付き合ってるようにしか見えないもんな……。


「七瀬くん、覗き見はいかんよー」

「わ、千早(ちはや)さん!? どうしてここに?」

「あ、そうだった。アタシさ、永屋先生に用事があるんだけど」

「あー、それならたぶん理科室だと思うよ」

「ありがとね、七瀬くん!」


 千早を理科室に向かわせてから、俺は気づいた。

 教壇の近くで、生徒と話してる――永屋先生がいたことに。


 ◇


 放課後、誰も話しかけてこずに、こっそりと教室を出る。

 さて、今日は『その丘には恋が咲いておりました』最新刊発売日。帰りに、『アニメ堂』にでも寄っていこうか。いや、『AEOFF』とかもありだな。市内に2店舗もあるし、片方に置いてなければもう片方の店舗に行けばいい。

 そんなことを考えながら、呑気に教室から出たら――いた。さっきのやつだ。

 しかし、先ほどでの『あの妙な痛々しさ』はなく、なぜか目には涙を浮かべていた。


「ひぐっ……ぐすっ……」

「……」


 俺は、彼女の横を素通りした。

 心ないやつだと思われるかもしれないけど、仕方ない。不可抗力だ。なんせ、彼女はアレだ――俗に言う……『厨二病』。


「あなた今……泣いてる乙女を無視して、素通りしようとしましたね?」


 バレましたか。


「私が変な言い回しで伝えたせいで、先輩からこっぴどく叱られたのですよ。さ、行きますよ」

「行くってどこに?」

「『言ノ葉を綴る者たちの間』――文芸部です」


 文芸部……? はて、俺は何か迷惑でもかけただろうか。


 文芸部部室。

 扉には、『物語を覗くとき、物語もまたこちらを覗いているのだ。』と書いてある。

 オカルトか何かか? ものすごく入りたくない。

 

「先輩、戻りましたよー」

「ご苦労。久しぶりだね、七瀬くん……以前はお世話になったね。」


 久しぶり……? お世話? まさか、俺が来る前の『七瀬光』が何かやらかしたのか!?


「実はね、キミが幽霊部員なせいで――生徒会から予算が降りなくなりかけているんだ。」


 どうやら、うちの学校の生徒会は『幽霊部員撲滅・根絶・殲滅』とかいう物騒な目標を掲げているらしい。そして、(以前の)俺が文芸部に入部したはいいものの――部活をサボり散らかしていたようだ。


「ところで、私たちのことは覚えてるかな?」

「あー……えーっと――すみません、覚えてないです。」

「正直でよろしい、私は『柏木(かしわぎ)(はるか)』、副部長だ。」


 なるほど……で、大問題はもう一人だ。

 明らかに『厨二病』を患っているこの女子。


「ふっふっふっ……我が名を名乗るときが来たようですね――」


 そして、バッとブレザーを払うと、右手を目に添えた。


「我が名は『高橋(たかはし)紫苑(しおん)』。1年C組19番にして、不治の病に侵されし者!」

「ま、まぁ……七瀬くん察したと思うけど、紫苑ちゃんは『厨二病』なの。」


 もちろん、こいつがすぐに『厨二病』なのは察しましたよ。しかも、かなりの――重症のやつだってことも。


「あ、えっと……文芸部って具体的にはどんな活動をすればいいんですか?」

「まー……とりあえず、適当に本読んでてよ。それなりに揃ってるし、ほらこのラノベとか最新刊よー?」


 いわゆる異世界転生の『俺TUEEE系』から『スローライフもの』、さらには学園もの――と、これまた豊富な品揃えだ。

 適当に読むだけでいいなんて、控えめに言わせてもらおう――


「最高じゃないですか」


 柏木先輩はニヤリと笑う。

 

「でしょ?」


 よし……


 俺はしばらくの間、文芸部に入り浸ることにした。


 ◇


 さて、帰ろう。ついでに本屋に寄っていこう。

 そんなことを考えながら、歩いていると。


 ポツ。


 空から水滴が降ってきた。

 次の瞬間には、あっという間に――大雨となった。


「……嘘だろ」


 少し寄り道しようとしたので、家まで30分。


「もう最悪……」


 後ろから声がした。

 振り返ると、そこには草薙(くさなぎ)(なぎ)がいた。


「あ、七瀬くんも帰り?」

「え? あー……うん」

「雨で帰れそうにないよねー……そうだ、雨が落ち着くまでさ――」


 ドクン。


 心臓の鼓動が大きく鳴った。


「――ファミレスで雨宿り、しない?」

「え? いいの?」

「うん」


 すぅぅ…………神様、ありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まだ話数は少なめですが、ネーミングのわかりやすさと会話のテンポと読みやすさがいいですね。 華千尋さんの名前が強すぎるのですが(笑)どうやって凪さんが逆転するのか、背景キャラたちがどこまでメインに食い込…
Xから来ました。 今後、光が物語をどうやってひっくり返すのかに期待します。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ