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やり直し王女  作者: あお
13/26

13. 通路

 ルイスは再び先に歩いて行く。またあの噴水の見える回廊を通り皇城の奥へと進んで階段を登ると、ルイスの部屋へ辿り着く。


「ご飯は食べたのか?風呂は?」

「済ませました。」

「今夜は俺が見張るから安心しろ。」

「そんな、ルイス様はゆっくり休んでください。私が見張りをします。」

「そんなことさせられる訳がないだろう。」

「では、二人で休みましょう。扉の前には護衛がいますし、明日に備えて寝ておかないといけません。」


 私はソファに横になる。


「クロエはベッドを使え。」


 ルイスは毛布を持ちソファの方へ来る。


「昨日もソファで寝たので大丈夫です。」

「ベッドを使わなかったのか?」

「はい。」


 ルイスは少し思案げにしていたが、私に毛布をかけるとベッドに横になる。


「そういえば、火は消し止められたのですか?」

「クロエを誘い出すためのボヤだった。」

「そうだったのですね。……城に籠城して連合国軍を待つのですか?」

「ああ、今争っても双方相打ちになるだけだからな。」

「第二皇子も援軍が来ると言っていました。」

「どこからだ?」


 ルイスは起き上がると私を見る。


「わかりません。でも、自信ありげでした。」

「……そうか。」


 またルイスは横になる。


「……もし私がいなければ、誰を人質にするつもりだったのですか?」

「イーサン王子だ。……クロエを連れてこなければよかったな。」

「どうしてです?」

「自分を守る術を持っているならと連れてきたが、こんな危険な目に遭わせるつもりはなかった。」

「……私は覚悟の上です。」

 

 私も毛布にくるまり目を瞑った。



 寝れるのか心配していたが、すぐに眠りに落ちたようで、目を開けると明け始めの朝の日差しに部屋が薄く明るい。ベッドを見ると既にルイスはいない。


 朝食を食べ、ノア達を探そうと部屋から出ようとするが、扉の前の護衛騎士に阻まれる。


「この部屋から決して出すな、とのルイス様のご命令です。」


 大人しく部屋に引き返すが、すぐに皇城の階下が騒がしくなる。


 窓から外を見るとすでに騎士に囲まれている。あの華美な騎士服は第二皇子の騎士のものだ。

 あちこちで声が響いている。


――皇城の中に攻め込まれた?


 窓から様子を伺うと、城の中に入ろうとする騎士に矢で応戦している。


 突然、扉が開けられルイスが入ってくる。


「行くぞ。」


 短く言うとルイスは部屋を出る。私は唖然としながらも急いでルイスの後を追う。


 皇城の奥なのに、ここまで怒声が響いている。


「城に入り込まれたのですか?」

「まだだ。だが時間の問題だろう。」

「どこへ行くのです?」

「地下から外へ逃げる。」

「そんな!臣下を置いて逃げるのですか?」

「ガブリエルが応戦している。俺はクロエを安全な場所に送り、兵を集めて外からジェイデンを挟み撃ちにする。」


 ルイスは足早に廊下を進むと、奥の小さな部屋へと入って行く。

 部屋の中程の床板を叩き、音の高い所を見つけると強く床を叩く。すると、床板が四角く外れ中に階段が現れる。

ルイスは近くのランタンに火をつけると、それを持ち階段を降りて行くので、私も後に続く。また別の隠し通路があるようだ。


 長い階段を降り切ると先は光の差さない真っ暗闇だ。暗い通路にいるとあの日のことを思い出すが、不思議とルイスと一緒だと辛い思いは込み上げてこない。


「ノアとジャックは?」

「二人は既に城の外に逃してある。」


 通路は揺れるランタンの灯りで、ゆらゆらと揺らめいて見える。

 足早に進むが通路の先は真っ暗で、どのくらい続いているのか分からない。


「外に出たらソフィの隠れ家へ送り届ける。そこなら安全だ。」

「連合国軍は、いつ着くのでしょう。」

「もう着いてもいい頃だが、足止めを食らっているのかもしれないな。」

「ジェイデンの援軍ですか?」

「恐らくそうだろう。」


 話し声が狭い通路に反響する。その他の音は何も聞こえない。


「私も戦いに参加するわけには、」

「駄目だ。」


 被せ気味に否定されて、ふぅとため息をつく。そう言われるとは思っていた。


「第二皇子に勝てますか?」

「あいつの弱点は知っている。」

「弱点とは何ですか?」

「それは、虚栄心と自尊心だ。」

「虚栄心と自尊心……。それが弱点ですか?」

「ああ。」


 暗い通路を二人で進んでいく。長い時間をかけて進んだ先に、薄ら光が漏れ出す。出口が近いのだろう。

 

 光の中に出るとそこは洞穴の中で、すぐに洞穴の出口が見える。


「麓まで歩くぞ。」

「はい。」


 洞穴の周りは鬱蒼と木が生い茂り森の中だ。

 ルイスが歩き出そうとした時、洞窟の横から剣を構えた騎士が五人現れる。あの華美な騎士服だ。出口を見張られていたらしい。


「ルイス様、ジェイデン様のご命令です。一緒に来ていただきましょう。」


 ルイスは何も言わず剣を抜く。それが返事だったようで、敵の騎士が斬りかかってくる。私を庇いながらルイスは素早い剣裁きを見せる。


 私に手を伸ばす騎士を倒すと、もう既にルイスは残りも倒している。


「クロエは自分の身を守るだけでいい。」


 そう言うとルイスは剣を納め、敵騎士の乗っていた馬を吟味している。


「馬は乗れるか?」

「はい。」


 ルイスは私に少し小さめの馬の手綱を差し出す。

 私が手綱を受け取り、鎧に脚を乗せて馬に乗ろうとすると、またルイスは私の腰を持ち上げ馬に乗せてくれる。この人はどこまでも女には優しいらしい。


 二人で森の道なき道を進んでいく。

 森の中は起伏が激しく思うように先に進めない。


「麓までどれくらいでしょう?」

「直線ならそんなにないはずだが。」


 途中、窪地になっていたりと回り道をして降りていく。

 次第に日が高くなり、ルイスにも焦りが見える。しかし、急に景色が開け平原が広がる。


「森を抜けれましたね。ソフィ様はどちらに?」

「ここから間も無くだ。」


 平原には小さな白い花の絨毯が風で揺れていて、ここだけは平和の中にある。


 平原を抜けると前方に小さな集落が見えてくるが、黒い煙がいくつも立ち登り、嫌な匂いが立ち込めている。


 ルイスは馬を急かし、私もその後を追う。


 集落に着くと家々が焼かれ、亡骸があちこちに転がっている。生きている者の気配はない。


「ソフィ!」


 ルイスが呼ぶ声が響くが返事はない。一つ一つ家を回るが、亡骸があるだけだ。その中に、ソフィを離宮から逃した侍従のものもあった。しかし、ソフィの姿はない。


「ソフィ様はおられません。」


 ルイスの顔を見ると、目に怒りが溢れている。

 おそらく、あの若い騎士が情報を漏らしたのだろう。


「兵を集め城に戻る。」


 馬に乗り踵を返すと、集落の入り口を目指す。入口からは木立に囲まれた細い田舎道が続いている。その道に複数の馬の蹄の跡が残っている。


「私は足手まといです。先に行ってください。」


 ルイスだけでも、先に走って行った方が早いだろう。


「……置いていけるわけがないだろう。一緒に行くんだ。」


 ルイスは私の頭をポンと叩くと走り出す。私も可能な限り早く走るがルイスの心情を思うと辛い。


 道は次第に上り坂になり二人で駆け上がる。やがて皇城の麓に大きな建物が建ち並んでいるのが見えてくる。たくさんの騎士が行き交っているので、軍の施設だろうか。


 ルイスは馬を降りると、その中の一つの建物に入っていく。


「ルイス様!」


 一人の年配の騎士が、ルイスに気づき駆け寄ってくる。


「城にジェイデン皇子が攻め入ったと聞きました。」

「ガブリエルが応戦している。すぐに出陣の用意をしろ!ジェイデンを血祭りに上げてやる!」


 騎士達が慌ただしく準備に動き出す。


「クロエ。」


 振り返るとルイスが防具を持っている。


「これを着ろ。すぐに出発する。」

「はい!」






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