第54話 展示の終わり
前髪ぱっつんの一年生、花山美弥子から自転車を貸してもらい、康太は発泡スチロールいっぱいの氷と共に汗だくで戻って来た。
そして、お昼休憩が終わる頃合いで、私たちは白玉団子を完成させた。
「これで試食を再開できるわね」
ほっとしたのもつかの間、午後からのお客さんを集めるべく、私たちは教室棟へと向かった。
全力で自転車を走らせてくれた康太には、受付の名簿係をお願いし、休憩してもらっている。
「みなさーん、渡り廊下を渡った保健室の隣で、ボランティア部が展示をしてまーす。炊き出しの試食として白玉団子も用意してまーす」
私が声を上げて勧誘し、唄子が笑顔でビラを配る。
そんな感じで教室棟を周るはずだったのだが、予想外のことが起こっていた。
「えっと、どうしてついてくるの?」
私と唄子のあとにぴったりと付いて来ていたのは、あの前髪ぱっつんの一年生だった。
「乗り掛かった舟です。私も先輩のお手伝いをします」
何だかやる気になってる。確かに自転車を貸してもらったので、あながち的外れではないのかも知れないが、何だか違うような気がする。
「いや、部活の展示の勧誘だし、ちょっと頼み辛いかなー。それに、花山さんだってクラスの出し物とかあるんじゃないの?」
「ああ、一人抜けたところでどうってことないですよ」
サラリと言ってのけた。つまり、クラスの役割を放棄して自由行動しているみたいだ。
「いや、せっかくの文化祭だし、クラスのみんなと力を合わせた方がいいんじゃない?」
遠回しに断った私の前で、少女の顔が苦々しいものに変わった。
「うちの連中は私利私欲の権化のような奴ばっかりですよ。先輩たちのような尊い志で行動している奴は一人もいません」
うん。この子、クラスに馴染んでない。
おおよそ彼女がクラスでどういった立ち位置にあるのかが、今の発言で分かった。
「私はああいったのに迎合したくないんです。それより、先輩たちと行動を共にして最高の思い出を作りたいんです」
筋が通っているようで筋違いな主張をした少女は、グッと拳を握りしめた。
「たとえ反対され、異端児と呼ばれようとも、私は決して長いものに巻かれたりはしませんよ」
ちょっとカッコいい感じで締めくくった時、廊下の端の方から見たことのある女の先生がスリッパを鳴らして走って来た。
「はなやまー!」
怒りを孕んだ大きな声に、花山美弥子の顔色は一瞬で青ざめた。
「先輩、私ちょっと逃走しますので、またのちほど」
「こらー、まてーい!」
一目散に駆け出した花山美弥子に、髪を振り乱した女性教師が続く。
二人の背中を見送って、私と唄子はしばらく呆気に取られていた。
「えっと、面白い子だね……」
私の率直な感想に唄子も深く頷く。
それから私たちは二人でボランティア部の宣伝をして回った。
そして約一時間後。
「終わったねー」
全ての試食を捌ききって、私たちボランティア部の展示は終了時刻を迎えた。
このあとは講堂で合唱コンクールがある。
少しまだ時間に余裕があったので、部室を閉める前に少し片付けをしていると、さっきの少女が部室に飛び込んできた。
「花山さん!?」
「はあ、はあ、何とか間に合いました」
間に合ってはいなかったが、せっかく来てくれたので、少し話をすることにした。
「えっと、追いかけられてたみたいだけど、大丈夫だったの?」
「ええ、巻いてやりましたよ。まったく執念深い担任です」
どうやら逃げおおせたようだ。きっと後で大目玉をもらうに違いない。
「それで、どうしてここに戻って来たの?」
「あの坊主に近寄りたくなくて、まだ展示を見学してないんです。それに、先輩たちがいる時にゆっくり展示を見せてもらいたくって……」
唄子と私はお互いに顔を見合わせた。
行動も言動も滅茶苦茶な一年生だったが、自分たちの展示を観に来てくれたのは嬉しかった。
「少しまだ時間あるから、良ければ解説付きで案内しようか?」
「はい! お願いします!」
展示の解説をしながら案内すると、彼女は終始目を輝かせて話を聞いてくれた。
そして展示の通路を通り抜けると、途中まで片付けた試食コーナーの前で私は彼女にひと言謝っておいた。
「試食全部売り切れちゃって。ごめんね」
「いえいえ、それはまた機会があれば」
そう言ったあと、彼女は出口の脇に置かれた棚を指さした。
「あの棚は何か販売してたんですか?」
「さっきの展示にあった海岸掃除で見つけたシーグラスをストラップにして並べてたんだ。手作りだったし買ってもらえるのかなって心配してたけど、いつの間にか完売しちゃった」
「手作りってお二人が?」
「うん。集めたやつに工作室で穴を開けただけだけど」
すると、少女の目の色が明らかに変わった。
「坊主を我慢してもう少し早く入っておけば……」
後悔を坊主への憎しみに変換している様子で、少女は拳を握りしめた。
唄子は私の肩をトントンと叩いてニコリと笑う。
唄子が何を言いたいのか、私には分かっていた。
「そうだね」
私は口惜し気な少女と向き合い、唄子の気持ちを代弁した。
「そこに展示してあったシーグラスを一つ選んでくれたら、ストラップにしてプレゼントするよ。自転車を貸してくれたお礼にね」
「本当ですか!」
パッと笑顔を咲かせた少女は、私と唄子の手を取ってはしゃぎ出した。
「やっぱり先輩たちは私の見込んだとおりの人でした。私、入部を決めました」
「え?」
何を言っているのか理解できず、私は聞き返してしまった。




