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第52話 くじけない少女たち

 教室棟の廊下は、年に一度の文化祭に訪れた人たちで賑わっていた。

 クラスの催し物の店番をするため、2年A組に戻って来た唄子と私は、教室の入り口で受付をしていたクラスメートと交代した。


「じゃあ後はお願いね」

「うん。わかった」


 受付の名簿に目を通すと、そこにはたくさんの名前が記入されていた。

 教室には十人ほどのお客さん。

 どうやら、今のところ好評のようだ。

 私は周囲を気にしつつ、そっと唄子に話しかける。


「色んな案が出たけど、これで良かったみたいだね」

「うん。そうだね」


 A組の出し物はいわゆるゲームだった。

 と、言っても、スマホやパソコン等のコンピューターゲームではなく、もっと単純なものだ。

 ボールを使った的当てと、小さな子供でも出来そうな輪投げ。そして、バスケットボールを使ったシュートゲーム。

 教室はそれぞれの遊戯ごとに三つに区切っており、どれでも一回五十円で遊べる。

 高得点を出せば景品があり、出せなくても参加賞が貰える。

 私もリハーサルでひととおり試してみたけれど、意外とどれも面白かった。


「いらっしゃいませー」


 途切れずに教室を訪れるお客さんを案内していると、教室の外から顔を半分覗かせてこちらを伺っている一年生らしき女生徒に気付いた。


「遠慮しないでどうぞ」


 手招きして声を掛けると、少女は肩まである黒髪を揺らして、おずおずと教室の中へと入って来た。


「ここに名前を書いて下さいね」


 ボールペンを渡すと、少女は頬に掛かった髪を片手で直しつつ、スラスラと名前を記入した。


 花山美弥子


 その名前をどこか猫っぽいと思いつつ、私は少女の顔を窺う。

 前髪ぱっつんの下にはやや猫っぽい大きな目。

 柔らかそうな頬にほんのり赤みがさしているのが、ちょっと可愛らしかった。

 ボールペンを返してもらい、私は少女にマニュアル通りの案内をしておいた。


「ありがとうございます。どれをやっても一回五十円です。どうぞ楽しんでいって下さい」

「はい……ありがとうございます……」


 遊びに来た筈なのにあまり気乗りしない様子で、少女はボールを使った的当てのコーナーへ行った。


「なんだか変わった子だね」


 私が小声で囁くと、唄子はコクリと頷いた。

 それからもA組の教室には順調にお客さんが来たのだが、私はあの少女のことがどうも気になって、ついその姿を目で追ってしまっていた。

 彼女はひととおりゲームをしていたけれど、どれもスコアは散々だった。

 的当て、バスケのシュート、輪投げまでもことごとく外し、三つの参加賞を手にして、彼女は教室を去って行った。

 なんだか気になる少女が去った後、私の関心は康太に任せて来たボランティア部のことだけとなった。

 きっちり一時間受付の仕事をして、私と唄子は駆け足で部室へと急いだ。


「コータ、ちゃんとやってるかな」

「先輩たちがいるから、きっと大丈夫だよ」


 渡り廊下を抜けて別棟に入った私たちは、どういう訳か廊下で何か作業をしている康太と出くわした。


「コータ!」

「あっ、アーちゃん」


 私は康太に駆け寄ると、いったいどうしたのかと尋ねた。


「どうしたの? お客さんは?」

「うん。順調だったよ。順調すぎて……」


 康太は手を止めて、貼ろうとしていた一枚の紙を私たちに見せた。


「試食、終わりました。 え? もう無くなったの?」

「うん。あれからもたくさんお客さんが来てくれてね。気が付けば全部なくなってた」

「あちゃー、完全に計算違いだったのね」


 悔やむのはあとにして教室に入ると、受付をしてくれていた先輩は何故かいなくなっていた。


「あれ? 先輩たちは?」

「ああ、試食が無くなって受付だけで良くなったから、周って来て下さいって言ったんだ」

「そっか、入れ違いだったみたいね」


 唄子はなんだか力が抜けてしまったかのように、受付の椅子に腰を下ろした。

 試食が無くなったことで、お客さんを呼び込む有力な材料が無くなってしまった。

 出来るだけ多くの人にこのボランティア部のことを知ってもらいたいと意気込んでいた私たちにとって、この誤算は大きな痛手だった。


「まだよ……」


 唄子はそう言うと、顔を上げて私を真っすぐに見た。


「律子先生に相談して、何かできることを考えようよ」


 まだ終わっていない。頑固者の唄子はこんなところで引き下がらなかった。


「うん。そうだね。そうしよう」


 康太に受付を任せて、私と唄子は隣の保健室に行き、律子先生にいきさつを話し、どうすればいいのか意見を求めた。

 すると、意外とあっさり突破口を示してくれた。


「アルファ米はもう無いし、すいとんの味噌汁は色々と具材が無い。でも白玉粉ならいっぱい余ってるわよ」

「ホントですか! じゃあ白玉団子は出来ますね」

「ええ、きな粉はもう無いけど、砂糖はいっぱいあるから煮詰めてシロップにすればいいわ。作り方は瑞希ちゃんとこの葉ちゃんが知ってるはずよ」

「わかりました。それで行きます!」


 先生にお礼を言って、私と唄子は保健室を飛び出した。


「まずは先輩を探さないと」

「うん。急ごう」


 こうして私たちの第二ラウンドが始まったのだった。

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