第51話 幸運のアイテム
康太がクラスの仕事を終えて部室に顔を出したのは、十時を少し過ぎた頃だった。
「お客さんがいる。しかもこんなに」
炊き出しの試食を忙しく振舞う私たちを目にして、駆け付けた坊主頭はただ呆気にとられていた。
丁度手が足りなくなっていたので、私はすぐに康太の尻を叩く。
「いいから手伝って」
「う、うん、わかった」
康太は急いでエプロンを着けると、もう半分くらいに目減りしてしまった鍋の中を覗いて、さらに声を上げた。
「すいとんの味噌汁がもうこんなに。けっこういっぱい作ったのに……」
炊き出しの試食は三種類。すいとんの味噌汁と、一口大に握ったアルファ米のおむすび、そして、きな粉をまぶした白玉団子だ。
「味噌汁よりも、アルファ米のおにぎりが先に無くなりそう。お昼まで持てばいいけど……」
お湯を入れればご飯になるアルファ米は、炊飯の手間が無い優れモノだが、用意したアルファ米が思っていたよりも少なかったため、もうそんなに作れそうになかった。
「もう少し買っといてもらったら良かった」
私が軽く悔やむと、唄子はそれを窘めた。
「仕方ないでしょ。賞品でもらったやつなんだから」
実は夏の合宿で行われたビーチフラッグスの優勝賞品は非常食セットだった。
ボランティアのレクリエーションらしい優勝賞品の中にはアルファ米も入っていて、それをそのまま今回の試食に生かしたのだ。
また、試食で代金を頂くわけには行かないので、他の食材についても、色々律子先生が手回しをして、結果的にあまりお金をかけずに用意することができた。
そして、少し足が出てしまった経費については、シーグラスで作ったアクセサリーの売り上げで埋めたいと考えていた。
「あれ? アクセサリー、減ったんじゃない?」
シーグラスを並べてある棚を指さし、康太が訊いてきた。
「へへへ、まあね」
私と唄子はちょっと照れつつ顔を見合わせる。
実はシーグラスで作った手作りのストラップはもう十個以上売れていた。
それは、最初に来てくれたあの母子のお陰だった。
詳しい話をすると、試食を終えた母親が、出口付近の棚に並べておいたストラップを手に取ったのが始まりだった。
「これ、お二人が?」
「あ、はい。私と唄子で作りました」
私と唄子はかなり照れつつ、そう応えた。
「もし良ければ、おひとつ如何ですか?」
唄子が頬を紅くさせながら勧めると、母の隣で手を繋いでいた男の子は真剣な表情でストラップを選び始めた。
「僕、これがいい」
すると今度はお母さんが手に取って選び始めた。
「私はこれで、こっちは主人に。では、この三つをお願いします」
「かしこまりました」
そして、色の違う三種類のストラップを包み、私と唄子は初めて手作りアクセサリーを販売した。
「お買い上げ、ありがとうございました」
二人でお礼を言うと、母親はニコリと笑って私たちにこう言った。
「お二人が作ったものなら、幸運のアクセサリーとして持っておくことにします。こちらこそありがとうございました」
多分そんなご利益は無いが、幸運のアクセサリーと言われ、私と唄子はたいそう恐縮してしまった。
それから母子を見送って部室に戻ると、先ほどの話を試食しながら聞いていたのか、新聞部の部長、金井菜々緒が私たちにスススと寄って来た。
「あの、幸運のアクセサリーと聴こえてきましたけど、あの母子と何かそう言ったいきさつがあったのですか?」
「それは私が聞かせてあげよう」
また絶妙なタイミングで瑞希先輩が背後から現れた。
そして、あのビーチであった迷子事件を瑞希先輩は熱く語った。
「……てわけなのよ。私とこの葉もこないだ二人にプレゼントしてもらったんだけど、これがけっこう効果アリアリでさ、私はアイスの当たりが出たし、この葉なんて、この間サッカー部の男子に告られてたし……」
すると、新聞部の少女たちは、無言で棚に並べてあるストラップを選び始めた。
「これ、下さい」
まとめて十個売れた。
予期せぬ売り上げに感動しつつ、私はこの葉先輩がサッカー部の男子とそれからどうなったのかが気になって仕方なかった。




