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第50話 文化祭

「おはようございます。本日は風ノ巻中学校にて、文化祭を開催いたします。皆様お誘いあわせの上、お気軽にお越しください」


 海からの風が駆け上がって来る丘の上の学校で、今年も文化祭の開催を告げる放送が行われた。

 晴天に恵まれた今日、生徒数の少ない私たちの学校は、訪れる人たちでつかの間の賑わいを見せる。

 開始時刻になって校内に父兄が入場し始めると、見慣れた学校は一気に秋のイベントの雰囲気へと変化した。


「さあ、始めよう」


 準備万端にした部室で、私と唄子は受付の席に着いてお客さんを待つ。

 私たちの部室は別棟で、賑やかになり始めた教室棟とは渡り廊下で繋がっているだけだ。


「向こうはなんだか賑やかだね」


 並べた机に肘を置いて、唄子は頬杖をつく。

 限界突破している唄子には、教室棟から聴こえてくる声が余計に耳に入って来るみたいで、しきりとそわそわしていた。


「こっちでもやってること、気付いてもらえてないのかな」


 出来れば教室棟に行って、ボランティア部の宣伝をしたい。しかし、そうなると受付ができない。

 留守を任せられる誰かがいれば良いのだけれど、いま康太は自分のクラスの出しものの受付をいていて身動きが取れない状態だった。

 また、律子先生は隣の保健室で、今日一日待機していないといけないので、当てにはできない。

 

「本当にお客さん、来てくれるかな……」

「まあ、そのうちに来るんじゃない」


 何時になく今日の唄子はどこか弱気だ。

 今日のためにやることはやったが、ここから先はお客さん次第となる。

 別棟の教室で展示を行っているのはボランティア部だけ。

 下手をすれば、康太と交代する十時まで、誰も来ないかも知れない。

 そんなネガティブな想像をしつつ、全く何もしないで十五分ほど経ち、焦りで二人の顔が無表情になった時だった。


「あっ、ここだ!」


 小さな男の子が母親の手を引いて、私たちの展示室へと入ってきた。


「い、いらっしゃいませー」


 ちょっとぎこちなくなってしまったが、私と唄子は席を立つと、二人で練習した笑顔と挨拶で母子をお迎えした。

 すると、子供の手を握ったまま、三十歳くらいの母親が恭しく頭を下げた。


「あの時は大変お世話になりました」


 どこかで会った人のようだ。記憶を辿ると数秒で思い出した。


「もしかして、あの海岸掃除の時の……」

「はい。お二人にはこの子を見つけて頂いて、本当に感謝しております」


 海岸の美化活動の時に会った、あの迷子とお母さんだった。

 思いがけない学校での再会に、私と唄子は驚きを隠せない。


「えっと、どうしてうちの文化祭に?」

「ああ、連絡をもらって……」


 母親は鞄からスマホを取りだすと、送られてきたメールを見せてくれた。

 そこには風ノ巻中学の文化祭のことが書かれてあった。


「これは……」

「ボランティア会員全員に送られたメールです。海岸掃除に来てくれた中学生のお二人が、文化祭でボランティア活動の展示をしているから是非見に行って下さいって、会長から回ってきたんです」

「そんなメールが……」


 律子先生がまたサプライズで行動を起こしたのだろうか。

 まったく知らされてなかった私たちは、やや気恥ずかしさを感じつつ、母子を案内することにした。


「では、こちらにお名前をお願いします」


 ようやく真っ白だった名簿に名前が記入された。


「えっと、この通路を通って頂くと、風ノ巻ボランティア部がどういった活動をしてきたのかを、時系列でご覧になれます。通路を出たところには、被災された方々に実際に食べて頂いた炊き出しの試食を用意してますので、是非味見していってください」

「わかりました。じゃあ拝見させて頂きますね」


 そして、母親は子供と手を繋いで、展示の通路に入って行った。


「お客さん第一号だ……」


 唄子と私はこっそり喜びを噛み締め合う。


「律子先生かな、メール流してもらったのって」


 唄子はちょっとワクワクした様子で、更なる期待を滲ませる。


「そうかも。なんせサプライズ好きだから……」


 第一号のお客さんに密やかに盛り上がっていると、今度は私服姿の瑞希先輩とこの葉先輩が現れた。


「おー、やっとるかね後輩諸君」

「あっ、先輩」


 人形劇が終わった夏以降も先輩たちとは時々ここで顔を合わせていたが、彼女たちがこの部室に来る時は、たいがい制服姿だったので、私服のいで立ちがなんとも新鮮だった。


「見に来てくれたんですね」

「見に来た、というよりも……」


 瑞希先輩とこの葉先輩は、意味ありげに教室の外を振り返った。


「連れて来たって感じかな」


 瑞希先輩が手招きすると、ぞろぞろと人の列が教室の中に入ってきた。


「さあ、入って入って」


 瑞希先輩が招き入れたのは、高校生と思しき十人ほどの女子だった。


「い、いらっしゃいませー」


 数の圧力に圧倒されつつ、私と唄子はしっかり腰を折って挨拶をした。


「松ノ浜高校、新聞部の皆さんでーす」


 ざっくりと瑞希先輩が紹介すると、黒髪で美形のお姉さんが、ぺこりと一礼した。


「松ノ浜高校、新聞部部長の金井菜々緒(かないななお)です。今回の地震のボランティア活動に携われたお二人の展示を拝見しに来ました」


 畏まった挨拶をした新聞部部長の肩に、瑞希先輩はがっつり腕を回す。


「ナナったら、なに畏まってんのよ」

「瑞希、近い近い」


 パーソナルスペースブレーカーの瑞希先輩に、新聞部部長はかなり苦手そうな顔だ。


「うちらクラス一緒でさ、結構気が合うんだよねー」

「そ、そうゆうのはいいから、あんましくっつかないでよ」


 瑞希先輩の腕を振り解いて、新聞部部長は服装を正した。

 なんだかちょっと顔が赤い。嫌では無さそうだが、グイグイ来られることにやや抵抗がある感じだ。


「ではこちらにお名前をお願いします」


 展示の通路に入って行った高校生たちを見送り、私と唄子は気持ちを引き締める。


「さあ、炊き出しの試食、準備しないと」

「うん。そうだね」


 席を立って準備にかかろうとすると、瑞希先輩とこの葉先輩が戻ってきた。


「二人だと手が回らないでしょ。受け付けは私らが引き受けるよ」

「え? でも先輩たちはお客さんだし」

「いいのよ。そのつもりで来たんだから」


 この葉先輩は私と唄子の背中をポンと押した。


「さあ、炊き出しの試食、みんなに振る舞ってあげて」


 やっぱり先輩たちは頼りになる。

 申し訳ないと心の中で思いつつ、お言葉に甘えさせてもらうことにした。


「じゃあ、お願いします」

「行ってらっしゃい」


 こうして私たちのボランティア部は、先輩たちの助けを借りて活気づいて行った。

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