第38話 美しい砂浜
合宿二日目は海水浴場の清掃活動から始まった。
前もって律子先生から聞かされていたとおり、ビーチには地元のボランティアの人たちだけではなく、海の家に携わる人たちや近隣に住む人たちも集まった。
ここでは自治体で定期的に清掃活動を行いつつ、年に一度こうして大勢で集まって、大規模なビーチの美化活動を行っているのだという。
美化活動をとおして意識を高め、また、地域住民とボランティアの人たちの交流を目的としているらしい。
私にとって海水浴場の清掃活動は二回目だ。
今回はかなり人が集まったので、それほど時間はかからないだろう。
メインはこのあと行われる地元の人たちとの交流会だ。
色々と美味しいものも振舞われるらしいので、お腹を空かせるためにも頑張ることにしよう。
「では始めて下さーい」
主催者の合図で、人々は各々ビニール袋を受け取り、広い砂浜へと散っていった。
清掃活動が初めての康太は、両手に袋を持って私たちに付いてくる。
こういうとき男子がいると、重いものを持ってもらえるので非常にありがたい。
おまけに康太の場合、野球部で鍛えた足腰があるので、溜まったゴミを指定の場所まで置きに行くのも速い。
ここは彼のフットワークの軽さを生かしてもらおう。
私と唄子は目につく漂流物を拾い、袋に入れてゆく。
潮の流れのせいなのか、前のビーチよりも明らかに漂流物は少ない。
これなら意外と早く終わりそうだな。
「きれいな海水浴場だね」
陽射しの眩しさに目を細めながら、康太はコバルトブルーの海に目を向ける。
「そうだね。うちの近くの砂浜より整備されてる感じ。午後から泳げるって律子先生が言ってたから楽しみだわ」
ゴミを拾いつつ、私は目についたキラリと光るものに手を伸ばす。
「ねえ康太、これ知ってる?」
「ガラス?」
「シーグラスって言うんだ。ガラスの破片だけど、波で削られていろんな形になるんだ。前にこれでストラップ作ってさ。あ、そうだ。先輩たちにもプレゼントしようかな」
水色の綺麗なシーグラスを私がポケットに入れると、康太はちょっと意外そうな顔をした。
「なに? そんな顔して」
「いや、その、なんだか女の子っぽいなって」
「どうゆう意味よ!」
失礼な幼馴染に口を尖らせた私に、唄子は吹き出しそうな顔を向ける。
「なに? その可笑しそうな顔」
「別にー、仲良しなんだなーって」
「どこがよ。失礼極まりないっての」
そして、私の乙女心を傷つけた坊主頭を、私はビシッと指さした。
「先輩たちにプレゼントするついでに、あんたにもストラップ作ってあげようと思ったけど、もう絶対作ってやんない。何なら今朝あげた缶コーヒーも返してくれる?」
「いや、あれはもう飲んだから……」
「じゃあコーヒーはいいや。その代わりあんたには何にも無いからね!」
「ごめん。機嫌直してよ……」
思い切り不貞腐れてやって、少しは腹の虫もおさまった。
それから順調に清掃活動をし、たくさんシーグラスを見つけた。
そして約一時間後、終了の合図が聴こえてきて、私たちは手を止めた。
「終わったー」
日が高くなってくるのに伴い、ずいぶん気温も上がって来た。
汗を拭いつつ片付けを終えて、松の木の影で一息つくいた私は、今日集めたシーグラスを唄子に広げて見せた。
「ストラップなんだけど、このオレンジ色のは瑞希先輩に、この葉先輩にはこの水色のやつがいいかな」
「いいと思う。なんだかそれぞれ二人の色って感じだよね」
「そうそう、そんな感じ。唄子も分かってるねー。また帰ったら技術室で穴開けないと」
広げたシーグラスをまた袋に入れようとした時、唄子は指を伸ばして緑色のシーグラスを拾いあげた。
「これは山田君の色。そう思わない?」
「そんな感じだけど、あいつには作ってやんない」
「じゃあ私が作ってあげようかなー」
含みを持たせた感じの唄子に、私はフンとそっぽを向く。
「別に。勝手にすれば」
「嘘よ。これは彩夏が持ってて」
緑色のシーグラスを私に手渡して、唄子は楽し気に笑いかけてきた。
「きっと彩夏はそのガラスでストラップを作る。私の勘がそう言ってるわ」
木漏れ日の下で、そう言った唄子は、まるで確信しているかのようだった。




