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第37話 早起きをすれば

 合宿二日目の朝、私は唄子に肩を揺さぶられて目を覚ました。


「いつまで寝てるのよ」


 寝ぼけ眼で見るカラーの唄子の顔。

 ここが自分の部屋ではなく、合宿所であることを私はようやく思い出した。


「おはよう唄子」


 そういえば昨日の就寝前に、みんなで朝日を見る約束をしていた。

 先輩たちも布団から出て、目をこすりながら着替えようとしていた。

 どうやら唄子が一番先に起きたみたいだ。


「先生はどうする?」


 律子先生は布団を頭まで被って蚕の繭みたいになっている。

 目下熟睡中の先生を起こすべきか、そおっとしておいてあげるべきか。


「なんだかお疲れの様子だね」

「起床時間まで寝かせておいてあげた方が良さそうね」


 先輩たちもその方がいいと賛成したので、先生にはそのまま夢を見ておいてもらうことにした。

 私たちはそおっと部屋を抜け出し、まだ日の昇っていない砂浜へ出た。


「誰もいないね」

「プライベートビーチね。気持ちいいー」


 唄子は楽し気に潮風を吸い込む。

 瑞希先輩はまだ薄明るい空を見上げて辺りを見渡す。


「ねえ、太陽ってどの辺りから昇って来るのかな」

「そうですね……」


 唄子はポケットからはスマホを取り出して確認する。


「地図で見ると、お日様が昇ってくるのは海の方じゃないみたいですね」

「え? 違うの?」


 海の方だと勝手に思っていた私は少し落胆してしまった。


「なんだ。てっきり海から日が昇るんだって思ってた」

「残念ね。そう言えば私たち、あのバカヤローの海で夕日に向かって叫んでたじゃない」

「あ、そうか。じゃあ朝日は海とは反対側か」

「そうゆうこと。あっちの小高い丘ならよく見えそうね」


 それから丘を目指し、みんなで走り出した。

 久しぶりに砂浜をダッシュした唄子と私は、先輩たちを追い越して見晴らしのいい場所まで駆け上がった。


「ハアハア、なんとか間に合った」

「私たち、スタミナだけはついたよね」


 少し遅れて、息を切らしながら先輩たちが追いついてきた。


「あんたら速すぎ。なんだか砂浜を走り慣れてる?」

「へへへへ」


 それからすぐに太陽が山の稜線から姿を現した。


「おー」


 眩しさに目を細めながら、私はその美しさに感動する。

 ゆっくりと昇って来る太陽を、私たちは言葉もなくしばらく見つめていた。


「ね、写真撮らない?」


 この葉先輩がそう言うと、唄子はスマホをポケットから取り出した。


「自撮りで行きますね」


 腕を伸ばしてスマホを向けた唄子に、みんながくっつく。


「いきますよー」


 撮った写真を確認すると、フレーミングはいいのだが、ちょっと人物が暗く写っていた。


「ちょっと逆光じゃない?」


 私が率直に感想を言うと、瑞希先輩も画面を覗き込んできた。


「雰囲気は出てるけど、確かに表情が分かり辛いわね。もう一枚撮っとこうか」


 そして、今度は海を背景に入れて撮ってみた。

 確認すると、今度は納得の出来栄えだった。


「いい写真。あとで送ってね」


 先輩たちとの思い出の一枚。

 特別な夏休みを切り取った写真がまた一枚、私の思い出となった。


 待てよ、何か忘れている気がする……


「あっ!」


 思わず叫んだ私に、みんながビクッとなる。


「どうしたの? 急に」

「何か急用でも思い出したの?」


 急用ではないが、大事なことを一つ忘れていた。


「コータ、誘ってあげるの忘れてた」


 私たちの青春の一ページに写ることのできなかった少年。

 先輩も唄子も完全に忘れていたらしく、みんな微妙な顔をしていた。



「おはようアーちゃん」


 よく眠れたのか、すっきりとした顔で、康太は食堂に現れた。


「おはよう、コータ」


 そして、私はさっき自販機で買った缶コーヒーを康太に手渡した。


「くれるの? なんで?」

「私たちの気持ちだから、遠慮せず受け取って」

「んー……まあ、ありがとう……」


 後ろめたさの詰まった缶コーヒーを受取った康太は、そのあと朝ご飯を美味しそうに食べていた。

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