第33話 花火
合宿所の夜、思いがけないことが起こった。
夕食を食べ終えて皆で雑談していた時に、ドンドンという音が聴こえてきたのだ。
真っ先に反応した唄子が席を立つ。
「あれってもしかして」
「うん。どこかで花火が上がっているみたい」
食堂の窓からは何も見えない。
ドンドンという連続音に居ても立っても居られないのは、私や唄子だけではなかった。
「みんな行くよ」
席を立った瑞希先輩に続いて食器を片付けると、私たちは夜の砂浜に出た。
「あっちだわ」
少し離れた入り江で花火が上がっていた。
遠くで打ちあがる花火は、その眩さを海に映して、途切れることなく続いていく。
「もうちょっと近くで観よう」
瑞希先輩はこの葉先輩の手を取ると、私たちを置いて波打ち際を駆けていった。
ドン ドン
そうしている間にも、大輪の花火は上がって行く。
「何て美しいの……」
まるで夜空に咲いた花の様だ。
唄子と手を繋いだまま、私は生まれて初めて目にした光景を前に、ただ立ち尽くす。
「小さいとき、一緒に観たよね」
いつの間にか隣に来ていた康太が、遠い日の思い出を口にした。
「うん。でもこんなに綺麗だったなんて……」
ただ綺麗としか表現できない自分がもどかしい。
こんな美しいものがあったなんて知らなかった。
「良かったね」
気の利いた言葉では無かったけれど、康太は一緒に喜んでくれた。
そして唄子も。
「良かったね、彩夏」
「うん」
「私も、ここに来れて本当に良かった」
お腹に響くような花火の音に、きっと唄子も感動しているんだ。
繋いだ手から、そんな唄子の気持ちが伝わって来るようだった。
「どうだ? 綺麗だろう」
缶ビールを片手に、後から来た律子先生が私たちに感想を訊いてきた。
どうやら先生は花火のことを知っていたようだ。
「はい。すごく」
私の返答に、律子先生は満足げに缶ビールを煽った。
「夜空に咲いた花をしっかり見ときなさい。あ、山田君はそっちの花よりも両手に花って感じかな?」
お酒が入っているせいか、先生は何となくおじさんっぽくなっていた。
多分真に受けてしまったのだろう、康太はなんだか口ごもる。
「や、やめて下さい。そんなんじゃないんで……」
純情を覗かせた坊主頭を肴に、律子先生はまた缶ビールを煽る。
「ふーん、青春してるな、少年よ。気になるだろうが夜に女子部屋に忍んできたら駄目だぞ」
「しませんよ!」
完全に酒の肴にされている。
律子先生と康太のじゃれ合いを放っておいて、私は美しい光の花が咲く夜空に目を向ける。
「いつまでも観ていたいな」
そう呟くと、唄子は「そうだね」と小さく頷いた。




