第20話 私たちの部室
保育園訪問までおおよそひと月。
学校側の計らいで、私たち風ノ巻中学ボランティアサークルは部室をもらった。
本来なら少人数のサークルには部室は充ててもらえないのだが、そこは顧問に就任した律子先生が上手くやってくれた感じだ。
新しい部室は保健室の隣の教室で、長い間、備品室いう名目の倉庫になってた教室だった。
まずはそこにあった山のような要らないものを片付けることから、私たちのサークル活動は始まった。
「ひいっ!」
奇声を上げたのは唄子だった。
今日何度目かの奇声に、私は「またか」と、呆れてしまう。
「彩夏、取って、早く取って」
唄子の艶のある髪の毛には、蜘蛛の巣がべったりと貼り付いていた。
顔をひきつらせながら取ってくれと頼んで来たのは、もう三回目だ。
今日初めて知ったのだが、どうやら唄子は蜘蛛が大の苦手らしい。
「もう、動かないでじっとして」
「蜘蛛は、蜘蛛はいない?」
「見たところ蜘蛛の巣だけだよ。なにビビってんの」
余程嫌なのか唄子は涙目になっている。頭についた蜘蛛の巣を取っていると、律子先生が顔を出した。
「二人とも、捗ってる?」
「見てのとおりです。唄子にいちいち手を止めさせられて」
「長い間、放ったらかしにされてた教室だから大変よね。ある意味きついボランティアだわ」
律子先生は腕を組んだまま気の毒そうな顔を見せた。
どうやら手伝う気は無いらしい。
「私は他にすることがあるから手伝えないけど、助っ人を連れて来たわよ」
教室の外で先生が手招きすると、二人の少女がひょっこりと顔を出した。
「おお、やっとるな後輩諸君」
「瑞樹先輩! この葉先輩も!」
学校が終わってからすぐに駆け付けてくれたのだろう。
先輩二人は体操着姿で教室に入ってきた。
「新しい部室をもらったって聞いて、手伝いに来たわよ」
「ありがとうございます。助かります」
蜘蛛のせいでポンコツに成り下がった唄子に手を焼いていた時に現れた救世主だった。
二人とも体操着なので、埃をかぶることを覚悟して来てくれたに違いない。
「まずはいらない物を外に出して、それからね」
「はい。お願いします」
それから先輩たちはテキパキと効率よく、ガラクタを外に出し、蜘蛛の巣と埃だらけの教室を綺麗にしていった。
人数が倍になっただけではないのだろう。恐らくボランティアで培ったノウハウを二人が生かしたことで、片付けは予想よりだいぶ早く終わった。
「まあこんなもんね」
けっこう埃まみれになってしまった先輩たちは、爽快な笑顔で綺麗に生まれ変わった教室を眺める。
「掃除って面倒だけど、こうして綺麗になった時がたまんないのよね」
「ホントねー」
滅茶苦茶よくできた人たちだった。
私は尊敬と共に、自分も見習わないとと思った。
立派な先輩を前に、蜘蛛の恐怖であんまし働いていなかった唄子は、ちょっと居心地悪そうだ。
そして、全く働いていなかった律子先生がこのタイミングで顔を出した。
「みんなご苦労様。さあ手を洗ってらっしゃい。コーヒーでも淹れるわ」
この感じ、隣の保健室で片付けが終わったのを確認してから来たみたいだ。
立派な先輩たちと比べて、だいぶ見劣りした。
服についた埃を払って手を洗った後、保健室に移動した四人は、先生の淹れてくれたコーヒーで一息ついていた。
「いーなー部室もらえて」
瑞希先輩が言ったひと言に、この葉先輩がうんうんと頷いた。
「私たちが中学の時は空き教室を使ってたもんね」
先輩たちが現役の時はそれほど環境は整っていなかったらしい。
律子先生は、先輩二人の後にこう補足した。
「あなたたちが卒業してボランティアサークルが廃部になってから、学校にたくさんの問い合わせが来たのよ。ボランティアのあの二人はどうなったのかってね。校長はあらためてあなたたちが頑張っていたことに気付かされ、次に引き継いでくれる学生が現れたら全面的に協力しようと決めていたらしいわ。部室の件も申請したらすんなりよ」
こうして優遇してもらえているのは、先輩たちの努力と実績があったからだ。
私はあらためて、この状況のありがたみを実感した。
「学校にある備品は、たいがい申請すれば通りそう。家庭科や技術の授業で使う道具や工具も貸し出してくれそうだから、これからは新しい部室を有効に使って、のびのびと活動してね」
「私たちも出入りしていいってことですか?」
この葉先輩が手を挙げて訊くと、先生は「勿論よ」と、あっさり肯定した。
「あなたたちは卒業してからもボランティアを積み重ねてきた。貴重なノウハウを持っている二人にこの子たちを導いてもらいたい。私もだけど、校長も同じ意見よ」
先生の言葉に、先輩二人は分かりやすい照れ笑いを浮かべる。
「なんだか責任重大って感じだけど、頑張ります。後継者になってくれたこの子たちの為にも」
瑞希先輩の口から出てきた「後継者」というキーワードが、私の心を引き締める。
「まずは人形劇から。頑張ろうね」
「はい」
こうして、新しい部室に頼もしい先輩たちが加わることになった。
笑顔の眩しい二人の先輩に目を向けつつ、自分もいつかこんな風になりたい。そう思ってしまった。




