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第18話 桃太郎の話

 グダグダではあったが、先輩たちと合流出来た私と唄子は、そのまま先輩の後に付いて学校を出た。

 先輩たちは律子先生を交えて私たちと話をするために学校へ足を運んだらしい。

 しかし、先生のやらかしのせいで計画が完全に破綻したため、落ち着いて話の出来る所に今移動中だ。

 先輩の後に付いて、私と唄子は普段通らない家の方向とは反対側の道をおおよそ十五分ほど歩いた。


「ここよ」

「ここは……」


 瑞希先輩が足を止めたのは、この辺りで一件しかない町の電気屋だった。

「タニイデンキ」と、ちょっとさびれた大きな看板が上がっている。


「うち、電気屋なのよ。そんで店の二階に住んでるの」


 そう言えば先輩の苗字は谷井だった。私はちょっと驚きつつも納得した。

 実は我が家の大型家電の大半はこの店で購入している。

 あまり隣町の量販店に行かないのは、この店のアフターケアが手厚いからだ。

 つい最近も、エアコンが壊れて修理に来てもらったばかりだ。


「まあ、上がってよ」


 おもむろに店の中へと入って行った先輩について行くと、まず新しい電化製品の匂いがした。

 あまり広くもない店内の壁側に、冷蔵庫や洗濯機などのいわゆる白物家電が並んでいる。

 その奥には60インチはありそうな液晶テレビが置いてあり、画面にはサッカーの中継が映っていた。

 今は唄子と髪の毛で繋がっているので、高精細な画面の品質が良く分かる。

 鮮やかな画面に気を取られていると、不意に声を掛けられた。


「いらっしゃい。おや? そちらは確か志藤さんちの娘さんだったね」


 見知った店主のおじさんは、私の顔を覚えていた。


「あ、はい。こんにちわ」

「エアコンの調子、どうだい?」

「はい。もう大丈夫みたいです」

「そうかい。そりゃあ何よりだ。他の家電は大丈夫かい?」


 お客さんがいないので多分暇なんだろう。

 何だかまだ話を続けそうなおじさんに、瑞希先輩が割って入った。


「お父さん、二階いいよね」

「ああ、ゆっくりしていってもらいなさい」

「ありがと。みんな、こっちよ」


 奥の階段から二階へ上がると、すぐに先輩の部屋があった。

 部屋へと通された私たちは鞄を置いて、勧められた座布団に腰を下ろしてひと息ついた。

 私もそうだけど、唄子はなんだか居心地悪げだ。

 それはそうだろう。放課後、いつものように保健室で団欒するはずが、ドタバタの末に、まだ良く知らない先輩の家にこうして上がり込んでいる。

 予想外のことが連続で起こっただけでなく、さらに先輩から何か話があるらしい。

 そして約五分後、私と唄子は瑞希先輩が出してくれたほうじ茶に口を付けながら、正座で先輩の話を聞いていた。


「律子先生には言ってあったんだけど、二人とも何にも聞いてないみたいだし、一から説明しておくね。でもその前に……」


 畏まって正座していた私たちに瑞希先輩は足を崩すよう促したあと、自分たちが夏休みに企画しているボランティアの内容を、簡潔に話してくれた。

 私たちが夏休みに入ってすぐ、先輩たちは保育園でボランティア活動をするらしい。

 ボランティアに赴く保育園は三か所。

 先輩たちはそこで、恒例の人形劇をするのだという。

 恒例と言ったのが気になって、その辺りを聞いてみたところ、先輩たちは中学の時にボランティアサークルを立ち上げた時から保育園への訪問を続けているらしい。


「それでね……」


 瑞希先輩が目配せをすると、この葉先輩は手元にあった紙袋の中から人形を取り出した。


「去年の人形劇で使った手作りの人形よ」


 その人形をひと目見て、去年の人形劇が何であったのかが分かった。


「桃太郎ですね」

「そう。桃太郎なのよ」


 この葉先輩が袋を逆さにすると、袋からは猿、キジ、犬、そしておじいさんおばあさんの人形が出て来た。


「へえ、上手く出来てますね」

「まあ、この葉がね、そこら辺は器用なの」

「ちょっと着けてみてもいいですか?」

「勿論いいわよ」


 人形は丁度下から手が入る様になっていて、口がパクパクと動かせるようになっていた。

 手造りにしては唸らされる完成度に、私と唄子は「ほー」と感心するばかりだ。


「子供たちもきっと喜んでたんでしょうね」

「まあ、喜んではくれたんだけど……」


 猿の人形の口をパクパクさせて感心しっぱなしの唄子に、この葉先輩はちょっと残念そうな顔を見せた。


「何かあったんですか?」

「まあ、ちょっとね。気付かない? その人形を見て」

「?」


 あらためて見たとしても、どの人形も完成度は素晴らしかった。

 いったい何がいけなかったと言うのだろう。

 腕を組んで答を探っていると、唐突に唄子が口を開いた。


「鬼がいないわ」


 確かにそうだ。唄子の指摘したとおり、敵役の鬼の人形が無かった。


「そのとおりよ。鬼がいないの」


 そして、この葉先輩は正解を示した唄子に、更なる質問をしてきた。


「どうして鬼がいないか分かる?」

「そうですね……」


 唄子は顎に指を当てて少し考える仕草をしたあと、ゆっくりと口を開いた。


「先輩たちが二人だから。ではないですか?」

「正解よ」


 どうやら唄子は完全に理解し、正解に行きついた。

 私はまだ良く分からないまま、隣の唄子に説明を求めた。


「ねえ、どうゆうこと?」

「つまり先輩はこう言いたいのよ」


 唄子は先に解答に行きついたことを、ちょっと鼻にかけるように説明し始めた。


「去年、先輩は二人で桃太郎の人形劇をした。物語では序盤はおじいさんとお婆さんしか出てこない。つまり二人はお互いに片手を使うだけで劇は進行していく」

「うん。そうね」

「中盤はおじいさんとおばあさんと桃太郎。先輩のどちらかが一人二役をすれば問題ない」

「ふんふん」

「桃太郎が旅に出ると犬、猿、キジがキビ団子をもらって仲間になる。すると先輩たちは両手を使って劇を進行させないといけない……」

「あっ、そういうことか」


 ようやく私も気が付いた。鬼ヶ島に舞台が移れば鬼が登場する。しかし、既に四つの人形を二人は操っているので手の数が足りないのだ。


「色々考えたけど、去年、私たちは鬼を大きなボードに描いて劇をしたの。子供たちはそれでも喜んでくれたんだけど、録画しておいた自分たちの劇を見て、もっと出来たのにって思っちゃって」


 どうやら、この葉先輩はかなり悔やんでいる感じだ。

 人形の完成度のこだわりから察するに、理想の高い人なのだということがなんとなく分かった。


「つまり、人形劇をするにあたり私たちの手が欲しいと?」

「まあそうゆうこと。でもそれだけじゃないのよ」


 瑞希先輩は、なんだか目をキラキラさせて身を乗り出した。


「元風ノ巻中ボランティアサークルの私たちと、現役のあなたたちのコラボ。それってなんだか素敵だと思わない?」


 熱い先輩の思いはよくよく理解した。

 しかし、私たちはまだ体験の段階で、ボランティアサークルに入ったわけでは無い。

 それにしても、律子先生は私たちのことを先輩に何と言っているのだろうか。

 よく分からないうちに動きだした歯車に、気付けば私と唄子は翻弄されていた。


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