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第13話 サークル活動

 体育祭が終わって一週間が経ったある日のことだった。


「ボランティアって興味ない?」


 もう日課になってしまった放課後の保健室でのひとときに、律子先生は唐突にそんな話をしてきた。


「ボランティアですか?」


 当初、不可思議の解明を目的とした集会だったこの集まりは、お喋りな唄子のせいで、最近は女子会のようになってしまっていた。

 また関係ない話題だと捉えた私は、いかにも面倒くさそうなボランティアというキーワードに、軽く手を振ってこう返した。


「世のため人のために何かするやつですよね。私にはちょっと敷居高いかなー」


 普段親に頼り切って生活している私には本当に縁遠い話だった。

 そして、周囲の助けをたくさん借りて学園生活を送っている唄子は、さらに縁遠い話だと言えるだろう。


「私も彩夏と同じです。ただでさえ普段から色んな人に助けてもらってるのに」


 少し真面目な顔で唄子が応えると、律子先生は机の上に置かれていた写真立てを手に取った。


「これを見て」


 先生の趣味では無さそうな可愛い写真立て。

 そこには先生を挟むように、明るい笑顔の二人の少女が写っていた。


「三年前に海岸のゴミ拾いをしたあと、生徒と一緒に撮ったものよ」


 よく見ると写真の少女たちは、この学校の体操着を着ていた。


「校外学習で海岸のゴミ拾いをしたってことですか?」

「学校行事でそんなことしないわ」


 小さく首を横に振って、先生は話を続けた。


「三年ほど前、この二人はボランティアサークルを立ち上げて、こういった活動をしていたの。私は頼みこまれて、なんとなく顧問になった」

「保健室の先生なのに顧問を?」

「まあ、教科を受け持つ先生方は手いっぱいでね。学校行事に全く関わっていなかった私が目をつけられてしまったわけよ」


 先生は手元のコーヒーカップに口をつけた。


「今のあなたたちと同じように、まるでそういったことに関心の無かった私は、顧問になって欲しいという申し出をスッパリと断ったわ。でもあまりの熱量に根負けしてね……」


 先生の口元にフッと、何かを懐かしむような笑みが浮かんだ。


「一度だけ体験してみてって言われて足を運んだ海岸のゴミ拾い。それからあの子たちが卒業するまで様々なボランティアをとおして、たくさんの経験をさせてもらった。それでね、私こう思ったの。ここでこうしてお喋りしているのも悪くないけど、それだけじゃ勿体ないって。今あなたたちに起こっている奇跡を有効に使った方がいいって」

「それがボランティアだと……」


 先生の言いたいことは理解したけれど、踏み出すにはやはりまだ敷居が高かった。

 海岸のゴミ拾いなら出来ないことも無いけれど、ボランティアにも色々あるだろう。手伝いに行った私が、逆に足を引っ張ったりしそうな気がした。


「二人一緒なら、あなたたちは存分に力を発揮できる。弱点を持っている者の強みを生かしてね」

「弱点を持っている者の強みって、いったいどういうことですか?」


 全く理解できずに聞き返すと、先生から簡潔な答が返って来た。


「ボランティアには様々なものがあるわ。私が携わったものの中には、ハンデを持った人たちを手助けするものもあった。手話ができればコミュニケーションは容易だし、それ以前にあなたたちなら、相手の立場に立って先回りして行動を起こせる。それって特別なことなのよ」


 律子先生の話を唄子は何度も頷いて聞いていた。

 他人事ではないその話に、唄子が前のめりに傾いているのが見て取れた。


 マズいわ。唄子ったらやる気になって来てる。

 ほぼ確信しつつ、余計なことを言わないでと私は願った。


「ねえ、彩夏」


 ポツリと、唄子が口を開いた。


「先生みたいに、ちょっと私たちも体験してみない?」


 控えめに提案してきた唄子に、私は渋い顔を向ける。

 この言い出したら聞かない頑固者は、絶対に私をそっちへ引きずり込む。

 つまり、この時点で、私の進んでいく道筋は決まったようなものだった。


 週末の日曜日、私は体操着に軍手という格好で、閑散とした学校へと足を運んだ。

 特に用事があったわけではなかったけれど、正直、休みが潰れてしまうことが残念で仕方ない。

 初めてのボランティア。

 砂浜の美化活動という名目のゴミ拾いに駆り出された私は、何だか楽しそうな唄子と共に、律子先生の赤い小型車に乗り込んだ。


「さあ、行くわよ」


 これから向かう学校から少し遠い隣町の海岸。そこには潮の流れのせいなのか、けっこうな漂流物が流れてくるらしい。

 やたらと陽気な先生と唄子に自分とのギャップを感じつつ、生まれて初めての体験が始まったことに私の胸はどこかで昂っていた。

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