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新入生代表挨拶。

 諸々の挨拶や式辞が述べられ、入学式も終わりが近づいてきていた。

 特に何の面白みも出番もなかったため、地紘(ちひろ)は大きく伸びをしたい気持ちを押し殺しながら、軽く欠伸をする。


(危ねぇ……流石に今伸びはまずいだろ)


 眠気と退屈さによって鈍ってきていた判断能力を正し、地紘は司会の言葉に再び耳を傾ける。


「続いて、新入生代表挨拶。新入生代表、一年A組、三輪晴土(みわはると)

「はい」


 司会の淡々とした声に、これまた淡々とした返事を繰り出したのは、地紘と同じクラスの男子、三輪晴土だった。

 堂々とした足取りで通路を歩く彼の背中をぼーっと眺め、地紘は癖で無意識に値踏みをする。


(着痩せするタイプか。全身にバランスよく筋肉がついてる……サッカーかバスケあたりのスポーツをやってたやつの筋肉のつき方だ)


 その視線が気に入らなかったのだろう。晴土は曲がる瞬間にギロリと地紘に視線を向ける。

 瞬間的に目が合った地紘は、切れ長の目をまっすぐ向けて、首を傾げるだけだった。

 何事もなかったように晴土は歩みを進め、階段を一歩一歩確かな足音を立てて登っていく。いかにも優等生といったような風格だ。地紘とは正反対なタイプだと言える。

 晴土は自分の存在をこの場にいる全員に主張するように足を踏み出し、演台の前で正面を向いた。

 無造作に下された黒い髪からは、鋭いながら美麗な瞳を現し、やや威圧的とすら感じる覇気が放たれている。その場にいるほとんどの生徒が思わず姿勢を正すほど、晴土はこの場を支配していた。

 無論、地紘は姿勢を正すことなく晴土を見上げている。


(身長たけぇな)


 地紘がそんな呑気なことを考えているとは知る由もなく、晴土は原稿等を取り出さず、そのまま言葉を紡いでいく。

 彼の挨拶自体は、非常に模範的というか、非の打ち所がない完璧なものではあるが、どこか平坦なものだった。 陽奈(ひな)の挨拶の時のような盛り上がりも、生徒の情動もない。晴土はただ形式的に、無感情に挨拶というものを終わらせた。

 地紘は直感的に理解したことがある。


(あいつ、やりたくねぇんだろーな)


 晴土は地紘からの視線に気づいておきながらそれを返すことはなく、静かに着席した。

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