生徒会の二人は、間違いなく相棒である。
スクリーンが降り、吊り下げられたプロジェクターからスライドが投影された。
陽奈は演台から離れ、マイクを持ってスクリーンの横に立つ。
「まず、一年生に課外学習、すなわち、宿泊行事を計画しています。同じように、三年生には卒業旅行を計画しています。これは、受験が終わった後に行われる宿泊行事です」
陽奈の宣言に対し、一年生と三年生の生徒達は大きな盛り上がりを見せる。一方で、二年生が歓喜している様子はない。それもそのはず、二年生には元々修学旅行があり、追加の宿泊行事はあり得ないからである。
しかし、圧倒的不利な状況から生徒会長になった陽奈が、この程度で終わるはずがなかった。
「なお、全学年の宿泊行事の行き先と内容は、生徒である私たちが決定することができます」
その一手は、王手やチェックではない。トドメを刺したという圧倒的な報告、チェックメイトであった。
この言葉により、先ほどまで沈黙していた二年生も合わせた、全学年の生徒が喜びの声を上げた。
宿泊行事の行き先や内容には、かなりの当たり外れが存在し、それによって一生の思い出が左右される。それを生徒自身の手で当たりに作り変えることができるのだから、これはかなり大きな施策と言えるのだ。
陽奈も確かな手応えを感じたようで、明るい声音で続けた。
「これは現段階で決定している施策であり、私達生徒会はさらに皆さんの希望に応えられるよう、活動を続けていくつもりです。何か要望がありましたら、各教室に掲示されているプリントから申請フォームにアクセスできるので、そちらからお願いします。あまり長くなっても皆さんが疲れてしまうだけですから、以上で、生徒会長からの挨拶を終わりとさせていただきます」
陽奈は、拍手が絶え間なく響く講堂を満足気に見ると、深々と一礼して、ステージ袖の方へ消えていった。
落ち着いた足取りでステージ袖まで辿り着くと、彼女は、そこで胡座をかき、ノートパソコンと対面している相棒に抱きつこうとする。
「海斗くーん!グッジョーブ!」
海斗は視線すら陽奈に寄越さず、左手で彼女を制止する。
「せっかく良い仕事をした相棒を褒めてあげようと思ったのに」
「暑苦しい」
陽奈は唇を尖らせながら抱きつこうとするのをやめ、海斗の隣にしゃがみ込んだ。
「良い仕事だった。ありがとう」
「ん」
陽奈の言葉に小さく相槌をうち、海斗はパソコンをシャットダウンした。
海斗は生徒会副会長であり、主に裏方の業務をしている。それだけ聞けば大したことなさそうに思えてしまうが、注目するべきはその仕事量。
スライドの作成・操作、演台の移動、スクリーンの操作等、ほぼ全ての仕事を一人で行なっているのだ。
陽奈が圧倒的に不利な状況から生徒会長に就任できたのは、単に海斗の貢献が大きい。陽奈としてはもっと褒めてあげたいのだが、海斗はいつも拒否する。海斗の頭を撫でるのが、今の陽奈の目標だ。
海斗は閉じたノートパソコンを持って立ち上がり、陽奈の手を引っ張って彼女を立ち上がらせる。
「戻る」
「そうだね」
星影学園高等部生徒会の二人は、間違いなく相棒である。