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これは、戒めだ。

 端の席に座り、地紘(ちひろ)は電車に揺られていた。

 星蔭(ほしかげ)学園の最寄(もよ)り駅まで電車で二十分程度。何もしなければ退屈(たいくつ)すぎる時間だ。

 地紘はポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、両耳に装着する。

 音楽でも聴こうとスマホの画面をつけると、小惑(こわく)からメッセージが届いていた。


「お兄ちゃん!今どこ!?一緒に行くって言ってたのに!」


 小惑は幼い頃から地紘にベッタリであり、通園・通学は必ず地紘と共に行おうとする。それが彼女の習性と言っても過言ではないだろう。

 そんな小惑の粘着(ねんちゃく)を嫌った地紘は、中学校進学を機に共に通学することをやめたのだ。

 高校に進学したことで物理的にそれを行うことができなくなると考えていた地紘だったが、小惑は彼を追うように星蔭学園中等部に転校した。彼女が共に通学したがるのは当然の流れだと言える。

 もちろん、地紘もそれを見越していた。だからこそ誰にも気づかれないうちに家を出たのだ。

 変に反応していても面倒だと判断した地紘は、メッセージの通知をスワイプして消去し、音楽を再生する。

 地紘には、好きな音楽などない。イヤホンから聴こえてくるのは、何も感じない今流行りの曲だけだ。

 昔から何も感じなかったわけではない。

 ただ、彼にとってこの世界が()せていってしまったのだ。

 降車駅まで残り十分程度といった時、乗車してから三つ目の駅に電車が到着する。

 現在地を確認するため、駅名の表示を見ようとした時、地紘は思わず目を(うば)われた。

 ただ一人の少女に。


「……ドア閉まります。ドア閉まります」


 車掌の無機質(むきしつ)な声が響いてすぐ、機械音(きかいおん)が流れると同時にドアが閉まる。

 一瞬の無音が、目の前の景色を静止させた。

 少女の長い銀髪は太陽の光を通し、輝きと影を生み出す。

 そして、彼女の(まばた)きが時を再び動かし出した。


「っ……」


 地紘はようやく息を()む。彼女が、世界から浮いているほど綺麗(きれい)だったからだ。

 まだ早い時間で比較的電車は空いていたが、空いている席は地紘の隣のみ。

 少女はその席を一瞥(いちべつ)し、何も見ていなかったかのように振り返ってドア横の手すりに手を伸ばした。そう、彼女は地紘の隣に座りたくなかったのだ。

 かなりのショックを受けつつ、冷静になった地紘は彼女の服装に気づく。


(あれ、うちの学校の制服……)


 人生、生きていれば美少女と同じ学校に通うこともある。

 その幸福と、隣に座ることを露骨(ろこつ)に避けられた不幸が入り混じり、地紘はぐったりと肩を落とした。


(まあそうだよな。俺みたいな見た目のやつに近づきたい奴なんていねぇよな)


 地紘が中学時代から始めた金髪ピアス。この見た目なら、他人に近寄られないのも納得だろう。好きでしているため、地紘に文句を言う権利はないのだが。

 きっとこれは(のろ)いだ。

 いつまで経っても地紘を掴んで、決して離さない。

 これは、(いまし)めだ。


「……」


 地紘は視線を落とし、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

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