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八話 烏の物語

バサバサと黒い烏が日が暮れた夜空に同化し、夜の海を泳いでいる。その中にぼやっと光る街がある。遊楽の『狐の宮』と言われる街は怪しく光る提灯が唯一その暗い街を照らす手段だ。その街に一つだけ美しくそびえ立つ摩天楼がある。

烏はその摩天楼に向かって降りていくと、そこにはこの街には似つかわしくないセーラー服を着た女性が外の街をぼんやり見つめながら窓にもたれていた。

「こんばんは、お嬢さん。」

声をかけてみるとお嬢さんと言われる女性はゆっくりと顔を上げる。

「…こんばんは。烏天狗さん。またいらしたんですね」

「はい、今日も来ちゃいました。

ほら外は冷えますよ。よかったら俺の羽織をどうぞ」

烏天狗は自分の羽織をお嬢さんに掛けた。お嬢さんは少し戸惑っていたが素直に烏天狗の優しさを受け入れた。

しかしお嬢さんからは烏天狗に話しかけようとせず、じっと目を逸らしてばかりだった。

「今日は何をなされていたんですか?」

「…今日も裁縫をしました。

皆さんの綺麗なお着物の修繕を…」

「お嬢さんはさぞかし裁縫がお上手なのでしょうね。」

素晴らしいと褒めるとお嬢さんはあまり嬉しくなかったのか下を向いてしまう。

だが、いつもの事なのか気にせず話題を変える。

「今日はお嬢さんに渡したいものがあるんです。手を出して」

その言葉にお嬢さんは戸惑っていたが、「さぁ、」と言うものなのでに仕方なく手を出すと小さな小包を渡された。

「これは?」

「開けてみてください。」

綺麗に包装された小包を1枚1枚慎重に開けていくと、キラキラと光るものが現れた。

「髪飾り…」

それは桜などの装飾が施された綺麗な髪飾りだった。

「お嬢さんに似合うと思って買ったんです。

今の流行りかはわかりませんが、貴方に似合うと思ったんです。」

お嬢さんはしばらくその髪飾りを眺めた後、小さく「ありがとうございます」と笑って呟いた。

それを聞いた烏天狗はまるで沸騰したかのように赤くなった。

「で、では、お嬢さん。私はこれでお暇します。また来ますね。」

そう言い残し烏天狗は大きく羽を羽ばたかせると闇に染まった夜に消えていった。

「……羽織…忘れていっちゃった。」

烏天狗は狐の宮の光が見えなくなるまで飛んでいるとお面で顔を隠した小さめな妖怪が近づいてくる。遠くでもわかるぐらい怒りを表しながら。

「烏天狗さんどこ行ってたんですか!探しましたよ!」

あまりの怒鳴り声に烏天狗は一瞬羽ばたくのをやめてしまい、落ちそうになったがすぐに翼を動かして風を掴んだ。

「すまないな夜雀。どうしても行かなきゃ行けないとこがあって」

「そういうことは先に言って下さいよ」

夜雀は行きますよと烏天狗の先を飛んでいくと烏天狗もそれに続いて夜の空に溶けていく。。

「八咫烏様はさぞお怒りでしょうね。」

その言葉だけでこの後己の運命をすぐさま手に取るようにわかってしまう自分が怖いと烏天狗は思った。その前では雀がチッチッチッと静かに笑う声が響くのだった。

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一方狐の宮では少しばかし賑やかだった部屋がまた静かになるとお嬢さんはもう一度髪飾りに目を向けた。

「こりずに来るな、あの烏。」

後ろを振り向くと雪のような肌をした女性が腕を組みながらたっていた。

「お雪さん。いつからいたんですか」

「お前が窓を眺めていたとこからだな」

最初からじゃないかとお嬢さんは思ったが黙っていた。だがそれ以前に戸の隙間から冷気が入ってきた時点でになんとなく察しが付いていた。

「その羽織も貰い物かい?」

「いえ、ただの忘れ物です。」

するとお雪という女性はのぞき込むように烏天狗から貰った髪飾りを見る。

「それにしても、贈り物に髪飾りとはお熱いことだ。僕には御免だけど」

「雪女だからですか?」

「ご名答。」

軽くウィンクしながら言うと椿は視線をしたに向けた。

「そんなんじゃないですよ。きっとすぐに諦めます。」

「…だから名前は言わないか?」

お嬢さんはコクリと静かに頷くと髪飾りを赤い化粧台の引き出しに閉まった。

「お雪さん…私もう寝ますね。」

「…そうか、ゆっくりおやすみ…椿。」

椿はゆっくりと敷かれてある布団に身を任せ眠りについた。

雪女は椿の部屋の灯りを消すと静かに部屋を出る。

「また来たのかい?お熱いねぇ」

「椿自身は冷たいけどな。僕はそこが好きだけど」

「雪女だから?」

「ごもっとも」

決まり事になったかのように雪女のくだりを口にする。

廊下を歩いていたろくろ首は首を長くしてクスクスと笑った。

「椿はもっと自分に自信を持つべきなのにねぇ?」

「まぁ、本人にも事情があるんだろう。」

「そうねぇ~」

ろくろ首は首を首を縮め、ほほに手を添えると

雪女もはぁ…と冷たい息を吐く。

烏天狗があった謎のお嬢さん「椿」。彼女はゆづると同じ”人間”だった

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