五話 お団子の物語
「あ、ゆうちゃん、今日はお休みでいいでありんすよ。」
ネコはほうきを持ちながら言った。
「え、口裂けさん一人で大丈夫なんですか?」
ゆづるはネコに向かって、動かしていた手を止める。
「失礼な!アチキがいるでありんす!」
「あのネコさんが!?」
「にゃ!?アチキだってやる時はやるネコでありんすよ!」
ネコはぷんぷんと反論したが、今までは仕事をせずゴロゴロと毛ずくろいとひなたぼっこばかり。それが急に仕事をしだしたのでゆづるは驚いた。
「でも本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫でありんすよ。ほら、遊んできなんし」
ネコは笑顔に尻尾を揺らしながらゆづるを
外に出した。
「サボらないでくださいね~」
ゆづるは心配になりながらも、これから何をしようかと歩き始める。
「急に休みと言われても何をしようかな…。そうだ、この際だから散策しよう。」
やることが決まり早速ゆづるは走り出しだした。小豆洗いの『あずきどころ』、鬼大橋、途中でアリの金槌坊に会い挨拶してと他にも知らない場所をブラブラし過ごしていった。
時間がおやつ時をすぎた頃、今度はどうしようと歩いていると後から何かが当たった。したを見てみると石が落ちている。
恐る恐る後ろを向いてみると、そこにゆづると背丈が同じぐらいの妖怪の姿があった。
「見てみろよ。人間だ。人間。初めて見た」
「ホントだ。初めて見た。」
指を指しながらケラケラと笑っている。
よく見てみると1人は目がひとつでジンベエを着た妖怪と、もう一人は大蛇が巻きついている妖怪だった。
「人間って弱いんだろ?ここじゃお前みたいなやつは生きていけないぜ」
「そうそう、早く人間の村に帰れよ
余所者!」
「ぼ、僕は座敷童子だよ!人間にそっくりだけど、妖怪なんだ」
ゆづるは必死になって言い返した。
ここでバレてはいけない。どうしよう。
そう気持ちがより焦りをさらに募らせる。
「嘘つけ!お前が人間なのはもう知ってんだよ!」
「人間の匂いがプンプンするしな」
2人の妖怪がズイズイとゆづるに近づいできた。気がつけば大きな目と威嚇する大蛇
と目が合い、恐怖のあまり腰が抜けてしまった。
「だっせぇ!」
「お前は嘘つきな妖怪もどきだ!」
行こうぜと2人の妖怪はゆづるに背を向けて笑いながら去っていった。その瞬間ゆづるはあまりの恐怖に涙がこみ上げてきた。
すると向こうから大小のネズミが歩いてくる。
鉄鼠と旧鼠だ。
「?ありゃぁ、ゆづじゃねぇか?」
「なんや、今日は休みか」
その声に気づいたゆづるは二匹を見て安心したのかまるで糸が切れたように2匹に抱きつき泣き出した。
「どうしたんや?そんなに泣いて」
「こ、転んだか?それとも変なもんでも」
「鉄鼠、お前はちょっと落ち着き、」
鉄鼠はゆづるの背中と頭を優しく撫で泣き止むように促していると、旧鼠はゆづるの様子を見てなにか察した。
「そや、ゆづ。団子でも食いにこか」
「えっ?」
「何言ってんだ旧鼠。団子どころの話じゃねぇだろ」
「お前はだぁとけ。どや?ゆづ。」
旧鼠はいつもの怪しい笑ではなく、優しく笑っていた。それを見た鉄鼠は仕方なさそうに肩を落とすとゆづるは「うん。」小さく頷いた。それを聞いた旧鼠はゆづるの手を引いて歩き出しす。
左手に旧鼠、右手に鉄鼠と手を繋いでると周りからいつものように活気のいい声が聞こえる。
安売りをしている魚屋さん、いい匂いをさせるお蕎麦屋さん、キャッキャッと遊ぶ小さい妖怪達。その楽しそうな光景に知らない間に涙は止まっていた。だか、まだ心は晴れない。
そうこうしているうちに、団子屋についた。
いらっしゃいと、のっぺらぼうの茶娘が近づいてくるとゆづるはビクッと旧鼠の後ろに隠れてしまった。
「すまんのぉ、人見知りやねん」
「いいえぇ、私がこんな顔だからびっくりしたんですねぇ。」
ごめんねぇと茶娘はゆづるに手を振ると、あったかいお茶を3つ持ってきた。近くにあった椅子に腰掛けると鉄鼠は側あった品書きを眺め、旧鼠は煙管を吸い始める。
「ゆづは何にするんだ?3色団子にみたらし、あんこにずんだもあるぞ」
「じゃあ、僕あんこ。」
「ワシはみたらしなタレマシマシで」
何事もなく煙を吸う旧鼠の注文にゆづるは驚いたがゆづるの隣に座っていた鉄鼠も目を丸くし口を開けて固まってしまった。
「え、窮鼠さん甘党だったんですか!?」
「おまっ!?大丈夫か?」
あまりの反応に旧鼠は逆にむせてしまった。
「自分ら驚きすぎや。冗談やて。」
それを聞くとゆづるはなぁんだと笑いだした。その反応に旧鼠と鉄鼠もクククっと笑いだす。
「ちょいと落ち着いたか?」
旧鼠はもう一度煙を吐いた。
「嬢ちゃん、あんことみたらし、ずんだくれや」
「はぁ~い。」
鉄鼠は団子を注文し、茶娘が店の奥に入ったのを確認するとゆづるの頭を撫でる。
「で、いってぇ何があったんだ?」
「えぇっと……。」
ゆづるは大きく深呼吸をするとゆっくりと口を開いた。
「僕が人間だって…バレたんだ…」
「何だって!?」
鉄鼠の大きな声にゆづるはビクッと震えた。
「急に大声出すなや。びっくりするやろ」
「あ、あぁすまねぇ。でもどうやって分かったんだ?」
「それが、人間の匂いがするって言ってました。」
その理由に二匹は首をかしげた。
確かにゆづるから匂いがしてもおかしくはない。だが今では妖の服や街に慣れ始めているためあまり匂いが感じれなくなっているからだ。
「なぁ、どんな奴に言われたんや?」
「えっと、一つ目の妖怪と大蛇を巻き付けた妖怪でした。」
鉄鼠はそれを聞いてなにかに納得した。
「なるほど、蛇は嗅覚が鋭いからな」
「それで人間やとわかったんか…」
旧鼠も納得して頷いた。
どうしたものかと悩んでいると茶娘が団子を持ってきた。
「お待ちどぉ~お団子ですぅ~」
座っていた椅子に頼んでいたあんこ、みたらし、ずんだを置いた。
だが、その中でひときわ存在感が増すものがあった。
「鉄鼠ぉ?自分かぁ?みたらしホンマにマシマシにしたんは」
「ば、ち、ちげーよ。てか頼んだのは窮鼠自身だろうが!」
そこにはみたらしがドロドロにかけられた団子の姿だった。
見ただけで口が甘くなる。
すると茶娘が新たな団子を持って走ってきた。
「ごめんなさぁ~い。私のおやつと間違えてしまいましたぁ~」
「はい、こっちがお客さんのみたらし。」と、普通のみたらしを渡した。
「……嬢ちゃん、自分極度の甘党やな…」
「い~えぇ~。そんな事ないですよぉ~、普通ですぅ~」
「普通はそんなにかけねぇーよ…」
「いやぁ~ん。お恥ずかしいぃ~」
茶娘は無い顔でふふふっと笑うと
ゆづるは少しだけ心が晴れたように感じた。
店の外で騒ぎが!そこにはゆづるをいじめた妖怪たちがいた。ある妖怪に脅されているようだ。一体ゆづるはどうするのか。