四十六話 無茶な行動の物語
その後、椿は飛縁魔によってめかしこまれ作法も教わった。針女も椿が危険な目に遭わないようにある妖怪に連絡の文を入れた。外からリンリンと鈴の音がする。これは客が来た時の合図だ。
「来た!死神様だ!」
「出迎えの準備しろ!」
「料理はできたか!?」
妖怪たちは粗相がないようにお互い確認しながらも死神を部屋に招き入れた。最初は飛縁魔が出迎える。
「ようこそ、おいでくださいました死神様。どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ下さい。」
「おうおう!相変わらず別嬪さんだなぁ?へへへっ。」
「嫌だわぁ、褒め上手!」
「がはははっ!」
椿と針女は戸を挟んだ隣の部屋で耳を当てていた。
「こりゃ、聞いてた通りの奴みたいだな…椿、くれぐれも無理するなよ?何かあれば叫べ!」
「わかったわ。」
そしてその時がやってきた。
飛縁魔が死神にある提案をした。
「死神様?今日は死神様に是非お話したいという妖怪がいらっしゃるのですが、会って頂けますか?」
「ん?ワシは野郎には興味はない!美人でおしとやかな女なら話は別だがなぁ?」
「えぇ、美人でおしとやかな女妖怪でございます。きっと気に入るかと…」
「ほほぅ!連れてこい!」
「はい。ほら、入んな!」
飛縁魔からの合図を確認すると椿は戸を開けてお辞儀をする。
「お初にお目にかかります、死神様。飛縁魔の妹でございます。」
「ほぅ!美人だ!美しい!」
「では、おふたりでごゆるりと」
死神はひと目で椿を気に入ったようだ。直ぐに隣に座らせると酒をつがせる。
「お前がワシと話したいとな?」
「はい。色々とお話したいのですが、構わないでしょうか?」
「良い良い!何でも聞きなさい!」
隣に気に入った女、酒も入り出来上がった死神はなんでも話してくれそうだ。だが、本題に入ってしまっては怪しまれる。椿は遠回しで聞いてみることにした。
「死神様はどのような仕事をされているのですか?」
「ワシか?ワシは冥界の湖を管理している。凄く偉い妖怪だ。」
「すごい。凄く偉い死神様とお話出来るなんて光栄です。」
「がはは!他に何が聞きたいんだ?」
「では…冥界の湖ではどのような場所なのですか?」
「ヒック…冥界の湖には様々な魂が集まる場所だ。」
「魂には元は人間で妖怪になったものもいるのですか?」
「ああ、いたなぁ。確か元人間の蝶化身の魂だったか、もうおらんがな。」
来た!きっとアキヒロの魂の事だろう。もっと深堀りしていく。
「…どうしてですか?」
「昔に蝶化身になって直ぐにまた死んだみたいだからなぁ?確か冥界列車で消えたとかなんとか。だから、冥界の湖にはもういないわい。」
「そうですか…。」
そうなると父親であるアキヒロの魂はもう消滅して存在しない可能性がある…。しかし冥界列車と何か関係はありそうだ…。そうこう考えていると椿の膝に手を置かれる。
「ヒヒヒ、じゃあ次はワシの番だ!お前は独り身か?もしそうならワシと暮らさんかぁ?」
死神はずいずいと椿に近づく。椿も後退るがバランスを崩してしまい、押し倒されるような形になってしまった。
「おぉ!いい眺めだ!今は誰もおらん!楽しもうなぁ?」
がははと笑う死神を見てもうダメだ…と思った瞬間、目の前から死神が消えた。というより吹き飛んだのだ。
「いたたた…何事だ!誰だワシに攻撃したのは!?」
「この俺だが?」
死神の前に現れたのは、黒い羽を広げた烏天狗だった。
「な!八咫烏団!?」
「お前にこの店から苦情が来てな?確か女妖怪にちょっかいを出すとか。」
「ま、まだ何もしとらん!」
「まだ?何かするつもりだったんだな?連れてけ!」
「はい!」
死神は「離せ」と言いながら烏天狗の部下たちにお縄をかけられた。助かった…針女がすぐさま椿に近づく。
「椿!大丈夫か!?」
「大丈夫。何故烏天狗さんが…ここに?」
「アタシが呼んだ。嫌だったが、あの烏は悪行を取り締まる八咫烏団だからな。」
「そうだったのね。」
椿が安心していると、烏天狗がこちらに近づいて来た。椿はお礼を言おうと顔を向けると、そこにはいつも優しい顔の烏天狗ではなく、怒りの表情だった。椿も何となく察する。原因は分かっている…無茶を働いた自分だ。
「椿さん、話があります。着いてきてください。」
「…分かりました。」
「椿…。」
「針女、私は大丈夫。ちょっと待ってて?」
「お、おう…」
椿は烏天狗の後ろをついて行った。空きがあった部屋に入ると烏天狗は重い口を開く
「どうしてあんな無茶なことをしたんですか…」
「………。」
「死神は!閻魔大王が唯一冥界の管理の為に人間を殺めることを許可されている妖怪です!針女や俺たちがいたから助かったが…何かあってからじゃ遅いんですよ!人間は弱い…あんな無茶はもうしないでください。」
「…ごめんなさい。…無茶をしたことは謝ります。全て私の責任です。でも一つ訂正して欲しい、人間は決して弱くないわ。人間だって勇気もあるし根性だってある、成長だってする。きっとあなた達は今まで様々な人間を見てきたと思う…だけど!だからって人間が弱いだなんて思わないで」
烏天狗はその言葉であることを思い出した。かつてゆづるが酒呑童子に立ち向かった場面だ。他の妖怪は恐れて何も出来なかった。それ対して彼は立ち向かった。それが答えだ。
「……そうですね…強い人間もいる…でもあなたを心配したのは本当です。どうか…俺を頼ってください。お願いします。」
「…ありがとう、烏天狗さん。」
二人はお互いを見つめ笑みを浮かべた。
「烏天狗さん!死神を連れていきましょう!っと?おやおやぁ?いい雰囲気じゃないですか?」
「お、おい!馬鹿なこと言ってないで行くぞ!」
「はいはーい!」
バサバサと烏天狗たちは翼を羽ばたかせ、死神を連れて飛び立った。
「椿!」
「針女?」
「大丈夫か!?あの烏に何かされてないか?」
「ふふっ。大丈夫よ、ただ話していただけ。」
「そ、それならいいが…」
「さぁさぁ、お二人さん。用が終わったみたいだし、私の奢りで食べましょ?これであの助平な神は来ないんだから!」
飛縁魔は椿たちを呼ぶと料理が並ぶ部屋へ招いた。
帰ったら早速、ゆづるに手紙を出さなければと思う椿だった。
ゆづるとカマイタチはある妖怪に会いに行ったようだ。




