三十六話 おじいちゃんの物語
昔昔、通りゃんせの森の奥に幼いアキヒロ、犬神、件の三人がいた。三人は『木の葉温泉』の下っ端として働いており、空いた時間を見つけては探検と称してアキヒロの帰る方法を探していた。
「じゃあ、今日も探検しようぜ!」
「またか?どうせ同じだろう?」
「無駄ですよ犬神。アキヒロに何言っても聞く耳持ちません。」
「よし!決まりだな!」
アキヒロは近くにあった枝を拾うと森をかき分けながら歩き出し、犬神たちもその後ろに続く。
「でも本当にいるのか?蝶なんて…」
「私に聞かないでください。」
「そこ!ごちゃごちゃ言わずに行くぞ!」
足場が悪い道に入ったのか歩きにくくしているとアキヒロたちの横に大きな洞窟が現れ、冷たい冷気が肌に触れて寒気を感じた。
「今日はここだな!」
「おいおい…入って大丈夫か?アキヒロ。」
「此処って隠神形部狸様が入っちゃダメって言ってた所ですよ!?」
「バレないバレないって!ほら早く!」
そう、この洞窟は隠神形部狸から危険な妖怪がいるため入るなと言われていたのだ。
「はぁ……行くなって言っても聞かないよな…」
「分かりきったことを聞かないでください…」
二人はあっさりと諦め「はいはい」とアキヒロの後について行く。
それから小さな入口を入り狭い道をを抜けるとそこにはボロい小さな祠が建っていた。触れてしまえばすぐに崩れてしまいそうなぐらいだ。
「これがあるだけ?何も危なくなさそうだな。」
「も、もう分かったし十分でしょ?帰りましょうよ!」
「そうだぞ!もしバレたら怒られちまう…」
きっと説教じゃ済まないだろう…隠神形部狸の恐ろしさを知っている犬神と件は必死でアキヒロを止めるがそれでも止まらないのがこの男の悪いところである。
「何言ってんだよ?青い蝶を見つけるまで俺は帰らない!」
「嘘だろ……!?」
「はぁ……」
二人がアキヒロに呆れていると祠から不気味な声が聞こえた。
『ダセ…ココカラダセ…』
「おい、まずいぞ!早くここから出ようアキヒロ!」
「急ぎましょう!」
犬神たちはすぐさま出口に向かって走り出しだが肝心のアキヒロはその場で立ったままだった。
「アキヒロ!何やってるんだ!?早くしろ!」
「貴方死にたいんですか!?」
近くの岩陰にかくれ叫んだが彰宏は右へ左へ顔を動かす。祠を周りを見渡し何かを見つけたのか二人の方へ振り返りぶんぶんと手を振った。
「犬神!件!大丈夫だ!危険じゃない!」
「はぁ?どういう事だ?」
「見てみろよ、祠の裏に怪我した妖怪がいる、助けてやらないと。」
恐る恐る犬神たちは戻り、覗いてみると確かに足に血を流した角が生えた妖怪が座り込んでいた。
アキヒロは直ぐにその妖怪の傍に行き声を掛ける。
「おい、あんた大丈夫か!?しっかりしろ!」
しかし犬神と件はその妖怪を見た事があった。
それは大昔、悪戯の行き過ぎでひとつの村を滅ぼし、封印されたという大妖怪……大嶽丸。
『コゾウ……オレヲタスケルノカ……?』
「怪我してるからな。簡単な手当しか出来ないが我慢してくれ。」
『ナラバ…アノホコラノ…トビラヲアケロ…サスレバオレハ…タスカル……』
大嶽丸はアキヒロの袖を掴んで言った。恐らく封印を解いてもらおうとしているのだろう。
不味い、もし封印が解かれればこの村は無くなってしまう….。しかし、アキヒロはあっさりそれを断った。
「それは出来ない。」
『ナゼダ?オレヲタスケタインダロ?』
「だってもう扉開いてるし?」
『ハ….?』
「あ、開いている!?そんなはずは!?」
アキヒロの言葉に驚いた件が祠を見ると確かに扉が開いている。アキヒロが言うには最初から開いていたという。
「本当だ…開いています…。」
「あまりにボロすぎて自然に開いたのか…?」
あまりの出来事に唖然としていると、それを聞いた大嶽丸が地面をドンと叩くと地震のように辺りを揺らした。
『ナゼダ?ナゼジユウニナラナイ!?フウインハトケテイルハズナノニ…』
「多分だけどよ、出られないって思い込んでるだけじゃないのか?」
「オモイコミ…ダト…?」
傷の手当が終わったのか布の切れ端を巻かれた足をぽんと叩くとアキヒロは立ち上がった。
「だって俺たち以外誰もここに入ってきたことないんだろ?じゃあ、あんたは隠神形部狸様に封印されたんじゃなくて、暗示をかけらたんじゃないか?」
「あ、あの大嶽丸が暗示をかけられて数十年も此処で過ごしていたのか…」
「信じられません…さすが隠神形部狸様です。それより…」
件が1番凄いと思ったのは恐れもせず大嶽丸の手当をし、暗示だと言うことを見破ったアキヒロ自身だった。
「流石ですな、アキヒロ。」
ザワザワと木々が揺れる。
声がするほうを振り向くとそこには隠神形部狸がいた。
「「「隠神形部狸様!!」」」
「その通り。お前さんには暗示を掛けさせてもらった。」
『フウインシタンジャナカッタノカ…』
「お前さんのために莫大な妖力を使うわけなかろうが。」
隠神形部狸が言うと大嶽丸に近づき大きな手でつまみ上げた。
『オロセ!コノタヌキジジイ!』
「おーおー久しぶりに会ったと思ったら随分と抵抗したのかひ弱になりましたな大嶽丸。」
『ハヤクココカラダセ!』
「だから言っておるだろう。暗示を掛けただけだと。何時でも出られたんじゃよ。それが出来ないのはただ1つ、反省してないからじゃ。」
大嶽丸はジタバタと抵抗しているが全く効果がなく、ただただ疲れていくばかりだった。
するとアキヒロは隠神形部狸に近づき口を開く。
「なぁ、隠神形部狸様。」
「?何じゃ。」
「もう、こいつを離してやればいいんじゃないか?」
「アキヒロ!何言ってるんですか!?」
「お前は知らないかもしれないが大嶽丸は村ひとつ滅ぼした恐ろしい妖怪なんだぞ!」
「その代わり!もう悪さはしない!約束できるな?大嶽丸!」
大声で大嶽丸に叫ぶと大嶽丸はふっと笑いながら「ヤクソクデキルカ!クソガキ!」
「そんなこと言っていいのか?」
『ドウイウイミダ…クソガ…イタタタタタッ!!』
急に大嶽丸は足を抱えながら呻き声を上げ始めた。犬神たちも何事だと思った瞬間、彰宏は大声で笑い出す。
「ハハハハッ!引っかかったな!それはたぬき印の足輪だよ!」
『ナ、ナンダト…!?コンナモノ…オレノジンツウリキデ…』
「無駄じゃよ。それは陰陽師と作った悪戯防止の足輪じゃからの、お前さんの力でも取れはせん。取れる方法はただ1つ、良い子になるだけじゃよ」
『イ、イイコダト…!!??』
「ま、一番付けなきゃいかんのはアキヒロじゃがのぉ。お前さんいつの間にくすねた?」
「あ…まぁ…ははははっ!」
アキヒロは笑い誤魔化そうとしたが、隠神形部狸の目は笑っておらず犬神達は「馬鹿だ」とため息を着くばかりだった。
「まぁ、何はともあれそれがあるならお前さんは解放してやれるぞ?良かったのぉ。暗示も解いてやる。」
『チッ…オボエテロヨ』
隠神形部狸の手から離れた大嶽丸は暗示を解いてもらい祠から離れていった。恐らくあの足輪がある限り悪戯することは無いだろう。
「さて、大嶽丸の件は解決したが…まだお前さんたちの説教が残っておるのぉ?」
ズシズシと大きな巨体が彰宏達のそばによってくる。アキヒロたちは息を飲み覚悟を決めた。そしてその日、森一面に「バカモォォォォン!!!」という怒鳴り声が聞こえたという。
大獄山の話を聞き終えたゆづるたち、たがゆづるはあることに気づく。




