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三話 鬼の物語

「ゆづる。あんたに新しい仕事だ。小豆洗いのじいさんからあずきを二袋お使いを頼まれてくれないかい?」

「え!?」

ゆづるはそれを聞いて食器を洗った手を止めた。

「えじゃないよ!アンタにはもっと働いてもらわなくちゃ。働かざる者食うべからずだよ。」

口裂け女にどんと肩を叩かれ、思わずよろけてしまう。

「は、はい!わかりました!」

「よし!」

新しい仕事に嬉しくはなったが、逆にここに来て初めてのお使いなる。そう考えただけでどうしても緊張感が全身を伝ってしまう。

すると窮鼠が読んでいた書物から顔を上げた

「ほんならはじめてのおつかいかぁ、めでたいのぉ」

「おぉ!確かに。そうでありんすね」

ネコもいつも通り仕事をせず毛ずくろいしながら頷く。

「あんまりからかってやんな。ネコは仕事をおし!」

「いだだだだだっ!」

口裂け女はサボるネコの頬をつねるとネコは叫び声を上げながら渋々仕事をし始めたのを確認し、話を続けた。

「この店を出て左にまっすぐ行った、『あずきどころ』って店だよ。で、これがお金。」

口裂け女はゆづるに古いお金を渡した。

見たことない。この街だけのものだろう。

ゆづるは珍しそうに眺めていた。

「そんなに珍しいもんか?」

「うん、なんか江戸時代にありそうなお金。」

「流石にそこまで古かねぇよ。」

鉄鼠は酒瓶片手にゲラゲラ大笑いした。

「そこまで笑うことないじゃないか。」

「わりぃわりぃ」

鉄鼠はくしゃくしゃとゆづるの頭を撫でるとゆづるは顔を赤くして貰ったお金を懐にしまった。

「ウチの店の名前を言えばすぐ分かるから。後、ちゃんと自分は座敷童子っていうんだよ」

口裂け女に強く念を入れられ、「行ってきます」とゆづるははしゃいで出ていった。

外に出ると、知らない世界が広がっていた。

古い町並みに妖怪達が人間のように暮らしている。いまだに自分がそこにいることが信じられずにいた。

ゆづるは口裂け女に言われた通りに『あずきどころ』に向かう。

色々見渡せば食事処、宿など、お店が出ていた。大人も子どもも皆妖怪である。

そして今自分は座敷童子。ちゃんと溶け込めているか不安を抱いていると、あっという間に目的地に着いてしまった。

「すみませーん。」

シーンと静かな店内から返事は返ってこなかった。

「あの、すみませーーん。」

「はいはい。ここにおるよ」

キョロキョロとあたりを見渡すが見当たらず視線をまた前に戻すと目の前に小柄な老人が立っていた。

「よう!」

「うわぁぁ!」

驚きのあまり腰が抜けてしまったゆづるはその場に尻もちをついてしまった。

「大丈夫か?坊主。ん?」

老人はをじっとゆづるを見つめ始める。

「見かけねぇ顔だな。」

「ぼ、僕『福呼び食堂』で最近働かせてもらってる座敷童子です。」

口裂け女の提案でゆづるは人間に近い座敷童子という設定だ。バレないようにそう言うと老人は手を叩いた。

「ほぉ!口裂け女んとこの。

新しい働き手が入ったのか!」

ゆづるはオドオドと答えたが、

一方老人はほうほう。と笑いながら

ゆづるの肩をポンポン叩いた。

「しっかし座敷わらしっつーもんは5.6才だと思っちょったんだが…地域で違うんか?」

「そ、そうなんです。」

ゆづるはバレたとギクリとしたが

幸いにまだ気づかれていないようだ。

「ほーかほーか。わしは小豆洗いってんだ。自分で言うのもなんじゃが、小豆やことに関しちゃ右に出るもんはいんよ。」

すると小豆洗いはあずきについて語りだした。

最初はフンフンと聞いていたゆづるだがあまりの話の長さに当初の目的を思い出し話を戻した。

「あ、あの!

口裂けさんのお使いであずきを二袋頂きたいのですが。」

「んぁ?そうかそうか。ちょっと待っておれ」

小豆洗いは店の奥から茶色い袋に入ったあずきを二袋ともうひと袋持ってきた。

「二袋で大丈夫ですよ」

「これはワシからのお駄賃じゃよ。

これはあずきの素晴らしさが詰まった饅頭じゃおやつ時にでも食べなさい」

小豆洗いは優しくゆづるの頭を撫でてくれた。

「ありがとうございます!」

「口裂け女にもよろしくな」

「はい」

小豆洗いにお金を渡し、あずきと饅頭を受け取ると小豆洗いにもう一度お礼を言い、店を出た。外は先程とと比べて活気づいていた。

周りを見渡してみると魚屋が安売りをしていて繁盛している

帰ったら口裂け女に教えようと思っていると、お腹が小さくなった。

「そういや、お昼まだだった。

…少しぐらいいいよね。」

ゆづるは小豆洗いからもらった袋からまんじゅうを1つ取り上げた。白くツヤツヤなまんじゅう。

「いただきます」

パクッと口に入れると、あずきの甘みが口に広がった。今まで食べてきたまんじゅうが嘘のようだと思えるくらい。

おいしい!おいしい!

ゆづるはご機嫌になり『福呼び食堂』に向かって歩いていると近くから何やら物騒な声がした。

「恐ろし。恐ろし。

腹を空かせたヤツがいる。」

「近くに行けば食われちまうよ」

妖怪達があちらこちらからヒソヒソと話している。ゆづるは面倒ごと巻き込まれたくなかったが好奇心ゆえ気になってしまい、足を向ける。

多くの妖怪をかき分け、進んでいくと烏の妖怪に前を塞がれてしまった。

「この先は危ない。近づかないほうがいい。」

「すみません。気になってしまって。一体何があったんですか?」

烏の妖怪は苦い口になったが、すぐに開いた。

「実は酒に酔った酒呑童子が道を通せんぼしてしまって、通す代わりになにか食わせろと聞かないんだ。」

烏の妖怪の視線の先には胡座をかく鬼がいた。

妖もそうだが、人生で鬼まで見るとは思っていなかった。

…お腹がすいてるのか、

するとゆづるは

小豆洗いから貰ったものを思い出した。

…まんじゅうだ

思いついた時には烏の妖怪を押しのけていた。

「やめとけ!君にどうにか出来るもんじゃない。」

「大丈夫です。」

そう言い残しスタスタと酒呑童子に近づいていった。

「馬鹿なヤツだ。食われちまうぞ。」

「いや、あの子が食べられちまえば道を通してくれんじゃねぇか?」

周りの妖怪達がゲラゲラと笑い始め、烏の妖怪は心配そうに見つめていた。

「なんだ?お前さん。このワシに何用だ?ヒック」

近づくと、自分より何十倍大きいのか良くわかる。ゆづるは見上げながら言った。

「あの、道を通してくれませんか」

するとギロっと睨まれる。

「道を通して欲しけりゃ、ワシになにか食わせろ。ワシは腹が減ってんだ。ヒック」

するとゆづるは酒呑童子にまんじゅうを渡した。

「これは小豆洗いさんから貰ったまんじゅうです。これで通してはいただけませんか?」

その様子に皆は驚いた。

あんなでかい妖怪がまんじゅうごときに満足するわけがない。と

酒呑童子は大笑いしながらゆづるからまんじゅうを受け取った。

「こんなまんじゅう、小さすぎて味がわからんに決まっておるわ」

「いいえ、これはあずきの良さが詰まったまんじゅうです。僕が保証します。

もし、口に合わなかったら僕を食べてください。」

ざわざわと周りが騒ぎ出した。

「なんて奴だ。」

「見ちゃいられねぇ」

口々に言う中、ゆづる本人は目をキュッとつむり、体を震わせていた。本人が1番怖いのだ。

ゆづるが真剣に言うものなので酒呑童子はまんじゅうを大きな口に放り込んだ。

くちゃくちゃと口を動かし味わっていると急に動きが止まった。

だめだ、食われちまう……

周りがそう思った瞬間

「うめぇ!こりゃうめぇ!こんなまんじゅう食ったことねぇ!」

酒呑童子が急に立ち上がり、大声で笑い出した。顔の赤らみが取れて、完全にお酒が抜けたようだ。

「でしょ。 僕も食べた時同じこと思いました。」

ゆづるはニコッと笑って答える。

「坊主、お前さんいい根性しちょる。このワシに話しかけるなんざよ」

酒呑童子はわしゃわしゃとゆづるの頭を撫でるので鉄鼠と似てるなと思っていると、急に妖怪達に視線を向けた。

「それに比べてお前さんらはそこでヒソヒソと固まりおって…。ちっとはこの坊主を見習え!自分から進んで来た坊主をな!」

酒呑童子は鬼なだけに鬼の形相で怒鳴り出した。

「い、いいよ!みんな怖かったんだし、」

僕もビビったし…

「まぁいい、約束通り道を開けよう。悪かったな坊主。」

ドスドスと音を立てながら塞がれていた道が空いた。皆は歓喜を上げながら道をぞろぞろと通って行く。

「まったく身勝手な奴らよ。」

腕を組みながら酒呑童子は言うと

向こうから鬼の面をした酒呑童子より小さい妖が走ってきた。

「お頭!!何してるんですか!?

あれほど飲み過ぎないように言ったのに。」

鬼の面は大きな酒呑童子に向かって怖くないのかたんたんと会話をしだした。

「ガハハハ。いゃぁ~すまんすまん。」

「全く…目を離したらすぐこれだから…」

大きくため息をつくとゆづるの方を向き急に頭を下げた。

「我は茨木童子と申します。うちのお頭が多大なご迷惑を。本当に申し訳ない。」

「え!?い、いえそんな!お腹がすいてらしたそうなので…」

確かに騒ぎは大きかった。だが本当なら食べ物を渡せば済むだけの話なのに恐ろしいと言うだけでこちら側が勝手に騒ぎを大きくしまったのだ。

「お頭!酔っていることを理由に騒ぎを起こさないでほしいとあれほど…お酒も没収です!」

茨木童子は酒呑童子の行動はいつものことなのか手つきが慣れたように酒呑童子が持っていたひょうたんを取り上げる。

あの大きなひょうたんを片手で抱えるとはたい相当力持ちなのだろう。

酒を取られた酒呑童子は「酷いのぉ」と呟いた。

完全に蚊帳の外になったゆづるはどうすればいいか分からず立ち止まってしまう。

すると鬼の面は酒呑童子とひと段落着いたのか、またゆづるに体をむけた。

「して、君の名前は?」

「ぼ、僕ははゆづ・・・じゃない!座敷童子です。」

「座敷童子殿か。またお会い出来る日を楽しみにしています。」

「おぅ。じゃあな、座敷童子の坊主」

酒呑童子は大きく手を振ったので、ゆづるも負けずと大きく手を振り返す。酒呑童子は大きくて怖い鬼だったけど内心はいい鬼だとゆづるは思い、『福呼び食堂』に向かって歩き出した。

ゆづるは夢を見ていた。遠い昔の記憶…ゆづるの見た夢とは...?

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