二十六話 風の物語
ネコとカマイタチは針女の情報集めに。
そこに金魚が現れて…
「福呼び食堂」前で何やら声がする。
「あんたぁ、ちゃんてしごとしとるんかぁ?」
「失礼な!ちゃんとしてるでありんすよ!」
「ほんまかいなぁ…」
「に、にゃにおう…」
日が昇って少し時間がたった頃、店の外ではネコと姉の猫叉が言い争っていた。
清々しい朝のはずなのにギスギスした空気が漂う。
「と、止めた方がいいのかな…」
朝早く目が覚めたゆづるはギスギスした朝の光景につい固まってしまった。
「ありぁ、長くなりそうだねぇ」
口裂け女が、困ったように呟きながら歩いてきた。
「おはようございます。口裂けさん。」
「おはようさん。偉いことになってるねぇ」
「止めた方がいいですか?」
「いんや、あれはいつものことだからほっとけば収まるよ」
ゆづるは「そうなんですね」と言い、2人の喧嘩を見守りながら、口裂け女は野菜や魚の下準備、ゆづるは台や床の掃除をし、朝の開店準備を始めた。
「猫又さんとネコさんって仲良いですよね。」
「そうだねぇ、喧嘩するほど仲が良いってやつだね。」
ふふふと話をしていると一旦落ち着いたのかネコが険しい顔をしながら帰ってくるやいなやゆづるの頭に顎を乗せて抱きついてきた。
「ゆうちゃん聞いてほしいでありんす。
姐上ときたらアチキは仕事をしてないっていうんでありんすよ。酷いでありんす」
「え……う、うん。大変でしたね。」
「ゆうちゃん、え、って何でありんすか。え、って」
「ネコ!ゆづるの仕事を手伝ってやんな!
そういうところがあるから猫叉さんに心配されるんだよ」
ネコはうっ…と自覚したのかすぐにほうきを持って床の掃除を始める。
パタパタと掃除を始めてもあっという間に開店時間になっていた。
口裂け女は店ののれんを付けようと外に出ようとした瞬間、ガタガタと強い風が戸を叩いた。
「風が強いですね。」
「おかしいねぇ。今日は快晴のはずだけど…」
もう一度口裂け女は心配そうに戸を開けてみたが、そこには雲ひとつもない空で正しく快晴だ。
先程の強い風は吹いていなかった。
「変なことも起きるもんだねぇ」
「そうですね…」
ゆづると口裂け女がそう話していると、何故かネコだけはじっと外を見つめた。
厄介なことが起きるなと呟きながら。
「さ!今日もちゃっちゃと稼ぐよ!
ネコも猫又様に汚名返上するためにビシバシ働きな!」
「はい!」
「は~い…でありんす。」
食堂所『福呼び食堂』今日も開店です。
開店したと同時にいつもの常連客を入れ、和気あいあいと営業していた。
窮鼠や鉄鼠、最近は酒呑童子も来るようになり、口裂け女は酒のヘリの速さに悩んでいた。
「酒呑童子さん、もう少しお酒控えなさったらどうです?」
「なぁにを言う。酒呑童子の名にかけて酒を飲まん訳にはいかんわい。ガハハハ」
「相変わらず呑兵衛やなぁ…」
「窮鼠、その串焼き俺のだろ!?」
窮鼠は横取りした串焼きを食べながら、いつも通り雑学の本を広げていると、強い風が店の中に入ってきた。
「お、ページが飛んでしもうた。どこまで読んだかわからんなったわ」
「日頃の行いが悪いからついに天罰が来たな」
「随分地味な天罰だな」
「ホンマにな。そや!そういやこの前鉄鼠が勘違いした話をしたろ。これはおもろいでぇ~。」
「なっ、うるせぃ!ほっとけ!」
恥ずかしくなった鉄鼠は近くにあった酒を一気に飲み干す。
「あ、鉄鼠の旦那それ酒呑童子の旦那の酒でありんすよ」
ネコが止めた時には遅く鉄鼠はもう出来上がっていた。
「うるしぇ!いつもいつも窮鼠にからかわれて…酒を飲まにゃやってられねぇ!うぉぉぉぉん」
鉄鼠は号泣しながら台に崩れ落ちる。
「泣き上戸か…面倒な事になったのぅ」
「窮鼠さん、鉄鼠さんをからかうのをやめてあげてください。」
「えぇ~反応面白いんやもん〜。」
こりゃダメだと思ったゆづるは泣き崩れた鉄鼠に水を持って行った。
「鉄鼠さん、お水飲めますか?」
「ぐすっ、ゆづは優しいなぁ、あの糸目野郎とは大違いだ」
「ぶっ!糸目…野郎!にゃはははっ!」
「ネコ、静かにおし…ぷぷっ…」
「ガハハハ、確かに糸目よのぉ」
「えっと…そんなに笑ったら…」
鉄鼠は一気に水を流し込みジロっと窮鼠を睨む中、店の中は糸目野郎発言に笑いの渦が止まらなくなっていた。ゆづるは恐る恐る窮鼠の方を向くとそこには笑っているが目が完全に笑ってない鼠がいる。完全に怒っているのが幼いゆづるでもわかるほどだった。
「のう、ゆづ。鍋をもってくれんか?」
「……なんでですか?…」
「いやな、ちと食いたいなぁって…鼠鍋を」
「鉄鼠さん、今すぐ謝って!じゃないと共食いされちゃうよ!」
ゆづるが振り向いた時には遅く鉄鼠は完全に熟睡してしまっていた。窮鼠は拳をパキパキ鳴らしながら笑っておりこれは終わったと確信づいた瞬間、また強い風が店の中に入って来たと同時に誰かが入ってきた。
「よぉ、邪魔すんぜ!化けネコはいるか?」
妖怪は成人男性より少し小さめの白いイタチで
特徴のある柄が付いている長めの赤いマフラーをしていた。
「あ、いらっしゃい。ちょいと待ってくんな。ネコ!アンタにお客さんだよ!」
口裂け女は挨拶し、ネコに訪ねると
ちょうど窮鼠に胸ぐら掴まれていた。
「のぉ、ネコ。笑いすぎは体に毒やでェ?
健康に効く頭のツボを押したらんとなぁ?」
「旦那!旦那!違う!それげんこつの構え!!ぎやあぁぁぁぁ!」
ゴンッ!
「いっだぁぁぁぁ!」
ネコは叫び声と共にその場に頭を抱えながら倒れ込んだ。
「相変わらずお気楽な奴だな。アホネコ」
「その声はカマイタチ!何しに来たでありんすか!?」
「お前、こんな所で働いてるのか。
随分と落ちぶれたな!」
「無視するな!それと余計なお世話でありんす。」
「それはどうでも良いとして、仕事だ。手伝え。」
「あ?」
カマイタチと呼ばれた妖怪はネコに近づくと持ってた壺を渡す。
とても大きな壺だったので受け取ったネコはよろよろとよろめいてしまうほどだ。
「はぁ?アチキはもう辞めたから関係ないでありんす。てかなんでありんすかこの壺は!?」
「俺もお前には頼みたくない、が!
大将絡みだから諦めろ」
「はぁぁぁ?あの大将またやらかしたでありんすか?」
ネコは服を着ていてもわかるぐらい毛を逆立てながら怒鳴ると対照的にカマイタチは大きなため息をつく。
しかし、ゆづるや他の妖怪たちは何が何だか分からず首を傾げたままだ。
「あ、あの一体なんの話を…?」
ゆづるは思い切ってカマイタチとネコに尋ねると会話はいたん途切れた。
「なんだ、このチビ?」
「ち、チビ!?」
あまりにも真正面な言葉にゆづるはかたまってしまったがネコはすぐさま前線に出てた。
「この子はチビじゃなくて、ゆうちゃ…じゃなかった。座敷童子でありんすよ!
アチキの弟子でありんす!
座敷童子、こいつはカマイタチ。風を操れる妖怪でありんす。」
「あ?座敷童子だぁ?それたにしちゃぁデカくないか?俺が知ってる座敷わらしはもっと小さかったぞ。」
鋭い目つきで睨みながら疑うのでより一層恐怖が募っていく。
それを感じたのか、口裂け女が口を開いた。
「この子の出身でははこれが普通なんだ。」
「……まぁ、そういうことにしといてやろう。それより本題だ。」
あまり納得してそうでなかったが、何とか誤魔化せたようだ。
カマイタチはよいしょと近くにあった椅子に腰掛けると懐から1枚の紙を取り出し広げて見せる。紙に描かれていたのは黒髪の長い女性だ。
「俺はこの妖怪を探している。まだ聞き込み途中だが、この近くにいると噂を耳にしてな。」
ネコは渡された壺を一旦座卓の上に置き、紙をじっと見つめた。
「誰でありんすか?この妖怪」
「知らんから探してるんだよ!馬鹿野郎!」
バンと座卓を叩くと置いていた壺が揺らぐ。
すかさずゆづるが壺を抑えたため落ちることは無かった。
「あぶねぇじゃねぇか!割れたらどうする!」
「おめぇが座卓を叩くからでありんすよ!?」
走行言い争ってる中、今度は口裂け女が紙を覗いた。
「…この女性…針女じゃないかい?」
「知ってんのか?姉ちゃん。」
「あぁ、確かもうここら辺には居ないずだよ?」
「おいおい…嘘だろ…」
カマイタチは溜息をつきながら今度は座り込んでしまった。なんとも騒がしい妖怪だ
「なぁ、そろそろ教えるでありんす。この壺と針女を探す理由を」
ネコがカマイタチに問いただすとカマイタチはゆっくりと口を開いた。
「…煙羅煙羅の野郎がその針女に大事な煙管を渡したらしいんだよ!」
「はぁぁぁ!?馬鹿じゃないでありんすか?あの煙野郎!?じゃあ、この壺はもしかして…」
「…煙羅煙羅の野郎だよ…煙管がないから姿を保てなくて壺に入ってんだよ。」
溜息をつきながら答えるとコンコンとツボを鳴らす。それに応えてか壺はカタカタと揺れだした。
「ねぇ、ネコさんどういうこと?」
「煙羅煙羅は煙の妖怪でありんす。だから煙を出す煙管が無いと姿が保てず消えてしまうからそうならないように今は壺に入れられてるんでありんすよ。」
そうなんだとゆづるが感心していると口裂け女が口を開いた。
「何はともあれアタシ達は何も知らないよ。商売の邪魔だから他を当たってくれないかい?」
「…それはすまなかった。じゃあ、このバカネコを借りてもいいか?」
「好きにしな。」
「ち、ちょ!姉御!?」
そしてネコは壺を背負ったカマイタチにズルズルと引きずられながら店から出ていってしまった。ネコさん…がんばれ!とゆづるは小さく心の中で呟き、隣でこのことに気づかずどんちゃん騒ぎをしている窮鼠たちの後始末をどうしようかと考えたのだった。




