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二十四話 賭けの物語

「あ、アンタが山ン本五郎左衛門か?」

針女が尋ねると目の前の男は静かに口を開いた。

「…いかにも拙者が山ン本五郎左衛門だ。」

「やっと見つけた。椿、さっさと聞いて帰ろう。」

何故か椿は近づことする針女の手を引き止め、男に尋ねる。

「貴方、本当に山ン本五郎左衛門さん?」

「何言ってるんだ?こいつはさっきそうだと言っていただろう。」

確かにそうだろう。しかし椿には疑問があった。

「でも、覚様は彼は慎重な妖怪でとても身だしなみに気を使うと言っていたわ。」

「それに比べて貴方は随分と着物を着崩してる。そして何より『木槌』を持っていない。」

「き、木槌?でもあれは…」

すると椿は男の後ろにいた武士を指さす。

その男は目の前の男とは対照的にキッチリと着物を着ており腰には木槌をぶら下げていた。

「本当は貴方が山ン本五郎左衛門さんじゃないですか?」

「いかない…いかないんだ…」

「え?」

その瞬間男の様子が変わり急に暴れ始めた。

「俺は負ける訳にはいかないんだァァァ!!」

正気を失った男がこちらに向き飛びかかってきた。椿はもうダメだと針女と共に目を瞑ったが、攻撃されることは無かった。

「やめなさい雑魚。お前の負けだ。」

「や、山ン本五郎左衛門様…ど、どうかお助け…お助けを…」

暴れた男を止めたのは椿が山ン本五郎左衛門だろうと指さした武士だった。

その言葉から聞くにその男こそが山ン本五郎左衛門なのだろう。

「すぐに怖気付くとは…だからお前は雑魚なんですよ。約束通り、私の元で一生働いてもらいましょうか。」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

山ン本五郎左衛門は抵抗する男の首根っこをつかみズルズルと屋敷の奥に向かって歩き始めた。

「待ってください。」

椿が引き止めると山ン本五郎左衛門は足を止める。

「おや、嬢さん。先程の貴方の観察力、拙者大変感服いたしました。しかし、ここは貴方のような方がいる所じゃありませんよ。拙者の気が変わらない内に早くお帰りなさい。」

「私、あなたに聞きたいことがあるんです。」

「聞きたいこと?拙者に?」

「はい。」

「…タダで教えるのですか?」

山ン本五郎左衛門の表情が変わった。しかし、椿はその理由は何となくわかっていたが先程のやり取りで確信に変わる。

この山ン本五郎左衛門という男は賭け事が好きなのだ。

「いえ、貴女の好きな賭けをしましょう。」

「椿!何言ってるんだ!?馬鹿なことはやめろ!」

針女が椿の腕を掴んで止めるが時すでに遅し。

山ン本五郎左衛門は笑いだした。

「フフフッ…ハハハッ!!面白い。気が変わりました。で、賭けるものは?」

「私自身です。その代わり私が勝てば質問に答えてください。」

「…いいでしょう。あの雑魚より楽しい賭けになりそうだ。命拾いしましたね、ここから立ち去れ。」

掴んでいた男の首根っこを離すと、すぐさま男は出口へと悲鳴と共に逃げていく。

「では、こういうのはどうでしょう。私は今からあなたを怖がらせます。貴方が怖がらなければ勝ち。怖がれば拙者の勝ち。どうですか?」

山ン本五郎左衛門が提案すると椿は「分かりました」と了承した。

「椿…本当に大丈夫なのか?」

「うん。羽衣様のことを知るためだから…針女さんは危ないから離れてて。」

「…あ…あぁ。」

針女は言われた通り椿から離れたが遠くでも分かるぐらい椿の手は微かに震えていた。あの魔王と呼ばれる山ン本五郎左衛門と賭け事とはいえやり合うのだ。恐れてしまうのは無理もない。

「最初でそんなに震えて大丈夫ですか?では行きますよ。」

その言葉を合図に山ン本五郎左衛門の周りは黒い霧に包まれる。何が来ても恐れない。そう決めた椿だが現れた姿を見て驚愕した。

「…っ!?」

「実は拙者、相手が何が怖いかがわかる故あまり直ぐに怖がられると困ります。」

そこにいたのは現世で椿をいじめていた女子高生の姿だった。それを見た椿はまるで糸で締められてるかのように固まり目は少し曇ってしまう。

「おい!それってイカサマじゃないか!?反則だ!」

「ここでは拙者が全て。反則もクソもありませんよ。しかし、お嬢さんはこんな女性が怖いのですね。不思議です。」

怖い。逃げたい。そんな感情が椿を覆い尽くす。

今までの嫌な記憶がフラッシュバックし、頭が痛くなる。

「怖かったら怖いと言っていいんですよ?」

山ン本五郎左衛門は煽るよう言いながら1歩1歩椿に近づく。椿は後ろに下がろうとしたがそうすれば怖がったと判断されかねない。椿の顔が徐々に引き攣っていき喉からもう悲鳴が出そう。そう感じた瞬間後ろから大きな声がした。

「椿!大丈夫だ!私が居る!お前は1人じゃないぞ!それに羽衣様を助けたいんだろ!こんな所で負けんじゃねぇ!」

「針女…。」

後ろに目を向けると針女は離れながらも大声で声援を送っていた。

それを聞いた山ン本五郎左衛門は「馬鹿なことを」と言っていたが椿にとってその言葉は心を落ち着かせるには十分だった。

そう…私は前と違う。自分を嫌う自分じゃない。

椿は再び前を向いた。

「怖くありません…。もう昔の私と違う…!私は…貴方なんか怖くない!!!」

椿は今までとは比べ物にならないほどの大声で叫ぶ。その声に驚いたのか近づいてきていた山ン本五郎左衛門の足がビクッと止まった。

椿の目にはもう曇りはない。

「…何故だ…お前にとってこの姿は一番恐ろしい筈だ…!何故恐れない!?」

「今さっき、怖くなくなったので。約束です。質問に答えてください。」

椿はニコッと笑いながら答えると山ン本五郎左衛門は溜息をつきながら床にあぐらをかいた。

「約束は守る。さぁ、何が聞きたいのですか?」

「羽衣様の事です。どうして「羽織り」を始めたのか知りたいんです。」

それを聞くと山ン本五郎左衛門は再び黒い霧に包まれたと思ったら元の武士の姿に戻った。

「大昔、玉藻の前はある人間に恋をした。もちろん妖怪とバレないために人間に化けて。そして長い年月が過ぎ2人はついに恋仲になった。」

「いい話じゃないか。恋仲になったんだろ?」

針女が間に入ると「話は最後まで聞きなさい。」と山ン本五郎左衛門が言う。

「人間と恋仲となった玉藻の前はついに本当の姿を見せようと決心した。種族は違えど愛し合いたかったのでしょう。」

「見せてどうなったの?」

「…「醜い」と幻滅されたそうです。」

「酷い……」

「あぁ、人間はそういうものです。妖怪は醜く映るのでしょう。幻滅された玉藻の前は嫌われたくないあまり人間に化け続けました。しかし、化けるの限界が来た玉藻の前はついには美しい娘を見つけては殺め、その娘を羽織り男のそばに居た。」

椿も最初はその場面…「羽織り」に出くわしたのでそのことは知っている。

針女はだからかと謎が繋がっていく。

「でも人間には寿命があり、いつしか男は亡くなってしまった。それでも玉藻の前はその人間のために今でも美しい娘を見つけては殺めて羽織ることを繰り返しているという事です。」

ということは長い事娘狩りを続けていたということになる。つまり羽衣の元の姿を嫌う理由は愛していた人間の言葉による影響だと分かった。

「教えて下さりありがとうございました。山ン本五郎左衛門さん」

「いえいえ。お役に立てて何より。」

山ン本五郎左衛門は先程とは違いニコリと笑う。

「はいはい。話は聞き終わったし、さっさと帰るぞ椿。こんな気味が悪い屋敷から早く出よう。」

針女がポンと肩に手を置き、出口に向かって指指した。

「気味が悪いとは失礼な方ですね。ここは拙者のお気に入りの屋敷ですよ。」

「ハハッ…すみません。ではここでお暇させていただきます。」

椿がお辞儀をし、針女と一緒に出口に向かおうとした時、山ン本五郎左衛門に呼び止められた。

「お嬢さん。貴方にいいものをあげましょう。」

「いいもの?」

「拙者、あなたが気に入りました。もし何かあればこの木槌を振りなさい。そうすれば拙者が助けに来てあげましょう。」

「は、はぁ…」

椿は木槌を受け取ると制服のポケットにしまった。

「ありがとう。なにかあったらね。」

「じゃあ、帰ろう椿。」

「えぇ。」

そうして椿と針女は離の屋敷を後にして狐の宮に向かった。

しかし、まだ椿たちは狐の宮が大変なことになっていることをまだ知らない。


狐の宮に戻ると騒ぎが…一体何が?

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