二話 はじめましての物語
鳥のさえずりでゆづるは目が覚めた。
周りを見渡せば森から和室に変わっていることに状況が理解出来なかった。
「やっとお目覚めかい?人間。」
ゆづるの目の前には包丁と鍋を持つ口が裂けた女性がいた。
ゆづるは一瞬ヒッと驚いたが女性は続けた。
「起きたんなら、さっさと着替えな。朝飯が覚めちまう。」
「え、あの、ここは…」
「つべこべ言わずそこの着物を着て降りてきな!」
「え、あ、はい!」
口裂け女はドカドカと階段を降りていった。
ゆづるは言われた通り近くにあった紺の着物に袖を通した。幸いなことに里帰りした時におばあちゃんに着付けを教わったおかげですぐ着ることが出来た。
階段をすぐに降りていくといい匂いが鼻を誘う。
「支度が早いねぇ、感心したよ。
ほら、さっさと食べな。」
台を見渡すとそこには焼き魚や味噌汁、卵焼きなど和食の朝ごはんが並んでいた。
ゆづるは椅子に座り、いただきます。と朝食を食べようとした途端、後から何やら声が聞こえてきた。
ゆづるが振り向くと目の前にはおどろおどろしい顔の化け物が立っていたのだ。
「……お前が人間か……食ってやろうかぁぁぁぁ!」
「っ---!!!??!!」
ゆづるはあまりの恐ろしさに声もです椅子から落ちてしまった。
「ぷぷっ、にゃははははは!
こりゃ、傑作でありんす!こんなに驚くなんて! にゃはは!お腹痛いぃぃぃ」
「この馬鹿!」
「痛っ!」
口裂け女は大笑いする化け物にゲンコツを落とすとその化け物は呆気なくその場に頭を抱えながら倒れ込んだ。
「あんたって奴は朝っぱらから馬鹿なことするんじゃないよ!」
「だからって、ゲンコツじゃなくてもいいじゃないでありんしょう!?口裂けの姉御」
ゆづるは何が何だか分からず、ただただその場に立ち尽くすことしか出来ない
「悪いねぇ、驚かせて。ほらネコ!
あんたはその気色悪いの取りな!」
「分かったでありんすよ!もう…
せっかくいい出来だったに…」
ごもっともでと思いながらゆづるはもう一度椅子に腰掛けた。
「ちなみにこれは無茶苦茶怒った時の鬼の面でありんす!」
「そんな説明いらないから、さっさと取りな!」
「へ~い……」
化け物はぶーぶーいいながらも仮面やら、服を脱いでいった。
その姿は三毛だろう猫が普通ではありえない二足歩行で立っている。ゆづるはあまりの出来事に理解が追いつかない。口裂け女はやれやれと肩をなで下ろした。
「こんなことで、驚いてたらこの先ぽっくりいっちまうよ?」
「ささっ、朝飯を頂くでありんす!」
そう言い三毛猫と口が裂けた女性は黙々と朝食を食べる中ゆづるはなかなか橋を動かせなくいた。
「なんだい?毒なんて入ってないよ。」
「は、はい。すみません。あの…ここは?」
「あぁ、紹介が送れたね。アタシは口裂け女、こいつは化け猫、アタシ達はネコと呼んでる。」
口裂け女は猫を指さし答える。
「そしてここは『福呼び食堂』。アタシの店だよ。アンタは?」
「僕は…ゆづる。神崎ゆづるです。」
「ゆづる…いい名前だ。いいかい。今日からアンタはここの従業員だ。ビシバシ働いて貰うからね。」
「えっ?」
急なことに固まってしまった。働く?僕が?何故?
ゆづるはハテナだらけの頭を何とか整理しようとフル回転し出した答えは。
「あの、僕帰ります。助けて頂きありがとうございました。朝ごはんも美味しかったです。じゃあ!」
「待ちな!アンタどうやって帰るんだい?どうやってきたか分からないのに帰れるのかい?」
「あっ…」
確かにそうだ。自分は青い蝶に連れられて来ただけ。帰り方は分からないのだ。
「そう言う事でありんす。ここは大人しく言うことを聞くのが賢明でありんすよ?」
猫は焼き魚をパクッと食べながら言う。
「それに、もしかしたらあんたの言う青い蝶を知ってるやつが客としてくるかもしれないだろ?悪い話じゃないはずだ。」
確かにそうだ。もしかしたら帰る方法が分かるかもしれない。
ゆづるはネコと口裂け女に目を向けた。
「「今日からよろしく。ゆづる。」」
「……はい。よろしくお願いします。」
自分は無事帰れるだろうか。そう心配しながらもゆづるの物語は始まったばかりであった。
食堂で働く事になったゆづる。初めての仕事はおつかい。しかしその道中トラブルが!!一体どうなるのか…